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吉祥寺サバイバル Ⅱ 対数期(log phase)Ⅱ-3 信仰心 20XY年3月

 翌朝6時過ぎ、日高は空腹で目が覚めた。夕飯も食べずに寝てしまったのだ。目覚ましのセットも忘れていた。テレビやネットの状況は昨日と変化はない。スマホも着信記録は皆無だった。

 目玉焼きとソーセージ、茹でたブロッコリーで朝食を済ました。入手したいものは、ドアをこじ開けるためのバールと抗生物質である。今日は時間がかかる可能性が高い。朝食に伴いそこで、おにぎりを2個作った。水筒に水を入れ、これらをリュックに入れた。

武蔵野八幡宮

 今回は自転車を利用した。下宿を出て、五日市街道を駅に向かう。四つ角に差しかかり、「武蔵野八幡宮」に気が付いた。正月は実家の銚子市で過ごす。帰宅する途中で、毎年参拝していたのだ。自転車を止め、中に入った。左側に龍の口から水が出る手水がある。そこで手を清め、八幡宮の前まで来た。「再拝二拍手一拝」に続いて、自己紹介をした。例年であれば、「家族と自分の健康、研究の進捗」をお祈りする。今回は「人間が溢れるもとの世界に戻してほしい」と祈った。意味のなくなった財布から、1万円を賽銭箱に入れた。

末日聖徒イエス・キリスト教会

 近くに「末日聖徒イエス・キリスト教会」があることを思い出し、向かった。ここでも手を合わし、先と同じことを祈った。ユダヤ教からイスラム教とキリスト教が誕生している。すべて同じ神である。

 五日市街道に戻り、渡る前に左右をチェックした。車など全く来ないのに、身体が自然に反応していることに苦笑したものだ。調べておいた工務店を発見した。表は閉まっていたが、裏に回ると小屋があり、道具類が整然と整理されていた。壁に道具のイラストがあり、どこにかければよいか一目でわかる。とりあえず、大小のバールを拝借することにした。

 続いて、個人の病院を訪れた。表も裏も閉まっていたが、裏の扉をバールでこじ開けた。中に入って、抗生物質を調べた。医者が注射を打った状態で亡くなっていた。手を合わせて冥福を祈った。冷蔵庫にそれらしいものを数種類見つけたため、注射器とともに持ち出した。考えていたより短時間で目的物を入手できた。

月窓寺

 少し気をよくして、サンロードを調査することにした。五日市街道から入ってすぐ近く、西友の正面に「月窓寺」があった。日高の家は仏教だが、宗派は分からない。門が閉じられていたので、外から手を合わせて、「一人では寂し過ぎる支えてくれる存在が欲しい」と祈った。

 西友の正面玄関のガラスドアはバールを寄せ付けなかった。左手の地下に降りると床屋の「QBネット」があり、扉は開いていた。バックヤードに入って、大型冷蔵庫を調べると多くの食材を発見できた。やや大きめだったが、カットしてあった牛肉をリックに入れた。 

ペットショップ

 自転車を押しながら、さらにサンロードを駅まで向かうと、ペットショップを発見した。日高を認めた犬が大きな声で「助けてくれ」と鳴くのが分かった。少し先には「犬カフェ」があり、人の気配を感じた犬たちが騒いでいるのが分かった。

 日高は気が付いた。彼らをすべて助けることはできないが、1匹を友として迎えよう。ペットショップのドアをバールでドアをこじ開け、白い子犬を餌とリード線とともに引き取った。月窓寺で願ったことがかなったといえる。空腹に気づいて、おにぎりを食べた。子犬も久しぶりに食べられた餌に喜んでいた。この場所はずいぶん焦げ臭い。ハモニカ横丁を含む周囲の火事はすでに鎮火していた。それでも、まだそこここでくすぶっているためだろう。

五大宗教の特徴

 世界の五大宗教は前述のユダヤ教、イスラム教、キリスト教、仏教に、ヒンドゥ教が加わる。宗教は人々の心を安らかにするため、存在する。しかし、世の中はうまくいかないことが多い。その理由は「悪魔」の存在である。神や仏の行いを妨害することが、彼ら悪魔の所業なのである。

 日高は気が付いた。自分が生かされている理由についてである。悪魔により、選抜された訳がない。彼らの攻撃を、神々や仏様が守ってくれたに違いない。そうであれば、行うべき使命があるはずだ。「人間が溢れるもとの世界に戻す」ことである。

 日高は「信仰心」の厚い人間ではない。それは本人がしっかり自覚していることである。そうであっても、選ばれたからには全力で戦っていこう。
*食品なんでも相談所 横山技術士事務所
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