熊谷直実(くまがいなおざね)と玉都留姫(たまつるひめ) その4(全4回)


そのお坊さんの額には、ほくろがあったんだ。
「はい、私は善光寺の修行僧の蓮生坊(れんしょうぼう)と言います。病人を抱えてどちらから来られたのですか?」
「はい、私たちは父を探して武蔵の国からまいりました。病人の妹は玉都留(たまつる)、私は千代鶴(ちよつる)と申します。」
蓮生坊の胸は、ドキンと鳴ったんだ。そうさ、熊谷直実(くまがいなおざね)だったんだ。二人の父上だったんだよ。
「失礼ではございますが、もしや貴方さまは熊谷直実ではございませぬか?」
千代鶴姫がよくよく蓮生坊の顔を見ると面長で額の真ん中には、ほくろがあって、肩幅の広い人だったからなんだよ。それに玉都留姫とよく似ていたんだ。
「いいえ。それは人違いでございます。さぁ、間もなく医者が来ましょう」
蓮生坊はね、娘二人を前にして、本当のことを言いたかったんだ。出家とはね、お坊さんになるには、お嫁さんも子供も捨ててお坊さんにならなくちゃいけなかったんだ。本当のことを言ってはいけなかったんだね。その時苦しそうに玉都留姫が囁いた(ささやいた)んだよ。
「お父上ですね。ここでお会いできて、嬉しゅうございます。玉都留でございます。お父上、死ぬ前にこうして、、、」
「おぉ、玉都留よ。しっかりするのじゃ。間もなく医者が来る。おぉ、おぉ玉都留よ。死んではならぬ。しっかりするのじゃ。」
玉都留は息も絶えだえだったよ。蓮生坊はね、玉都留姫の手をしっかりと握ったんだよ。玉都留姫はね、お姉さんの千代鶴姫と父上の蓮生坊とに、固く手を握ってもらいながら、静に息を引き取っていってしまったんだ。

蓮生坊はね、千代鶴姫と一緒に玉都留姫を丁寧に葬って(ほうむって)、塚を築いてね。そこに一本の欅(けやき)の木を植えたんだよ。

長野市、荒木姫塚(あらきひめづか)の欅(けやき)の木はね、熊谷直実の娘、玉都留姫の供養(くよう)のために、こうして植えられたものなんだね。

これで、おしまい。
とぉーっても長かったけど、最後まで読んでくれて、ありがとう。
お休み、ポン!

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