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せとのもの祭の雨(その2 全3回)

「こう毎日来られてもな。他国者には秘伝を教えることはどうしてもできん。だがな、家の娘と一緒にならんかね。そうすれば、家の婿むこになるからの。秘伝を教えることもゆるされるというもんじゃ」
「はい、ぜひとも」
ためきちは胸の中で瀬戸で待っているお嫁さんや子供にあやまったよ。どうしてもその焼き方を知りたい一心いっしんだったんだ。
その日から民吉は熱心に修業をつんでいったんだ。3年もたつと白くてつやつやとした器が焼けるようになったよ。棒で軽くたたいてみると、ちん、ちんといい音がする。
「腕のいい婿がきてくれてこれで安心じゃ。すっかり焼き方も覚えてくれたしな」
家の主人もお嫁さんも民吉を信じていたよ。
ある日、民吉は夢を見たんだ。
「父ちゃん、母ちゃんが泣いてる、どこへ行ったの?早く帰ってきて」
娘が涙をためて両手を伸ばしていた。民吉は娘とお嫁さんに会いたくなってしまったんだ。けれど、今更いまさら主人やここのお嫁さんにはそんな話はできやしないよ。
でもね、民吉はすっかり焼き方を覚えたんで瀬戸の町に帰ろうと決めたんだ。月のない夜にね、御礼の言葉を書いた手紙を置いて、こっそり天草の家を出て瀬戸の町へと帰って行ったんだ。
「あれ、あんた、生きていたんだね。3年も手紙一つないからてっきり死んだんだと思ってたよ」
八つになった娘は、あの夢に出てきたように両手を広げて抱きついてきたんだ。
「おとうちゃん、お父ちゃん」
民吉は次の日からさっそく天草で覚えた焼き物を作り始めたよ。前に焼いていた瀬戸の焼き物とは違って手触りが良くて、白くて光る磁器という焼き物だったから、民吉のかまはたちまち評判ひょうばんになったよ。民吉はしみなくその焼き方をみなに教えていったんだ。お役人までが手助けをしてくれたんで、瀬戸中の焼き物はこの磁器が作られるようになっていったよ。

今日はここまで、読んでくれてありがとう!いよいよ明日は最終回!お休み、ポン!

#瀬戸物 #加藤民吉

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