織田信長(おだのぶなが)と蘇鉄(そてつ)の木 その2(全2回)


蘇鉄が安土城(あづちじょう)に植えられたその夜、信長はしくしく泣く声で目が覚めた。耳を澄ましてみると、どうやら外から聞こえてくる。信長は庭へ出てその泣き声をたよりに歩いていったんだ。すると、それは植えたばかりのあの庭木だった。よおく聞いてみると、「堺ぃ、堺ぃ、、、」と言いながらしくしく泣いているではないか。
「植木の分際(ぶんざい)で何をぬかす。ここに植え替えたわしの庭がいやだと嘆くとは不埒千万(ふらちせんばん)」
と信長は怒鳴りつけた。けれどもね、それからも毎夜庭木はしくしくしくしく泣き続けていたんだ。
「えぇーい、うるさい。明日この庭木を切り倒してしまえ」
と信長はいらいらしながら言ったんだ。

次の日植木職人が来て、斧(おの)をふるって木を切ってみたんだ。ところがね、斧は岩を打ったようにどんと跳ね返されて植木職人まで一緒に倒れてしまったんだ。他の職人に変わっても皆同じことだった。それを聞いた信長も不気味に思ってねぇ、
「この庭木の願いどおり、堺へ帰してやれ」
と言った。庭木は掘り返されて堺の妙国寺(みょうこくじ)へと戻されて行ったんだ。けれどね、何度も掘り返されてしまったせいか、この庭木は枯れてしまった。妙国寺の和尚さんの日珖師(にちこうし)はね、哀れに思って生き返るための蘇生の呪文(そせいのじゅもん)を唱えてあげたんだ。そしたらね、不思議なことが起きた。天と大地が激しく揺れ出して、庭木の霊(れい)がスーッと現れてきた。
「根元に鉄を埋めてみよ」
と一言言って消えていったんだ。和尚さんはね、早速お寺の前にある鍛冶屋(かじや)に行って鉄くずを運ばせて木の根元に埋めたんだ。するとね、不思議にも庭木は生き返って日に日に元気になっていったんだよ。こんな訳で鉄によって生き返った庭木なんで、この庭木を蘇鉄(そてつ)と名付けたんだって。

今もこの蘇鉄の霊木(れいぼく)にはね、お腹に赤ちゃんのいるママたちが、元気な赤ちゃんが産まれてきますようにと願って木の根元に鉄針(てつばり)をお供えしていくんだそうだよ。するとね、ご利益(ごりやく)をくださるということだよ。

最後まで読んでくれて、ありがとう。
さぁ、おやすみ。ポン。

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