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私の短いジャカルタの夜

世界各国の物書きによるリレーエッセイ企画「日本にいないエッセイストクラブ」。今回のテーマは「夜」、最終ランナーとしてインドネシア在住の武部がお送りします(前回の記事「昭和を探して」はこちら)。
ハッシュタグは #日本にいないエッセイストクラブ 、ぜひメンバー以外の方もお気軽にご参加ください。
過去のラインナップは随時まとめてあるマガジンを!

 夜はほとんど寝ている。夕食を終えて、世間的にはもう完全に夜になったかな、と思うくらいの時間になると私は(これで堂々と睡眠につける)と喜んでベッドにもぐりこむ。だいたい昼間からずっと眠いから、入眠のための音楽や、アロマや、瞑想やら羊やらはまったく必要ない。一瞬で睡眠状態に入る。娘たちは各自NETFLIX鑑賞なり、ビデオコールなり、課題製作なりをする時間。まあ私ももうちょっと夜の時間を楽しめればいいのになとは思うが、眠気には勝てない。年齢的なものもあるだろうが、私はけっこうずいぶん前からこんな調子で「タケベはすぐ寝る」と仲間内では有名である。

 そしてその分早く起きる。ほぼ老人のライフスタイルといえよう。いわゆる朝活として、ジョギングと読書と勉強と料理の仕込みをする。というのは嘘で、ベランダでコーヒーを飲みながら、暗いうちから明るくなるまでの空をぼんやり鑑賞する。合間にTwitterを眺めたりゲームをやったりしていると、2,3時間あっという間に過ぎる。コロナでずっと家族やお手伝いさんと家にいるので、一人になれる静かで貴重な時間だ。

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 朝の話ではない。
 夜はと言えば。
 そう、夜もベランダで空を見てる。夕食後、就寝前のひととき。でもこの場合は一人じゃなくて、16歳の次女とふたりで、おしゃべりをしながら天体観測ぽいことをする習慣になっている。特に満月の前後は、アプリで位置や時間を確認したり、邪魔な雲をふーふー吹き飛ばそうとしたりしながらスタンバイをする。話題は主に彼女の学校のこと、おともだちのこと、バンドンにいるお気に入りのネコ(名前はコジ)のこと。吹き飛ばしきれないほど大きな雲が月や星を隠している時は、私たちは「コジの雲がいるから仕方がないね」とあきらめる(コジは堂々とした体格をしているので、「大きい」と言う代わりに「コジ」という表現を我々は使う)。飛行機とか、向こうの高速道路をヘッドライトが移動する様子とか、風にそよぐ椰子の葉の影とか、下の方を通っている小さい川の水面が外灯で反射してキラキラしている様子とか、空以外にも見るべきものはけっこうある。

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(ベランダからの眺め。iPhoneカメラの限界)

 どう見ても平和な静かな街並みなのだが、デルタ株大流行のピーク時には、救急車のサイレン音が頻繁に夜を引き裂き、そのたびに不安な気持ちにさせられた。感染状況が改善しつつある今は、それがほぼなくなった。まだまだ安心には程遠いけれど。うちのベランダからは隣の病院のコロナ病棟が見えるのだが、光る窓に忙しそうに動き回る人影を見ると私は遠くからありがとう、と感謝の意を送る。

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【おまけ】
私でも夜遊びをすることはある。爆音とジントニックがあれば眠気は(ある程度は)吹き飛ぶ。写真は2014年、ジャカルタにやって来たアメリカのサイケデリック兄弟バンドTonstartssbandht。場所は私の大好きなジャカルタ最古のバー JAYA PUB。

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前座で出ていた幻のバンド It's Different Class

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はー、恋しいなこの雰囲気。

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前回の走者は、ユリ・ゲラーの住むイスラエルはテルアビブに住んでいたがぅちゃん

インドネシアのものだと思ってたArakが出てきてびっくり。Wikipediaで調べてみたら、インド、スリランカ、東南アジアの蒸留酒全般を指すものなんですね。夜の街の雰囲気にきゅんとなる。アルコール飲料を求めて、知らない街を徘徊したい。

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次回は新しいテーマ「服」で、久しぶりに登場、チリのMARIEさんにお願いします!MARIEさんの前回の記事はこちら。

 ルナとレオン、かわいい……♡ うちも飼えたらいいんですけどねー、マンションだし、アレルギーだしで。が、出会いがあったらえいやで飼っちゃいそうな気はする。次回MARIEさんがどんなお話をしてくれるか、イラストつきだったらいいなとか、楽しみです!

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