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ナシゴレンだけじゃないのよインドネシア料理は

世界各国の物書きたちでつないでいく、リレーエッセイ企画「日本にいないエッセイストクラブ」。あっという間にもう4周目!今回のテーマは「お腹が空く話」です。末尾には、前回走者へのコメントと、次回走者の紹介があります。これまでのテーマは、「はじめての」「忘れられない人」「思い出の一品」。マガジンはこちら
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我が家のおうちごはん

今日9月14日からジャカルタでは再度「大規模社会的制限」が強化され、外食ができなくなった。それがいつまで続くかわからないので、先の週末は焼肉、ラーメン、ステーキ、お好み焼きと、たがが外れたように外で食べまくった。メニューのセレクションのセンスがね、我ながら、なんか若いんだけど(照)。

私の場合、こういう時にインドネシア料理は選択肢に入ってこない。なぜならうちにはお手伝いさんがいて、彼女が作ってくれるから。ちなみにトップ写真は、うこん、シャロット、レモングラス、キャンドルナッツ、胡椒、にんにく、生姜、こぶみかんの葉っぱをゴリゴリすりつぶしているところ。これが、みんな大好きソト・アヤム(チキンスープ)になります。

じゃーん!

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スパイスで煮込んでからさいた鶏肉と、春雨、キャベツ、もやし、トマト、ゆで卵、ここに熱々のスープをじゅっと注ぐ。普通のセロリより香りの高いスレドリという野菜と長ネギのみじん切り、揚げたシャロットを散らし、写真右のサンバル(唐辛子のたれ)を適量加えていただきます。あ、ライムをぎゅっとしぼって酸味を加えるのも忘れずに!

小説のなかのごはん

さて、インドネシア料理と言っても、なにぶん大きい国なので、地方によってさまざまな料理がある。四半世紀以上住んでいる私でも、食べたことのない料理のほうがまだまだ多いのではないかと思う。最近読んでいた小説の中にとても印象的な場面があったので、ちょっと抜粋して翻訳してみよう。

「ためしてごらん」
母はトゥンクレンの汁をひとさじすくい、僕の口にさしだした。
僕は目を閉じて味見をする。これは、母が料理をするときのお決まりの儀式だ。アスマラと僕は目を閉じて味見をし、母の料理に入っている調味料を当てる。
(中略)
そのトゥンクレンの汁は、ほぼ完ぺきに感じられた。シャロット、にんにく、キャンドルナッツ、うこん、ガランガル、生姜といった基本的スパイスが混ざり合い、ココナッツミルクと一体になって僕の舌にすっと染み入る。こぶみかんの葉と、サラームの葉、レモングラスの香りも感じられる。僕は足りないものを探した。
「かあさん…」何が足りないのかわかった。
「かあさん、まだ椰子砂糖を入れていないね」そして僕は目を開いた。
母は微笑んで僕の頬にくちづけ、椰子砂糖の入った容器を手に取った。
(Leila S. Chudoriの"Laut Bercerita" より)

これは、長く続いたスハルト大統領の独裁政権に立ち向かう学生運動を描いた小説で、この「僕」は1998年に誘拐されたまま、いまだに帰ってきていない。それでも毎週日曜日に母は料理をし、父は家族4人の皿を並べて帰らぬ息子を待つ。失われた家族の食卓の哀しみを効果的に表現するこの料理、トゥンクレンとは、一体どんなものなのか。

主人公家族は中部ジャワのソロという街の出身で、トゥンクレンというのはどうやらソロの料理らしい。どうやら、というくらいで、私はまだ食べたことがない。ちなみにうちのおばちゃんは同じ中部ジャワでもプカロンガンという北海岸の出身なので、ソロ料理のことはわからない。では食べに行ってみようではないか、ということで、先週、ジャカルタの私の住まいの近辺で評判の店をGoogle先生に聞いて行ってきた。

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ここここ。ソロのヤギ料理専門店、マントさんの店。

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店頭でダイナミックに調理をしている。

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11時半くらいだったので、まだ空いている店内。とはいえ、感染予防の観点から店内キャパ50%制限があったので、満席になることはない(使用不可のテーブルに黒いガムテープでバッテンがついているのが見られる)。メニューは普通のトゥンクレンと、唐辛子マシマシトゥンクレン、ヤギの串焼き(サテ)、ヤギのひき肉サテ。ヤギのサテには目がないので、スルー出来ずにひとりだけど普通のトゥンクレンと両方注文した。

そしてこれがあのトゥンクレン!(左がサテ)

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小説から感じられたエロティックなまでに繊細な感じはまっーーたくない、骨がこんもり!汁がざっぱーん!と非常にワイルドな料理である。

インドネシア語版Wikipediaによると、かつてソロではヤギ肉は貴族とオランダ人のみが食べ、労働者は残りの頭、足、骨などを食べるしかなかった。そこで工夫をした調理人が編み出したのがこの料理とのこと。
確かにボリュームがものすごく大きく見えるが、ほとんどが骨で、食べられる肉の部分はさほど多くない。手にもってむしゃぶりつかなくては肉にありつけないので、口回りも手もテーブルも黄色くしゃばしゃばになる。デートにトゥンクレンはNGだと娘たちには伝えていきたい。ましてや白い服は致命的である。
お味はどちらかというと、ジャンクで体に悪いもの食べちゃった的な、背徳的な喜びをもたらす系。たまにああーあれ食べたいな!と思いついたらもうそのことしか考えられなくなっちゃう系のアレですよ、アレ(ほめている)。

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サテを焼いている風景。手前のモリっとしたのがサテ・ブンテルといって、ヤギのひき肉のサテ。これすごくおいしそうだから、今度デリバリーでもしようかな。

インドネシアのごはんについてもっと知りたいひとへ

一応拙書に『食べる指さし会話帳 インドネシア』があるのでご紹介しておくが、残念ながら品切れ中で重版の予定はない。また、2008年刊なので、今日までの12年の間に新しく食べたものや得た知識は反映されていない。当時、これ一冊作るのに、食べ歩いて、写真撮って、という作業を2年くらい続けたのだった。ちなみに、トゥンクレンは載っていない。いつかアップデートできる日がくればいいのにな。

で、インドネシアのごはんについてもっと知りたいな、という方には、私はいつもこちらのブログをご紹介しております。

のぞいてみてね。

さて来週のサザエさんは

前回の走者はトップ写真がいきなり衝撃的なネルソン水嶋さん。誰よ。

ただね。いくら読んでもさっぱりお腹減らないんですよ。「どこが!」「なんで!」「おい!」と半ばキレながら、そしてうっかり笑っちゃったりしながら読み進めると、しかし、後半あっさり納得させられます。素直なネルさん。まだ見ぬネルさん。いつかきっとどこかでお会いしましょう(西野カナはごめん、全然わからない)。

次回走者はご近所のマレーシアから森野バクさん。

前回はインドネシアのお話でした!今回はどこの料理のお話を書いてくださるのかな。マレー?中華?インド?それとも…??
読む前からお腹すいてきちゃったね。



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