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クラスのマドンナは人知れず泣いていた  第1話


窓の外でざぁ...ざぁ...と雨の音がする。

雨の中、グラウンドで走る人影はない。

普段外で練習をしている部活はだいたいは室内練習をおこなっている。

僕が所属しているサッカー部は基本雨が降っていても校舎内での筋力トレーニングなどを行っているが、先生の気まぐれで今日は、休みになった。

教室に忘れ物をしてしまった僕は同じくサッカー部の友達を待たせて慌てて教室へと向かう廊下を走っていた。



廊下では女子バスケットボール部が腹筋をしていた。

女子の汗の匂いは嫌いじゃない。むしろ好物だ。


いい匂いがする廊下を、ニヤけてしまうのを抑えながら僕は走った。



ドア越しに見える教室はすでに暗くなっていた。


あれ、まだ帰りのホームルームが終わってから15分も経っていないのに。

皆、帰るの早いんだな。

僕はそう思いながら教室の後方のドアを開けた。


ギィィ.....

急いでいたせいか、

スムーズにドアが開かなかった。


急ぐ気持ちを抑えてしっかりと立ち止まり、

僕はゆっくりとドアを開けた。




教室は薄暗く、静まり返っていた。



僕は後ろ手でドアを閉めると自分の席がある窓際前方に目線を上げた。

静かな教室で1人、

窓の外を見つめる少女がいた。



暗くて誰なのかはっきり分からない。


僕はこの空間を不気味に感じつつ、

少女に話しかけた。



「え、誰です...か?」



なぜか敬語になってしまった。


すると、

少女はこちらに振り返った。



少女の目からはこの距離でも分かるほど涙が溢れていた。


僕は、とても驚いた。


少女の正体は、
このクラスのマドンナ
正源司陽子、だった。


「え、どうしたの、、?大丈夫.....?」


僕は状況を整理できないまま、彼女に聞いた。


陽子「大丈夫.....」


誰でも分かるほどの涙声で、彼女は答えた。




僕はゆっくりと彼女の方に近づいていった。

そして自分の席の後ろで立ち止まり、

もう一度口を開いた。

「忘れ物しちゃってさ、それで.....」

気まずい空気に、言葉が詰まる。

陽子「そうなんだね!ごめんね!今のは見なかったことにして!!」

陽子は一刻も早くこの場から逃れたいように廊下側に走り出し、僕にそう強く言い放って教室を出ていった。



あの涙は、なんだったんだろう。





次の日の朝、僕はいつものように朝練を終え、
ホームルームの始まりのチャイムギリギリで
教室のドアを開けた。


そこにはすでにクラスのほとんどの生徒が揃っており、談笑しているもの、席に着いて読書をしているもの、急いで提出物を完成させようとしてペンを走らせているもの、色々いた。


僕は教室に入るなりすぐさま彼女を探した。
それはもちろん、正源司陽子。


彼女もまた、
教室の後方でクラスメイトの女子達と談笑していた。


僕が自分の席に向かう途中、一瞬、目が合った。


彼女はすぐ、目を逸らした。


気まずい。とても気まずい。




この日は普段と変わらない、

いつもの僕のクラスの雰囲気だった。




正源司陽子はこのクラスのマドンナ。

いつも彼女の周りには誰かがいて、

その空間は常に笑顔で包まれている。

彼女が髪を切った時には女子達は彼女の方に寄っていって「かわいい〜!」「陽子ちゃんに似合いすぎてる〜!」などと褒め、男子達も、それを横目で見ながら、「やばい、正源司髪切ったじゃんめちゃくちゃ可愛い」「うわぁ〜どんどん俺好みの女になっていく」などと、調子が良い。



僕ももちろん彼女のことを可愛いとは思っているが、遠い存在だと諦め、特段、それ以上に気にかけたことはなかった。



でも、あの日あの涙を見てから、教室でも部活中でも家の中にいても、彼女のことで頭が埋め尽くされていた。




彼女の涙の理由を、知りたい。




〜第1話〜


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