なぜか君は僕に優しくて
月曜日の深夜、コンビニのレジ。
俺は10分おきに入店してくる客の動向に目を配りながら、コンビニの棚を整理していた。
俺はこの春大学を卒業し、
深夜のコンビニで働いている。
いわゆる、フリーターってやつだ。
一応、就職活動はした。
だが、世の中は甘くなく、何十社も落ちた。
俺は一旦、新卒正社員の道を諦めた。
働きたくないわけではない。
ただ、単純に疲れたのだ。
このまま波に流され適当に働くより
もっと自分に向いてる仕事があるのではないか。
そう決断し、今に至る。
現状、他に夢があるわけでもない。
何か行動を起こしているわけでもない。
ただの、ニート。
そんな俺のことを、気にかけてくれる女性がいた。
テレレレレレ...テレレレレレ.....
史緒里: あっ、〇〇じゃーん、久しぶりだねっ!
〇〇: おぉ、史緒里、久しぶり!
史緒里: こんな時間までお疲れ様〜
〇〇: 史緒里こそ。こんな時間まで仕事?
史緒里: うん、ちょっとね、残業ってやつ。
〇〇: この時期から残業かぁ...お疲れっ
史緒里: ありがとっ
史緒里は大学時代の友達。
俺より一足先に社会人生活をスタートさせている。
史緒里: なんか、痩せた?
〇〇: いや、別に。
史緒里: ふーん、痩せたように見えるなぁ...
〇〇: そうか?...まぁ食べる量は減ったかも。
史緒里: ちゃんと食べなよ?
体壊してからじゃ遅いんだから...
〇〇: ありがとな、俺の心配なんかしてくれて。
史緒里: 〇〇はほっとけない存在なもんで。
____________________
レジ袋ご利用なさいますか...?
ピッ、ピッ、
1150円になりまーす。
1150円...ちょうどお預かりいたします。
レシートよろしかったですか?
史緒里: はいっ、これ。私からの差し入れ。
史緒里はレジの前で2つ買ったうちの1つのビール缶を俺に差し出した。
〇〇: えっ、ありがと...
史緒里: 今日、何時上がりなの?
〇〇: 2時かな。
史緒里: え、もうすぐじゃん。
そこの公園で2人で呑もうよ。
私、すぐそこで待ってるから。
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〇〇: お待たせ。
史緒里: お疲れっ!
夜風に靡く綺麗な髪。
あまり意識したことなかったが、
史緒里はとんでもない美人である。
俺達は近くの公園に移動し、ベンチに腰がけた。
史緒里: かんぱーいっ!
ゴクゴクッ
史緒里は勢いよく缶を傾け、ビールを飲んだ。
〇〇: どうなの、仕事。楽しい?
史緒里: うーん、楽しいかと言われたらまだ微妙かなぁ
でも、やる気はあるよ。
〇〇: へぇ〜、さすがだな。
史緒里: 〇〇は?最近どうなの?
〇〇: うーん、特に何もないかな。
史緒里: もったいないよ。
〇〇: ん、何が?
史緒里: 〇〇は、本来できる人なの。
踏み出すか踏み出さないかだけ。
あと、理想が高すぎるところも直した方がいいかも。
〇〇: まぁ、確かに。理想は高いかもな。
史緒里: 就活で私が悩んでた時のこと、覚えてる?
〇〇: 相談に乗ってあげてたっけ?
史緒里: うん。あの時のこと、恩義に感じてるよ私は。
〇〇: それはよかったよ、本当に。
史緒里: だからね、私も〇〇の力になりたいの。
〇〇: ありがとなっ。でも大丈夫。
今俺が史緒里に相談できることは何もないや、ごめん。
史緒里: そっか...また何かあったら連絡してねっ
〇〇: ありがとう。本当に。
史緒里: やっぱり、〇〇と居ると落ち着くなぁ。
〇〇: そう?それは嬉しいよ。
史緒里: 仕事のストレスも、和らいだかも。
〇〇: それは、ビール飲んだからじゃなくて...?笑
史緒里: へへへ、それもあるかも笑
〇〇: まぁ、しばらくは近くにいるからさ、
いつでも2人で話そうよ。
史緒里: うん、ありがとっ、お互い頑張ろ!
史緒里はそう言って一気にビールを飲み干した。
史緒里: ぷはぁ....美味しかった!
〇〇: 相変わらずの飲みっぷりだな。笑
史緒里: やっぱこれに尽きますねぇ。
〇〇: おじさんみたいなこと言うなよ。笑
史緒里: ふふっ、ビールは格別です。
2人は微笑み合う。
史緒里: じゃ、またね!色々ファイトっ!
〇〇: おう、またな!史緒里も頑張って!
史緒里: バイバイ!
〇〇: うん、バイバイ!
史緒里は俺に背を向けて公園を後にした。
俺は彼女に勇気を貰った。
何か、踏み出さないといけない。
彼女の勇敢な後ろ姿を見て、そう思った。
彼女は後ろを振り返って、ニコッと笑って見せた。
俺は、空高く上げた右手を大きく振った。
すると、彼女も手を振りかえしてくれた。
友達以上、恋人未満。
そんな言葉が頭によぎる。
頑張ろう。
俺はそう強く自分に言い聞かせ
帰路についた。
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