「SOUVENIR」歌詞の意味を考察 『SPY×FAMILY』主題歌BUMP
あなたに向かって帰り道を歩き走る勢いと明るさ。リボンと宇宙を歌うBUMPの歌詞とサウンドがさらに新しくなった。
本稿では『SPY×FAMILY』(スパイファミリー)のアニメ主題歌であるバンプ「SOUVENIR」の歌詞の意味を考察する。
BUMP OF CHICKENの楽曲「SOUVENIR」は、遠藤達哉原作のTVアニメ『SPY×FAMILY』第2クールのオープニング主題歌である。「SOUVENIR」は2022年9月29日に配信が開始された。『SPY×FAMILY』第2クールは2022年10月1日に放送開始される。
本稿では、オープニングで使われる1番だけでなく、歌詞を最後まで考察する。およそ7700字あり、全文が無料だ。
名乗り遅れましたが、街河ヒカリと申します。
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BUMP OF CHICKENの楽曲はこれまでにも様々なアニメや映画などの主題歌となったが、かつて藤原基央はこう述べた。
よって、本稿では『SPY×FAMILY』の内容との関係についてはあまり深掘りしないが、私は『SPY×FAMILY』の漫画を読んでいるしアニメを視聴しているので、『SPY×FAMILY』との関係についても少しだけ本稿に盛り込むことにする。
まず、『SPY×FAMILY』の公式サイトに掲載されたBUMP OF CHICKENのコメントを引用する。
まずイントロが明るい!走っているようなリズムだ。さっそく「SOUVENIR」の歌詞を1番から読もう。
あくびの「音」でなく「色」と表現するセンスが秀逸だ。藤原基央らしい、心情を視覚的に絵画的に表現する歌詞だ。
「心」は本音、本心のようなものだ。「心」に「鍵」をかけて他者から見えないようにした。この「メロディ」は人生の比喩だろう。私はどうにか生きていた。あなたもどうにか生きていた。そんな私とあなたが奏でるメロディが重なった。藤原基央の歌詞では、「孤独な人と孤独な人が出会い、一つになれないが、それでも共に生きていく」という概念が繰り返し歌われてきた。「SOUVENIR」も同じだ。
この歌詞は『SPY×FAMILY』のロイド、アーニャ、ヨルの出会いを想起させる。
続いてBメロだ。
升秀夫のドラムが美しい!
この歌詞も藤原基央らしい。この「目印」が何なのか、直接的に言語化されていないが、言語化する必要はないだろう。具体的なものではなく、抽象的な「大切なもの」のような概念だろう。
余談だが、BUMP OF CHICKENは小さいものを大切にする。BUMP OF CHICKENが手がけた『映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ』主題歌のタイトルは「Small world」だった。
BUMP OF CHICKENのサインにもこの思想が現れている。
(出典:https://twitter.com/Rice_scoop00/status/1558354551568080896)
次に1番のサビだ。
ここでタイトル「SOUVENIR」の核心を歌う。「帰り道」は「あなたに会った後の帰り道、つまり、帰ったらあなたはいない」と「あなたに会おうとしている帰り道、つまり、帰ったらあなたがいる」の二つの意味に読み取れるかもしれないが、「あなたに向かう道」と歌っているので、後者だろう。両方の意味が含まれているのかもしれないが、後者の意味のほうが強い。
「あなたに貰った この帰り道」は、「あなたがいるから私はこの道を進むことができる。あなたがこの景色に彩りをくれた」の意味だろう。だから「貰った」と歌うのだ。
景色を「お土産」みたいに集めたら、あなたに「お土産」を手渡す。あなたがいるから帰り道がある。
急いでいるから走るのに「いやいややっぱ歩いて」なのは、ゆっくり歩いて景色を観るためだろうか。
次に2番Aメロだ。
「通り過ぎるばっかの毎日」は「ギルド」の歌詞「夜と朝を なぞるだけの まともな日常」を彷彿とさせる。
1番では「重なった」だったが2番では「繋がった」だ。「メロディが繋がった」は、人と人の繋がりとも読み取れるし、「証拠と証拠が繋がったから、過去と今と未来の時間の流れを捉えた」とも読み取れる。メロディが繋がって「帰り道」になったとも読み取れる。この歌詞にはいくつもの意味が込められいるはずだ。
2番Bメロだ。
「知らせるよ」と「迷わないでいいと」の藤原基央の歌声が柔らかく優しく美しい!
この歌詞では私とあなたが互いを肯定している。藤原基央の歌詞にしては珍しい。
次に再びサビだ。
「あなたの昨日も明日も知らないまま 帰り道」は、互いの過去と未来を知らないのに、それでも会おうとする関係だ。藤原基央は自他を区別し、互いを独立した個人とみなす。互いを知ることが不可能であると歌ってきた。たとえば「真っ赤な空を見ただろうか」の歌詞が典型的だ。
「月より遠い世界から辿ってきた 帰り道」も藤原基央らしい、突拍子もない天体の距離をモノサシにした表現だ。「飴玉の唄」の「何光年も遙か彼方から やっと届いた飴玉だよ」を彷彿とさせる。
「私からあなたまでの距離はそれほど長く、険しく、見つけ合う事は難しかった。それでも見つけ合う事ができたのはどうしてだろう」。問いを立て、答えが見つからないが、このわからなさをネガティブにとらえず、肯定し受容している。
そして、あなたに向かって歩き、走る。
「ヘイ!」のあと、間奏が流れる。ここでもまた走っているようなリズムを刻む。
1番では「涙もちょっと拾ったよ」だったが「涙もまた拾っちゃったよ」となった。誰の涙かは分からない。自分の涙かもしれないし、赤の他人の涙かもしれない。「あなたに向かうまでの道のりで、辛いこともあったよ、また涙が流れちゃったよ」とでも語るように、「拾っちゃったよ」からはそんな脱力感と溜め息混じりの笑顔がにじみ出ている。
「あなたの昨日も明日も知らないまま 帰り道」だった歌詞が「あなたの昨日と明日が空を飾る 帰り道」に変わっている。「リボンかけて」から、包む込むような優しさを感じる。
「今の空があるのは、あなたが生きていた過去がある証拠だ。あなたの過去と未来を私は知らない。でも過去と今と未来は繋がっている。わからなさまで含めて、帰り道を肯定し、受容したい。」
そんな意味ではないだろうか。
「SOUVENIR」の最初は「心はしまって鍵かけて」と歌ったが、その後「リボン」が3回歌われている。「SOUVENIR」ではリボンの柔らかさと鍵の固さが対比されている。しかも「ひとつずつリボンかけて」「とびきりのリボンかけて」、どちらもひらがなで書かれている。この文字からもリボンの柔らかさが感じられる。
「SOUVENIR」のリボンの柔らかさは、楽曲「リボン」と意味が通じている。
「宇宙の果てからだろうと辿っていく 帰り道」でもまた天体の距離で表現している。あなたに向かおうとする力強さを感じる。
最後は「歩いて」「ふりして」「走って」「歩いて」に合いの手が入っている。BUMP OF CHICKENの楽曲でこのような明るいノリの合いの手が入ることは珍しい。
これで歌詞は終わりだ。
2019年のアルバム『aurora arc』には多幸感を歌った曲が多数収録された。「新世界」が代表例だろう。
『aurora arc』より後の曲では、そこまでの多幸感はなかった。歌詞に暗さがあった。しかし、不幸であることを歌詞にした、というわけではない。「Flare」というタイトルと歌詞が象徴的だ。
結局のところ、どうやって生きていけばいいのか分からないが、それでも生きていく。特に「クロノスタシス」ではその分からなさを深く濃く歌詞にした。
そして「SOUVENIR」ではさらに変化した。
「SOUVENIR」では、分からなさを抱えつつ、明確に「あなた」への「帰り道」がある。「迷わないでいい」と確信している。
『aurora arc』より後の曲では、「僕」と「世界」との距離を歌詞にしていたが、「SOUVENIR」では「僕」と「世界」との距離が歌詞にされていない。私と「あなた」の距離が歌詞になった。
「SOUVENIR」全体を通して、目の前に「あなた」がいない。主人公は「あなた」に向かって歩き走っているだけだ。過去のBUMP OF CHICKENの楽曲には「ray」のように、お別れした「君」や、「君」のいない「今」を歌った歌詞が何曲もあった。しかし「SOUVENIR」は「あなた」とお別れしていない。「あなた」は明確に存在している。
本稿の最初に引用したように、BUMP OF CHICKENは「ライブ会場で対面するリスナーに対して思う気持ちを、大切な場所に向かう道になぞらえて書きました。」とコメントした。
つまり、「帰り道」と歌っているが、外出先から自宅に戻るような意味ではない。むしろあなたに会いに行く意味、ライブ会場に行くような意味に近いだろう。アーニャ的に言うと「おでけけ」だ。たとえるなら、「私はこのライブ会場に帰ってきました。ただいま。」という意味だ。
もしかしたら、新型コロナウイルス感染症でライブが中止になったが、ライブが再開されリスナーと再会したことから、藤原基央は「帰り道」の想いを抱いたのかもしれない。
【追記】この記事を執筆した後に判明したのだが、藤原基央は「SOUVENIR」を2022年1月に書いたらしい。BUMP OF CHICKENのライブ(オンラインではないライブ)が再開された日は2022年7月2日だったので、「SOUVENIR」はライブが再開した想いを表現したわけではなさそうだ。【追記はここまで】
「SOUVENIR」はBUMP OF CHICKENの音楽活動に当てはまるが、もちろん『SPY×FAMILY』にも当てはまる。まったく別の現象にも当てはまる。藤原基央の歌詞には普遍性がある。
「SOUVENIR」が配信開始された当日に私は本稿を書いているのだが、すでにBUMP OF CHICKENのリスナーからは「新しい」「今までのBUMPにない」と驚きの声が上がっている。その理由は歌詞とサウンドの両方にあるだろう。
ようするに明るいのだ。キャッチーだ。歩いているリズム、走っているリズムが明るい。ギターのカッティングも明るい。ドラムとベースに勢いがある。音の数が少なく、骨太で、肉体的だ。ライブ感がある。しかもおしゃれだ。
このサウンドが歌詞と相まって、リスナーを驚かせたのだろう。
【追記】
リスナーが「SOUVENIR」から感じ取った性質は、やはり BUMP OF CHICKEN のメンバーも自覚しているようだ。BUMP OF CHICKENがパーソナリティを務めるラジオ番組「PONTSUKA!!」で、「SOUVENIR」について発言があったので引用しよう。
また、「PONTSUKA!!」のリスナーから、「タイアップの際はどんな感じで曲を作られるのでしょうか?このワードを入れてください、みたいな要望があるのでしょうか?」と質問が来たのだが、藤原基央はこう答えた。
以上の発言はすべて「PONTSUKA!!」2022年10月3日(2日の深夜)の回でオンエアされた。
【追記はここまで】
本記事のヘッダー画像には、公式サイトに掲載された第2クールキービジュアルを利用した。
以上です。今後も街河ヒカリをよろしくお願いします。
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