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「SOUVENIR」歌詞の意味を考察 『SPY×FAMILY』主題歌BUMP

あなたに向かって帰り道を歩き走る勢いと明るさ。リボンと宇宙を歌うBUMPの歌詞とサウンドがさらに新しくなった。

本稿では『SPY×FAMILY』(スパイファミリー)のアニメ主題歌であるバンプ「SOUVENIR」の歌詞の意味を考察する。

BUMP OF CHICKENの楽曲「SOUVENIR」は、遠藤達哉原作のTVアニメ『SPY×FAMILY』第2クールのオープニング主題歌である。「SOUVENIR」は2022年9月29日に配信が開始された。『SPY×FAMILY』第2クールは2022年10月1日に放送開始される。


本稿では、オープニングで使われる1番だけでなく、歌詞を最後まで考察する。およそ7700字あり、全文が無料だ。

名乗り遅れましたが、街河ヒカリと申します。

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BUMP OF CHICKENの楽曲はこれまでにも様々なアニメや映画などの主題歌となったが、かつて藤原基央はこう述べた。

僕は僕の曲の書き方しか知らないし、僕の言葉しか書けないんだよね。僕の知っている感情、知っている現象しか書けないので。よくファンレターで、『あそこの部分のあの歌詞はあのキャラクターのこういう気持ちを表しているんですよね』みたいなこと言われるんだけど、それは本当に困ってしまいます。そう思ってくれるのは君の勝手だけど、重なるところを抽出しただけで、僕の心情だし。なんか、……わかりますかね?

出典:『MUSICA』2015年5月号、p.31

よって、本稿では『SPY×FAMILY』の内容との関係についてはあまり深掘りしないが、私は『SPY×FAMILY』の漫画を読んでいるしアニメを視聴しているので、『SPY×FAMILY』との関係についても少しだけ本稿に盛り込むことにする。

まず、『SPY×FAMILY』の公式サイトに掲載されたBUMP OF CHICKENのコメントを引用する。

●オープニング主題歌を担当されると決まった時の感想を教えてください。
メンバー全員楽しく読ませて頂いていた作品だったので、オファーを頂いた時はとても光栄に思いました。
アニメの第1クールも毎週観させて頂き、第2クールに対する期待感に胸を膨らませましたが、同時に主題歌頑張らねば、と気が引き締まりました。

●原作漫画「SPY×FAMILY」を読んだ感想をお聞かせください。
僕らの生活している世界とはほとんど違う舞台なのに、その中で生きる様々なキャラクターの心情に共感できるポイントが沢山あり、何度も笑わされたり泣かされたりしました。
フォージャー家の人々はとても魅力的で、偽りの家族を思うそれぞれの姿勢に度々目頭が熱くなります。
いつまでも見ていたい一家です。
この先どうなるのか、気になるばかりです。

●曲名や楽曲に込めた想いを教えてください。
ライブ会場で対面するリスナーに対して思う気持ちを、大切な場所に向かう道になぞらえて書きました。

●アニメを楽しみにしている方にメッセージをお願いします。
第2クール待ち遠しいですね、皆さんと一緒にフォージャー家の活躍を見守っていきたいです。
オープニングのアニメーションと併せて僕らの楽曲「SOUVENIR」もぜひ楽しんで頂けたらと思います。とても素敵なアニメーションをつけて頂き、メンバー一同感激です。

出典:https://spy-family.net/music/music_op_2.php

まずイントロが明るい!走っているようなリズムだ。さっそく「SOUVENIR」の歌詞を1番から読もう。

恐らく気付いてしまったみたい
あくびの色した毎日を
丸ごと映画の様に変える
種と仕掛けに出会えた事

あくびの「音」でなく「色」と表現するセンスが秀逸だ。藤原基央らしい、心情を視覚的に絵画的に表現する歌詞だ。

仲良くなれない空の下
心はしまって鍵かけて
そんな風にどうにか生きてきた
メロディが重なった

「心」は本音、本心のようなものだ。「心」に「鍵」をかけて他者から見えないようにした。この「メロディ」は人生の比喩だろう。私はどうにか生きていた。あなたもどうにか生きていた。そんな私とあなたが奏でるメロディが重なった。藤原基央の歌詞では、「孤独な人と孤独な人が出会い、一つになれないが、それでも共に生きていく」という概念が繰り返し歌われてきた。「SOUVENIR」も同じだ。

この歌詞は『SPY×FAMILY』のロイド、アーニャ、ヨルの出会いを想起させる。

続いてBメロだ。

小さくたっていい 街のどんな灯よりも
ちゃんと見つけられる 目印が欲しかった

升秀夫のドラムが美しい!

この歌詞も藤原基央らしい。この「目印」が何なのか、直接的に言語化されていないが、言語化する必要はないだろう。具体的なものではなく、抽象的な「大切なもの」のような概念だろう。

余談だが、BUMP OF CHICKENは小さいものを大切にする。BUMP OF CHICKENが手がけた『映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ』主題歌のタイトルは「Small world」だった。

BUMP OF CHICKENのサインにもこの思想が現れている。

(出典:https://twitter.com/Rice_scoop00/status/1558354551568080896

次に1番のサビだ。

この目が選んだ景色に ひとつずつリボンかけて
お土産みたいに集めながら続くよ 帰り道
季節が挨拶くれたよ 涙もちょっと拾ったよ
どこから話そう あなたに貰った この帰り道

歩いて歩いて 時々なんか急いで あなたに向かう道を
走って走って いやいややっぱ歩いて あなたに向かう道を

ここでタイトル「SOUVENIR」の核心を歌う。「帰り道」は「あなたに会った後の帰り道、つまり、帰ったらあなたはいない」と「あなたに会おうとしている帰り道、つまり、帰ったらあなたがいる」の二つの意味に読み取れるかもしれないが、「あなたに向かう道」と歌っているので、後者だろう。両方の意味が含まれているのかもしれないが、後者の意味のほうが強い。

「あなたに貰った この帰り道」は、「あなたがいるから私はこの道を進むことができる。あなたがこの景色に彩りをくれた」の意味だろう。だから「貰った」と歌うのだ。

景色を「お土産」みたいに集めたら、あなたに「お土産」を手渡す。あなたがいるから帰り道がある。

急いでいるから走るのに「いやいややっぱ歩いて」なのは、ゆっくり歩いて景色を観るためだろうか。

次に2番Aメロだ。

こうなるべくしてなったみたい
通り過ぎるばっかの毎日に
そこにいた証拠を探した
メロディが繋がった

「通り過ぎるばっかの毎日」は「ギルド」の歌詞「夜と朝を なぞるだけの まともな日常」を彷彿とさせる。

1番では「重なった」だったが2番では「繋がった」だ。「メロディが繋がった」は、人と人の繋がりとも読み取れるし、「証拠と証拠が繋がったから、過去と今と未来の時間の流れを捉えた」とも読み取れる。メロディが繋がって「帰り道」になったとも読み取れる。この歌詞にはいくつもの意味が込められいるはずだ。

2番Bメロだ。

そうしてくれたように 手を振って知らせるよ
迷わないでいいと 言ってくれたように

「知らせるよ」と「迷わないでいいと」の藤原基央の歌声が柔らかく優しく美しい!

この歌詞では私とあなたが互いを肯定している。藤原基央の歌詞にしては珍しい。

次に再びサビだ。

どこからどんな旅をして 見つけ合う事が出来たの
あなたの昨日も明日も知らないまま 帰り道
土砂降り 一体何回くぐって 笑ってくれたの
月より遠い世界から辿ってきた 帰り道

歩いて歩いて いつの間にか急いで あなたに向かう道を
走って走って 恥ずかしくなって歩いて あなたに向かう道を

「あなたの昨日も明日も知らないまま 帰り道」は、互いの過去と未来を知らないのに、それでも会おうとする関係だ。藤原基央は自他を区別し、互いを独立した個人とみなす。互いを知ることが不可能であると歌ってきた。たとえば「真っ赤な空を見ただろうか」の歌詞が典型的だ。

溜め息の訳を聞いてみても 自分のじゃないから解らない
だからせめて知りたがる 解らないくせに聞きたがる

出典「真っ赤な空を見ただろうか」

「月より遠い世界から辿ってきた 帰り道」も藤原基央らしい、突拍子もない天体の距離をモノサシにした表現だ。「飴玉の唄」の「何光年も遙か彼方から やっと届いた飴玉だよ」を彷彿とさせる。

「私からあなたまでの距離はそれほど長く、険しく、見つけ合う事は難しかった。それでも見つけ合う事ができたのはどうしてだろう」。問いを立て、答えが見つからないが、このわからなさをネガティブにとらえず、肯定し受容している。

そして、あなたに向かって歩き、走る。

「ヘイ!」のあと、間奏が流れる。ここでもまた走っているようなリズムを刻む。

この目が選んだ景色に ひとつずつリボンかけて
お土産みたいに集めながら続くよ 帰り道
季節が挨拶くれたよ 涙もまた拾っちゃったよ
どこから話そう あなたに貰った この帰り道

1番では「涙もちょっと拾ったよ」だったが「涙もまた拾っちゃったよ」となった。誰の涙かは分からない。自分の涙かもしれないし、赤の他人の涙かもしれない。「あなたに向かうまでの道のりで、辛いこともあったよ、また涙が流れちゃったよ」とでも語るように、「拾っちゃったよ」からはそんな脱力感と溜め息混じりの笑顔がにじみ出ている。

どこからどんな旅をして 見つけ合う事が出来たの
あなたの昨日と明日が空を飾る 帰り道
この目が選んだ景色に とびきりのリボンかけて
宇宙の果てからだろうと辿っていく 帰り道

歩いて歩いて 転んで平気なふりして あなたに向かう道を
走って走って 胸いっぱいで歩いて あなたに向かう道を

「あなたの昨日も明日も知らないまま 帰り道」だった歌詞が「あなたの昨日と明日が空を飾る 帰り道」に変わっている。「リボンかけて」から、包む込むような優しさを感じる。

「今の空があるのは、あなたが生きていた過去がある証拠だ。あなたの過去と未来を私は知らない。でも過去と今と未来は繋がっている。わからなさまで含めて、帰り道を肯定し、受容したい。」

そんな意味ではないだろうか。

「SOUVENIR」の最初は「心はしまって鍵かけて」と歌ったが、その後「リボン」が3回歌われている。「SOUVENIR」ではリボンの柔らかさと鍵の固さが対比されている。しかも「ひとつずつリボンかけて」「とびきりのリボンかけて」、どちらもひらがなで書かれている。この文字からもリボンの柔らかさが感じられる。

「SOUVENIR」のリボンの柔らかさは、楽曲「リボン」と意味が通じている。

「宇宙の果てからだろうと辿っていく 帰り道」でもまた天体の距離で表現している。あなたに向かおうとする力強さを感じる。

最後は「歩いて」「ふりして」「走って」「歩いて」に合いの手が入っている。BUMP OF CHICKENの楽曲でこのような明るいノリの合いの手が入ることは珍しい。

これで歌詞は終わりだ。


2019年のアルバム『aurora arc』には多幸感を歌った曲が多数収録された。「新世界」が代表例だろう。

『aurora arc』より後の曲では、そこまでの多幸感はなかった。歌詞に暗さがあった。しかし、不幸であることを歌詞にした、というわけではない。「Flare」というタイトルと歌詞が象徴的だ。

どれほど弱くても 燃え続ける小さな灯火

出典:「Flare」

結局のところ、どうやって生きていけばいいのか分からないが、それでも生きていく。特に「クロノスタシス」ではその分からなさを深く濃く歌詞にした。

そして「SOUVENIR」ではさらに変化した。

「SOUVENIR」では、分からなさを抱えつつ、明確に「あなた」への「帰り道」がある。「迷わないでいい」と確信している。

『aurora arc』より後の曲では、「僕」と「世界」との距離を歌詞にしていたが、「SOUVENIR」では「僕」と「世界」との距離が歌詞にされていない。私と「あなた」の距離が歌詞になった。

「SOUVENIR」全体を通して、目の前に「あなた」がいない。主人公は「あなた」に向かって歩き走っているだけだ。過去のBUMP OF CHICKENの楽曲には「ray」のように、お別れした「君」や、「君」のいない「今」を歌った歌詞が何曲もあった。しかし「SOUVENIR」は「あなた」とお別れしていない。「あなた」は明確に存在している。

本稿の最初に引用したように、BUMP OF CHICKENは「ライブ会場で対面するリスナーに対して思う気持ちを、大切な場所に向かう道になぞらえて書きました。」とコメントした。

つまり、「帰り道」と歌っているが、外出先から自宅に戻るような意味ではない。むしろあなたに会いに行く意味、ライブ会場に行くような意味に近いだろう。アーニャ的に言うと「おでけけ」だ。たとえるなら、「私はこのライブ会場に帰ってきました。ただいま。」という意味だ。

もしかしたら、新型コロナウイルス感染症でライブが中止になったが、ライブが再開されリスナーと再会したことから、藤原基央は「帰り道」の想いを抱いたのかもしれない。

【追記】この記事を執筆した後に判明したのだが、藤原基央は「SOUVENIR」を2022年1月に書いたらしい。BUMP OF CHICKENのライブ(オンラインではないライブ)が再開された日は2022年7月2日だったので、「SOUVENIR」はライブが再開した想いを表現したわけではなさそうだ。【追記はここまで】

「SOUVENIR」はBUMP OF CHICKENの音楽活動に当てはまるが、もちろん『SPY×FAMILY』にも当てはまる。まったく別の現象にも当てはまる。藤原基央の歌詞には普遍性がある。


「SOUVENIR」が配信開始された当日に私は本稿を書いているのだが、すでにBUMP OF CHICKENのリスナーからは「新しい」「今までのBUMPにない」と驚きの声が上がっている。その理由は歌詞とサウンドの両方にあるだろう。

ようするに明るいのだ。キャッチーだ。歩いているリズム、走っているリズムが明るい。ギターのカッティングも明るい。ドラムとベースに勢いがある。音の数が少なく、骨太で、肉体的だ。ライブ感がある。しかもおしゃれだ。

このサウンドが歌詞と相まって、リスナーを驚かせたのだろう。


【追記】

リスナーが「SOUVENIR」から感じ取った性質は、やはり BUMP OF CHICKEN のメンバーも自覚しているようだ。BUMP OF CHICKENがパーソナリティを務めるラジオ番組「PONTSUKA!!」で、「SOUVENIR」について発言があったので引用しよう。

藤原基央「ちなみに、新曲「SOUVENIR」はいつ頃できた曲なのでしょうかということですけど、クロノスタシスとほぼほぼ同時に書いてるぐらいなんだけど、ちょっと後だったかな、だから、それよりも。」
(中略)
藤原基央「1月ぐらいに、僕は最初のデモを上げた」
(中略)
直井由文「これ、たぶん、今までのレコーディングの曲の中で1番難しかったかもしれないですね」
(中略)
直井由文「今回、めちゃくちゃ音数少なくなった」
藤原基央「音数ってのは、ようするに、入っている楽器のトラック数ですね」
直井由文「その上に、この全員休符が多いんですね」
(中略)
直井由文「そこらへんが緻密でおもしろいですけど、すごく難しい、というかすごい繊細で」
(中略)
升秀夫「僕はねえ、20年以上ドラムやってますけど、初めて僕の右手が見たことない動きをしてましたからね」
(中略)
升秀夫「新たなチャレンジってのはいいですね」
(中略)
増川弘明「パキパキとノリノリで弾く、そこが、ここまでこういう曲は初めてですね」
藤原基央「そうかもしれない」
直井由文「BUMP OF CHICKENの中でも、かなりファンキーな曲ですよね」
(中略)
藤原基央「音作りとかもいつもと違うんですよ」

出典:「PONTSUKA!!」https://www.bayfm.co.jp/ipembed/?mode=ip&id=15896&pid=bump

また、「PONTSUKA!!」のリスナーから、「タイアップの際はどんな感じで曲を作られるのでしょうか?このワードを入れてください、みたいな要望があるのでしょうか?」と質問が来たのだが、藤原基央はこう答えた。

藤原基央「まったくなかったですね。1 個もなかった」
(中略)
藤原基央「今までの、いろいろタイアップのお仕事受けさせてもらってますけど、一度もなかったかもしれないな、こういうワード入れて、みたいなの。こういうワード入れてとか本当なくて。好きなように書いてください。みたいな。大体っていうか、100パーそうなんです」
(中略)
藤原基央「ONE PIECEのときに「sailing day」っていう、船出の曲ですよね。船出かっこいいなあってずっと思ってたんで、ONE PIECEだし船出の歌書きたいって思ったことがあったぐらいかなあ」
(中略)
藤原基央「ドラえもんのときは、のび太が自分の中でのスタンダード体験だったんです。のび太と過ごした日々っていうのが。のび太を見て育ってきたからさ。だからあれはもう明確にのび太に向けて歌ってるんだけど。それ以外は本当に、そういう、なんか、なんていうのかなあ、作品に寄せていかなきゃ、みたいな気持ちに一回もなったことなくて。ルールとして決まっているのは、作品の中で表現されている概念と、自分たちが今まで表現してきた、あるいは今表現したい概念。その概念ってのはいくらでも置き換えられるんだけど、概念だったり感情だったり、なんかそういうもの。その表現してきたものが、先方と自分たちで重なる部分ってのがあるわけじゃないですか。数学の問題である、この円とこの円の重なってるこの斜線の部分の面積を求めよみたいなあの図を思い浮かべてほしいんだけど、あのその斜線の部分に入っているものを僕は書くだけなんですよ。純度100%でBUMP OF CHICKENの曲ですってものをいつも書いてますね」

出典:「PONTSUKA!!」https://www.bayfm.co.jp/ipembed/?mode=ip&id=15896&pid=bump

以上の発言はすべて「PONTSUKA!!」2022年10月3日(2日の深夜)の回でオンエアされた。

【追記はここまで】


本記事のヘッダー画像には、公式サイトに掲載された第2クールキービジュアルを利用した。

以上です。今後も街河ヒカリをよろしくお願いします。

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