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【詩】白薔薇

夕暮れ時、街を歩いていた。

あちこちの家から、食べ物の匂いがしてくる。

私は立ち止まった。

その家の庭には、真っ白な薔薇が咲いていたから。

辺りが暗くなる中、白色は映えた。

見惚れていると、家の人が出て来た。

そして挟みで薔薇を一本切り、私に微笑んで、どうぞ、という仕草をする。

迷っていると、その人はまた、どうぞ、と私の前に薔薇を差し出した。

私は見事な白薔薇を受け取り、おじぎをした。

白薔薇を手に持ち、小高い山を登る。

頂上に着くと、大きな岩の上で、白くて長い髭の仙人が瞑想をしていた。

そこからは、下界の街並みが一望できる。

家々の灯りが、小さな宝石のように、散りばめられていた。

瞑想を終えた仙人は、岩から降りて私に笑いかける。

声ではない声が、「貴女は全てをもう手に入れているよ」

そう云っている。

何故だかポロポロと涙が流れた。

私は声ではない声で、

「もう、追い求めなくてもいいのですか?」

そう訊いた。

仙人は、「自分が一番分かっているはずだよ」

そう告げると街とは反対の方へと歩いて行った。

雨も降っていないのに、白薔薇は、何粒も水滴が玉になって光っている。

もう、あちこちと探し歩かなくてもいいんだ。

その夜は、白薔薇と眠った。

答えなど、始めから無かった。

自分は持っていない無いと思っていた。

私は、ずっと探し求め、苦しんだ。

探していたものを、私は既に手にしていた。

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