【キラキラの国】 3話
「お父さん、悠の家はそんなにお金が大変なの?」
お父さんは、ちぎったパンを口に入れた。
「一家の主人が病気で働けないと生活は厳しくなる。悠くんの家も同じだ」
「……そう」
「颯太、子ども食堂に行ってるからって、恥ずかしいことなんて無いからね。悠くんもそうだけど」
「お母さんに云われなくたって、そんなの分かってるよ」
「それならいいの」
見ると、お父さんはチキンを噛みながらも、頭の中は別の何かを考えてるみたいな、そんな顔をしていた。
「お腹いっぱ〜い。もう食べられない」
彩がフォークを置いて、オレンジジュースを飲みながら云った。
ラザニアはまだ結構残ってる。
「もったいないから颯太、食べてくれるか」
お父さんに云われなくても、そのつもりだ。
彩のラザニアは、かなりの美味しさだった。
冷めてしまったのが残念だなぁ。
そして全員が食べ終えた。
お母さんは、ゆっくりとアイスティーを飲んでいる。
《夜中に波の音が聴こえるんだ》
悠が聴いたのは、別の場所の波の音だ。
たぶん北海道の宗谷地方の海の……。
「さて、そろそろ帰るか」
お父さんがそう云って、皆んなテーブルを離れた。
ドアを開けて表に出る。
「アイスが食べたい」彩が云う。
「僕も!」
お父さんが、財布をポケットにしまいながら、お店から出て来た。
「お父さん、コンビニに寄ってもいい?」
「何を買うんだ?」
「アイス!」綾がぴょんぴょん跳ねながら云った。
「アイスなら家にあるわよ」
お母さんのことを無視してコンビニに寄ることになった。
店の中に入ると、アイスのコーナーに向かう。
「コンビニでしか買えないのがあるんだ、な、彩」
「うん!あ、これにしようっと」
彩はかなりの量のクリームが乗っているソフトクリームを手に取った。
僕は大きなチョコモナカにした。
お母さんがレジでお金を払って、皆んな外に出た。
空気が、モアっとしてて生ぬるい。
「蒸して来たな。そろそろ梅雨明けかもしれないな」
その頃、悠の家では、お父さんの夕食の支度をしていた。
悠のお父さんは、父親から引き継いだ工場を経営していたが、ある日突然にひどい頭痛がして、従業員の人たちが救急車を呼んだのだ。
運ばれた病院に、そのまま入院。
僕は、脳の病気だと訊いている。
工場は畳まなければならなくなった。
悠のお父さんは、退院したが体の左側が動かなくなっていて、話すのも大変になっていた。
「努くん、夕食出来たよ」
悠のお母さんは、お父さんのことを名前で呼ぶ。
お父さんもお母さんを名前で呼ぶ。
今は口が廻らないので、ニッコリして頷いた。
(つづく)
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