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【童話】メロンソーダが好きな星

僕がキミに初めて出会ったのは、街路灯が眩しいくらいに輝く、夜の公園だった。

受験勉強に疲れると、外の空気に触れたくなって、必ず散歩に出掛けるのが習慣になっていた。


深夜に人が居たことはない。

僕がこの公園を貸切状態にしている。

その夜も入り口に有る自販機でホットコーヒーを買った。

ベンチで飲もう、そう思っていた。

だが、先客がいた。

僕は驚いて、ベンチに座っている女の子に見入っていた。


こんな真夜中に、何故いるんだろう。

まだ10歳にもなってはいないであろう女の子が。

呆然と見詰めている僕と女の子の視線が合った。

思わず、あたふたする僕に、その子はニコッと笑顔になって、「こんばんは」

そう云った。


慌てて僕も「こんばんは」と返した。

缶コーヒーを持って、立ち尽くす僕に、

その子は自分の隣を指差して、僕のことを見ている。

僕は、おずおずと近づくと女の子に、

「ありがとう」

そう云って並んで座った。

しばらく二人共、黙っていた。


僕は思い切って話しかけた。

「キミはどこから来たの?お父さんやお母さんに見つかったら叱られない?」

女の子は宇宙(そら)を指さして、

「あそこから」とだけ云った。

続けて、「パパもママも怒ったりしないよ」

僕のことを見ながら不思議そうに話した。


僕は自分だけが飲み物を持っているのに気がついて、「キミはどんなジュースが好き?」

そう訊いたら即答で「メロンソーダ!」

女の子は元気に答えた。

「分かった。ちょっと待ってて」

缶コーヒーをベンチに置くと、僕は自販機まで戻った。


「あっ!良かったメロンソーダを売ってた」

サイフから120円を出してお金を入れる。

そしてボタンを押して無事に買えた。

「はい、どうぞ」

「ありがとう!」女の子はジュースを受け取ると、嬉しそうにキャップを開けて、

ゴクゴクと、美味しそうに飲んだ。


「いつもお兄ちゃんを見てたの。一人でここに来てるでしょう?」

「あ。あゝ。受験生だから夜中まで勉強してると疲れてね。この公園がちょうどいい休憩場所なんだ」

「ふ〜ん。勉強って疲れるんだ」

「少なくとも僕はね。あんまり頭がよくないから、頑張らないと」


女の子は、黙って訊いていたが、ポケットから何かを取り出した。

「お兄ちゃんに、魔法をかけてあげる。メロンソーダを買ってくれたから」

「魔法?どんなのかな」

女の子は掌に握っていた細かい金色や銀色の粉のようなものを、僕の頭にパラパラとかけた。


そして嬉しそうな笑い顔になって、僕を見た。

「これでもう、お兄ちゃんはあんまり疲れなくなるよ」

僕は肩や袖に付いて光っている、細かいガラスみたいな、でもすごく綺麗な物を見ていた。

「ありがとうね」

そう云うと、女の子は、はにかんだ顔をした。


「わたし、もうパパとママのところへ帰るね、バイバイお兄ちゃん」

そして夜空を見上げ、勢いよくジャンプした。

女の子は南の宇宙(そら)に飛んで行き、

オリオン座と、その下の、おおいぬ座、その横にある、こいぬ座の一つに収まった。


「凄いものを、見たんじゃないか?自分」

僕は呟いていた。

「たぶんオリオン座がパパで、その下のおおいぬ座がママ。横のこいぬ座に彼女がいるんだろうな」

星を見上げていたら、こいぬ座の一つが、

キラキラ光った。


この夜以降、不思議なんだけど、本当にあまり疲れなくなったのだ。

「よし!絶対に合格するぞ!」

あれ以来、僕の机にはいつも、メロンソーダが置いてある。


       了


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