見出し画像

 幽捨 (ゆうしゃ)

朝おきて直ぐにテレビをつける。

ニュースを見るためだ。

「まただ」

このところ、毎朝どこかの電車が遅れてる。

俺はため息をつく。

しかし開き直るのも早い。

遅刻確定なのだ。焦っても仕方ない。

コーヒーを飲みトーストを食べる。

いつもは何も食べないが、わざとゆったりと朝メシを食う。

駅に着くと案の定、人、人、人で、ごった返している。

コイツらを全員、履いて捨てたら気分がいいだろうなと思う。

電車が着いたがぎゅうぎゅう詰めで俺のところまで乗車資格は、まわってこなかった。

それから20分後に次の電車が来た。

絶対に乗ってやる!

俺は車内に突進し、ようやく乗れた。

殺人的なラッシュの凄さを知っている人も多いだろう。

新品の靴は踏まれ、痴漢に間違われないよう両手でつり革に掴まる。

俺の横にいるヤツは、かなり酒臭い。

最悪だ。こっちまで二日酔いの気分になるじゃないか。

「お前みたいな若者は年寄りに席を譲るべきだろうが!」

優先席で怒鳴る高齢者がいる。

お前が喚きながら動く度に、アンタの背中のリュックが人を殴っているのを知らないのか、このジジイは!

優先席に座っている30代の男性の顔色が悪い。体調が優れないようだ。

優先席は年寄りだけのものと思っている年配者が多い。

こういった老害が増殖している。

最寄りの駅に着く。

しかし、ここから新たな闘いが始まる。

歩きスマホ族が前、後ろ、斜めから歩き出してくる。

コイツらの目にも耳にも、人のことなど入っちゃいない。

何故、ルールを守る人間が気を配り、スマホ族を避けなければならないのか。

「てめぇ!」「なんだ、やるのか?」

喧嘩が始まる。

だが皆んな急いでいるので無視して歩く。

車掌が飛んでくる。

「ちょっと、私のパンプス踏んだでしょう、高かったのよ。謝ってよ」

うおーー!

俺の前を歩く髪を1:9分にしている男が喚きながら走り廻る。

鉄道警察隊がやってくる。

地上に出て、歩いて歩いて歩く。

ようやく会社に到着。

デスクで狂ったようにパソコンのキーボードを叩き、アホな上司の愚痴を聞き、社食で不味いメシを食う。

午後からは、お得意さん周りで1日が終わる。

駅に向かう。わらわらとスマホ族が集まってくる。

コイツらの溝落ちを殴ったら爽快だろう。

スマホを踏んづけ破壊したら痛快だろう。

再び満員電車に詰め込まれ、踏まれたカエルのようにドアに顔を押し付けられ、ひじ鉄を喰らう。

電話がかかってきた。

胸ポケットの携帯がバイブで知らせる。

次の駅で降りて発信者を確認する。

ライブハウスのマスターからだ。

電話をかけると「かけ直させて悪いな。

これから店に来てベースを弾いて欲しいんだ。忙しくなりそうでさ。どうせ暇だろう?」

「暇とはご挨拶だな。ベースだけかい?歌わせてはくれないのかな」

「よく言うよ。三度の飯よりベースだろ」

「その通り(笑)これから向かう」

俺は行き先を変更し、電車を乗り換え店のある駅に向かう。

着いたらネギトロ丼の旨い店で急いで腹ごしらえをし、とあるビルのエレベーターに乗った。

店のドアを開けると、既に酒に飲まれている客が騒いでいた。

「やあ!疲れているところ悪いな」

マスターが手を挙げる。

「ごめんねー、立て込んでてね」

店主の従姉妹であるママさんがカウンターから顔を出す。

窓際の席で喧嘩が始まる。

ママさんは、ジンのボトルを持っていき、喧嘩している客の頭を殴る

客はヘナヘナと床に沈む。

店内は砕けたジンのボトルが散乱し、店の中は一気に酒臭くなった。

「もったいないから今度からは空のボトルにしようっと」

酔っ払いと寝ている客しかいない。

チャンスだ!

俺はマイクの調整をし、壁にかけてあるベースを手に取った。

スキマスイッチでも歌うか。

誰も聴いちゃいないが、構わないさ。

ドラマーのマスターが泥酔している客の頭でカウントを取る。

マスターが笑う、ママさんも笑う。

今夜は俺の貸し切りになりそうだ。

喧嘩したけりゃすればいい。

ただし壊した物は弁償しなよ。

この場だけは、俺だけが“勇者”だ。

思い切りベースを弾き、歌う。

この場だけだった。
今夜がラストナイト。



散々、こき使われた会社など、とっくに倒産した。

最初に書いたことは、過去の話。


もちろん誰にも話してない。

これからも話す予定など無い。

仕事?探したさ。

だが慶大出の俺に相応しい仕事なんぞ、ありゃしない。

俺を誰だと思ってるんだ、え?


俺に相応しい人間など、一人も存在しなかったな。
なんで、あんなに底レベルなのか、
理解出来ないよ。


俺のプロ並のベースを聴き分けることが出来る連中は、数名いたが。



そんな訳で、マンションなんかに住んでるわけがない。


18年前には、薄ら予想していたことが、現実になっただけの話。

俺は、いつか俺の凄さに気付かない奴等に、破滅させられるだろう。
との予測。


そしてこの後も、慶大出の、今は哀れな俺の寝床に帰るわけ。


新宿西口に、大勢地面で寝ている人間共の一員だ。


大昔、付き合ってた女と、ライブハウスの後で必ず通った場所。
(あの女も精神異◯者だったな。
この俺から離れてったんだぜ?。
面と向かって云ったよ。
[精神異◯者]ってな 笑)


それからも俺は電話で云ってやった。
「アンタ一人の人生を潰すことなど簡単だって覚えてな」ってね。

その女は不安障がい持ちだったから、さぞかし怯えたことだろう。
病も悪化したかもな。

俺に「別れます」
なんて生意気言いやがるからさ。
ざまーみろ 笑




「俺は絶対に、こうはならないぞ」
あの頃、呟いた場所に着いた。


ブルーシートを広げ、その上に二枚のボロ切れを敷けば完成だ。

簡単なもんだ。


横になって、段ボールで囲う。


じゃあな。

おやすみ。


      了


大幅に直しました。
殆ど別の小説になっています。





 

                       






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?