ゴンッ！　

「ハイ、生と煮込み、お待ち」

「う、うん、いて〜〜」

「ケン坊どうかしたのか？」

彼は、電球を指差した。

「あっ！これにぶつかったのか？」

オデコを手で押さえながら、ケン坊は頷いた。

「これなぁ、常連さんが小樽に行った時に

自分で作ったガラス玉なんよ。店で使った欲しいと頼まれちゃってなぁ」

「店長、ええがなええがな。ワシが気を付ければいい話しや」

「ありがとなぁ。後で好きな物をご馳走するさかい」

おーーい、店長ーー

「はい、今すぐ。じゃあな、ケン坊また後で」

「おう！頑張れな」

「よっしゃ！飲むぞ〜」

ケン坊は、手にしたおしぼりを、じっと見つめ、おでこに当てた。

「たんこぶが早く消えますように」

「まずは、煮込みから……と」

「うまい！このネギの山盛りが嬉しいねぇ」

ケン坊は、生ビールを飲みながら、さっきぶつけた、ガラスの玉を見ていた。

「潮の香りがしてきそうだな」

「小樽か。行ってみたい場所の一つだ」

ケン坊は、ハッとした。

通路を挟んだところのテーブルにいる、初老の男性が、さっきからケン坊を見て、顔をくしゃくしゃにして、笑ってる。

〈な、なんだ、あの人は。いつからワシを見ていたんだ〉

すると、その男性が立ち上がった。

〈え？どこ行くつもりなんだ〉

　　　ゴン

〈あ、ぶつかった〉

「こんばんは。突然に話しかけて、驚かれたことでしょう」

「はあ」

〈分かってるんなら話しかけて来ないでよ、爺さん〉

爺さんは、腰をかがめ、紙袋から何かを取り出した。

　　　　ゴン　ゴン

〈大丈夫なのか？ゴンゴンぶつかってるが〉

「いやね、店長からこのガラス玉を、たいそう気に入ってくれたお客さんがいると訊きまして、嬉しくて嬉しくて。是非一度はご挨拶をと」

〈もしや、ワシがガラス玉を気に入った客か？この流れは〉

「あの、珍しくも無い物ですが、受け取ってください」

「そんな、気を使わないでくださいよ。このガラス玉は素晴らしいから、素晴らしいと店長に話しただけなんですから」

「感激しました。ありがとうございます」

　　　　ゴン　ゴン

「いや参りましたな。では遠慮なく受け取らせて頂きます。ありがとうございます」

　　　　　ゴン　ゴン

痛いなぁ。

いったい幾つコブが出来たんだろうか。

そしてこのお土産は、まさかの……。

「二人で何やってるのよ、ゆっくり座って話せばいいのに。　これ、お二人へ、ボクからの気持ちです」

「あ、シャンパン」

「店長、ありがたく頂くよ」

「そんな、大層な品物では、ないのでお恥ずかしい」

3人で、乾杯しましょう。

「かんぱーーい」

「美味しいよ、店長」

「うむ。うまいぞよ」

　いやいやいや　　はははは

ゴン　　ゴン　　ゴン

ワシはこっそりトイレに入り、北海道のお土産を見に行った。

「はぁ〜〜。裏切らないわ」

　木彫りの熊が鮭を加えている置物だった。

　　　　　　　おしまい