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フランスの郷土菓子をパリで極める

ークグロフの巻


パリは20区に分かれているのだけど極めて小さい。意外なことに東京23区の中にパリ20区はスポッと入ってしまうそうだ(入れようとした事はないけれど)。

私はその内の12区にかれこれ7、8年住んでいる。他のパリ市内の区に住んだことが無いので比べようがないのだが、エッフェル塔は窓から見えないけれどセーヌ川には歩いて10分位で行けて位置的にまず気に入っている。

メトロの最寄りの駅は2つあって、バスも数本通るし、スーパーマーケット、マルシェ、ピカール(冷食専門店)、チーズ、チョコレート専門店や惣菜屋等も充実している。最近では美味しそうな肉屋を見つけ、早速土曜日に顔をだしてみようと思う。そこはロティスリー(その場でローストして販売)でもあるのだが、土曜日限定でブレス(チキンの名産地)産のチキンを販売するらしい。

また、特に満足しているのはパン屋の数が多くて質も良いこと。今年(2021年)のバゲット・トラディション・コンクールで優勝した<レ・ブランジェール・ド・ルイリー>は12区だし、そのすぐ裏にある<ルロワ・モンティ>は2019年の勝者。でもバゲットの違いは微妙なものであって、審査基準と個人の好みが必ずしも一致する訳ではないが。

ウチの近所はモンマルトル近辺とは違って一見は何もなさそうなところなので知らないと美味しいものに巡り会えないところが住民としては自慢である。

ところで、最近ではフランスでも食パンが注目されているが元来、食パンのことをフランス語では<パン・ド・ミー>と言う。
昔からクロック・ムッシュ(トーストサンドウイッチ)に使われたりしていたが、20年以上前には薄切りパンが一般に販売されてなく、日本で食べるような薄切り食パンのサンドウイッチは出来なかった。近年少しずつ薄切りをスーパーマーケットなどで見かけるようになってきたが、あまり美味しくない。


そんな時に出会ったのがこのパン屋、ヴァンデルメルシュ(Vandermeersch)である。しかもここはクグロフ(kouglof)で有名なのにも関わらず、見た目でミルフィーユ(後から知ったのだがこの店はミルフィーユが美味しいのでも知られている。)、モンブランの為に店内に入ったら丁度新製品販売初日でパン・ド・ミーの試食をさせてくれた。そんなチャンスを断る手はない、というので躊躇いもなく頂くと、これがふかふかしていてかなり美味しかったのを記憶している。今ではもう見なくなってしまったがその時はここのパン・ド・ミーには感激した。

ここのオーナーのステファンはノルマンディー生まれのベルギー人で、何とフォションとラデュレで働いたことがあり、あのピエール・エルメに声をかけられ、エルメのもとで修行したという。そんなステファンが自分の店を持つようになって、スペシャリティとして全面に押し出すようになったのが<クグロフ>である。

クグロフとは、オーストリア、スイス、ドイツ、そしてフランス北東のアルザス地方のスペシャリティのお菓子である。
ではそこまで行かないと無いのかというと、実はパリでも結構巡り会える。

それがステファンの店のクグロフである。

ジャーナリストや研究家の食べ比べレポートを見るとやはりステファンのクグロフは常に良い評価を得ている。

では美味しいクグロフとはどういうもの?そもそもクグロフって何さ?

基本的に写真のようなクグロフ型にアーモンドとキルシュ(オー・ド・ヴィー)に漬けて香りを出したドライレーズンを入れ、ブリオッシュ風の生地を入れて焼き上げたもので、食べる前には仕上げとして粉糖をかける。もちろん材料などはそれぞれの職人が工夫していて、先日ステファンの店に顔を出した時にはフルール・ドランジエ(オレンジの花のエッセンス)を使っていると店員さんが説明してくれた。

型は独特のテラコッタで出来ていて、何でも良いわけではない。ちなみにアルザス地方のスフレンアイム村にはスフレンアイム焼きのアトリエがいくつかあって、そこ迄行けば様々なサイズの型が手に入るであろう。何せこの独特な陶器を使うことが美味しいクグロフを作る一番の秘訣なのだから。

ステファンの店にも様々なサイズのクグロフが並んでいて、一つ一つ値段が違う。ミニサイズで一つ2、80ユーロのものもあるがそれは流石に味がワンランク落ちると覚悟しなくてはいけない。やはり大きいものを食べる時にカットした方が美味しいはず。

美味しいクグロフとは2~3日置いてもパサパサにならないものの事である。


歴史的には19世紀前の情報はあまりないとの事だが、マリー・アントワネットがクグロフ好きで、フランスに嫁いで来る前にオーストリアで流行らせたらしいということと、18世紀に使われていたであろうと思われる古いクグロフ型が後に発見された事からすると、少なくともその頃には存在していたのであろう。

アルザス地方では日曜の朝に焼くパンであったらしい。また、クリスマス、結婚式、赤ちゃんの誕生祝い、村祭りなどの祝い事の際に焼いたりしたものだそうだ。

また、ステファンの店には甘くないクグロフもある。これはアルザス地方のコルマール出身のピエール・エルメのアドヴァイスらしいといわれる。基本的にはくるみとラルドン(ベーコンみたいな豚バラ肉)入りだが、先日買いに行ったときはチョリソーとドライトマト、ハーブ入りになっていた。これは是非アペリティフの時にワインと合わせたい。

そういえばクグロフに合うワインって?

これはもうアルザス地方のワインで郷土性を楽しみたい。アルザスに行ったつもりになれる。ああ、そろそろ名物の料理であるシュークルトが恋しくなる季節。でもその前にクグロフ・サレ(kouglof salé、甘くないクグロフ)をアペリティフ(食前酒)として。
お喋りは思いっ切り、そしてお腹をすかせてメイン・ディッシュに挑む。

もし胃袋が許してくれるならデザートとして甘いクグロフにアルザス地方自慢の甘口ワイン、ゲヴュルツトラミネールなんていかがかなと。

アルザス地方のワインは独特で、品種がワイン名になっているので逆にわかり易い。その中でゲヴュルツトラミネールは名前も個性的で、一度覚えたら忘れないし、薔薇やライチ、柑橘の香りや味わいも他のワインに比べて面白い。

注意していただきたいのはこのワインには遅摘みの甘口の他に辛口もある事。
甘くないクグロフにはこれでも良いが、やはり甘いクグロフには甘口のゲヴュルツトラミネールを合わせたい。

甘くないクグロフにはピノ・グリとか辛口のアルザス・ワイン何でもいけるが、リースリングはやはり独特の香りや酸味をじっくり味わって欲しいのでチョリソーとかと一緒に口に入れると少しもったいないような気がする。

以上、今回はクグロフとワイン、そしてテーブルコーディネートとしてクグロフ型についてあれこれ話してみたが、アルザス地方にはこの他にもまだまだ食卓を豊かに演出するものがある。

特に<マンステール>というチーズについては、機会があればまたあれこれいじくり回してみたい。

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