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フランスの美しい村に魅せられて


ノルマンディー地方のブーヴロン・  アン・オージュ(Beuvron-en-Auge)と ディヴィッド・ホックニー


デイヴィッド・ホックニーのエキジビションを予約した。普段暇さえあれば美術館巡りをしていたので(目の保養だったり、息抜きだったりもする。勿論職場でもある)現在コロナ感染対策の為にフランス中の美術館閉館というのは致し方ないが、まさに大事なものを取り上げられた様な気分で何とも耐えられない。そこで画廊だったらヴィジット可能という情報を得て、早速チェック。サン・ラザール駅と シャンゼリゼの間位に位置するギャラリー・ル・ロングでの今回の機会をゲットした。やはり人との接触を避けなくてはいけないので室内人数制限の為 インターネット予約がオススメという気使い、他のギャラリーでやはり人数制限の為に外にズラリと入れない人の行列ができていたのを見てやはり予約できるところにしようと思った。建物は近辺のオスマニアン建築に囲まれても少しも引けを取らない立派なものであった。

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展覧会のタイトルは <私のノルマンディー>。ホックニーはイギリス人であるが、27歳からカリフォルニアに滞在しており、その後36歳からパリ、数年の滞在後再びカリフォルニア、とくにロサンゼルスに。その後イギリスに戻ったのは2005年、68歳の時である。2019年よりフランスのノルマンディー地方に住んでいる。既に一年以上ブーヴロン・アン・オージュという小さな、しかし <フランスで最も美しい>のラベルが与えられた村の一つで生活し、画家としての活動も続けているというので、これは以前の画風と比べてみたいと思った。

ホックニーと言えば1960年からのポップアートの イメージが強い。

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あるアーティストの肖像                                      1972                        個人所蔵     

いかにも天気が良さそうな山の景色をバックにプールには2人の男性のみが描かれており、一人は水底を平泳ぎで、もう一人は相方がたどり着くのを待っている。2人の男性の関係は?→ホックニーはホモセクシュアルであることをカミングアウトしており、しばしば自分自身を作品の主人公として、中に登場させている。この作品もその内の一つであると考えても良さそうだ。プールと言うと人工のもの、グリーンとブルーの自然の中に固いコンクリート、そこへ2人の人間の姿が奇妙ではあるが太陽の日差しを浴びてうまくこの背景に溶け込んでいるようないないような…。

You tubeで予め今回の内容をチェックしたら、主に画家がフランスのノルマンディー地方に滞在を始めてから描き上げた作品十数点が紹介されていた。現在ホックニーがノルマンディーの超田舎でどのような生活を送っているのかは知らないが、以前のスタイルとは明らかに違う点は構成の中に人物がまったくいない事。その代わりに風景画、特に林檎や西洋梨の木々がまるで人間のように描かれている様な気がした。そう、ポートレートのように。色彩の鮮やかさは相変わらずであるが、空の色に関してはノルマンディーの少し雲が混ざったような感じをよくとらえており、今までにはなかった色合いをだしている。林檎の実に関しても、ノルマンディーは林檎の産地で知られているが、甘ったるくなくて酸味が シャキッとしたところがフレッシュさを強調していて実に美味しいのであるが、このイメージを観ているとそんな林檎をそのままガシッとかじりたくなる。

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林檎の木                   2019年

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硝子の花瓶、水差しと麦            2019年

隣の小さな展示室に入ると室内で制作された上のような絵を含め、数点が見られた。見学者の内の一人が「これもホックニーの作品ですか」とスタッフの女性に訪ねていた。作風(主に色使いと、明らかに主題)が違っていたからであろう。そう、そこにあるものもすべてホックニーがノルマンディーに住み始めてからのものである。

会場にいた私以外の見学者はどのように捉えたであろう。実はギャラリーに入る前に思ったのだが、見学者は殆ど70歳台の、しかも女性ばかりに見えた。皆様お上品な、比較的近所からいらした感じで、お友達同士。多人数のグループもいなくて静かであった。朝11時頃だったので時間帯のせいか?また、美術館と違ってこういう画廊だから若い人達には入りにくさもあるのかもしれない。私は飛び抜けて最年少で、思い切り浮いていたのに始めから気がついていた。

会場内の絵画にはいっさい説明はついておらず、外に貼ってあった紙に印刷されたQRコードをスキャンして簡単な解説を読む事が出来るようになっていた。見学時間も25分と決められていて、スタッフが時計でチェックをしており、長居してそうな人を睨んでいたので結構居心地は悪かったし、質問もしづらかった。しかしながら、フランス国内でホックニーの作品を間近で観賞出来るなんてあまりないチャンスだし、コロナ禍のこんな時に芸術鑑賞が出来るなんて感謝しなくてはいけない。

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ブーヴロン・アン・オージュ パノラマ            2019年

一番最初のイメージと比べていただけるとすぐにおわかりかと思うが、現在ホックニーが住んでいる村である。ラベル<フランスの最も美しい村>に登録されている、人口ほんの200人少々の小さな村。シードル街道に近い。そう遠くないところにチーズで知られているカマンベール村、ポンレヴェック村、リヴァロ村もある。小さなマノワール(小ぶりの城)もいい味だしているが、中心部の楕円形広場の周りの家並みがずば抜けてかわいらしい。木組みの家など、いかにもノルマンディーらしいが、こんなところのレストランや、特にクレープリーでガレットやクレープをシードルと一緒に食べてみたいと思わせる。冬だったら煮込み料理もいいだろうな…。ステーキにチーズソースも悪くない。パンも竈で大きく焼いたのは格別おいしいし。もちろんバターをつけてみるのもおすすめ。デザートには林檎のタルトもいいけれど<トゥルグル>なんていうブディングみたいな郷土菓子に是非トライして欲しい。

そんなに食べきれないとお思いでしょうが、ノルマンディーには<ノルマンディーの穴>という言い伝えがある。フランス北部に位置しているので、特に寒い冬などは美味しくて熱い料理をばくばく食べて元気をつける。アペリティフで勢いつけて、前菜を食べた後、もうそれだけでも苦しいーと言うときに林檎のウィスキーといわれるカルヴァドスをほんの少々いただいて胃を拡張させる。そしてメインディッシュに突撃するのだ。豪快に平らげて、出来るだけチーズも楽しみ、或いは(そして?)デザートでしめる。気分がのっていたら食後酒でエンドレスというのも可。勿論個人差があるが、この幸せはやはり実際に経験してみなくてはわからない。

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ホックニーがフランスでどんな食生活を送っているのかは知らないが、ギャラリーの階段に飾ってあった写真を見る限りでは自然の中で自分の好きなものに囲まれて満足気な表情がうかがえる。今回展示されていた作品でも絵を描く事に対する情熱がダイナミックなタッチを通して十分伝わってきている。

2018年にホックニーはノルマンディーの中でも人気の観光地として知られるオンフルールに数日間滞在している。その時に、近い将来の長期滞在を考えたのかもしれないが、オンフルールはシーズンには人が多くて、あまり静かにゆっくり出来るところとは言えない。そこでタイプはまったく異なるが、静かなブーヴロン・アン・オージュに白羽の矢を当てたのではないだろうか。今後の彼の制作活動が楽しみだし、近い内に私も村を訪れて(毎年10月最終のウィークエンドにはシードル祭りがあるそうだ)ノルマンディーの田舎の魅力にふれたい。

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