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ブルーチーズのある暮らし


ロックフォールチーズとソーテルヌワインのマリアージュのお誘い



かく言う私も日常生活でブルーチーズだけをそのまま食べることは滅多にない。
恐らく塩っ気の強さがひっかかるのかもしれない。しかしながら盛り合わせで少しずつというときは必ず入る様な気がする。クセの強さに他のチーズが負けてブルーチーズのみ味覚の中に残ってしまわないように考えながら。

実際ブルーチーズを楽しむにはひと工夫が必要かもしれない。

ブルーチーズと言っても様々な種類がある。よく知られているのはイタリアのゴルゴンゾーラチーズ、イギリスのスティルトンチーズ、そしてフランスのロックフォールチーズである。
今回はロックフォールチーズについてあれこれと話してみよう。

意外に手強いので合わせる飲み物にも気を使う。

フランスのソーテルヌワインは甘口貴腐ワイン、ロックフォールチーズはしょっぱさとスパイシーさが特徴。そうなると一見甘塩のベストマッチであるが、人間同士でベストカップルを決めるのに見た目が合う、性格が合うだけでは決まらないのと同じで
この場合ワイン側の値段も少々複雑である。

ソーテルヌワインの中で誰もが知っているのは<シャトー・ディケム>であろう。
ボルドー市より更に南にあるソーテルヌ村で生産される最高の貴腐ワイン。

私は何度そのカーヴを訪れたであろう。もう20年以上前の事になるのであるが、一番よく覚えているのは葡萄畑の景色とティスティングのひと時である。最近は知らないが、当時は必ず2種類は飲めた記憶がある。

シャトー・ディケムは予約を入れて行くと必ずメートル・ドゥ・シェ(醸造責任者)が畑から始めて醸造所、カーヴ、そして最後にティスティングのコメントまでしてくれた。

当時私はジャックというドライバーとよく仕事をした。メドック、サン・テミリオン、そしてソーテルヌによく行ったのでジャックもどんどんワイン通になっていった。

とある日、ジャックがシャトー・ディケム訪問の際に到着前に「実はシャトー・ディケムを買ったんだ。」と打ち明けてくれた。そんな年代物を買ったとは思えなかったので、だいたいヴィンテージ2000年前後だったと思う。それにしてもこのワインの価格は半端ではない。

先ずは気候、土壌など葡萄生産するだけで特別な条件が揃っていなければいけない。加えて手間はかかる、時間はかかる、一年で少ししか出来ないのに収穫の結果如何ではその年のものはシャトー・ディケムと名乗れないと言う厳しさ。

だから価格もそれなり。

その日の最後にジャックが良い年のシャトー・ディケムの飲み頃はいつかという質問をした。メートル・ドゥ・シェは当時20歳前半といった感じの青年であったが、もちろんジャックがシャトー・ディケムを買ったなんて言ってないし、何のためらいもない様子で、「30年」と言い切った。

その瞬間にジャックが悲しそうな顔をしたのに気がついたのは私だけであった。
当時ジャックは60歳くらいだったはず。
微妙。

最高のワインも時には人を落ち込ませることもあるが、その後ジャックは立ち直って90歳まで元気で頑張ろうと思ったに違いない。やはり流石シャトー・ディケム。

是非一度お試しいただきたいが、実はソーテルヌ村の他の造り手のワインもそれぞれ個性があり、私は高く評価している。
当時のワイン仲間の内の一人が日本ではソムリエをしていて、その彼女がソーテルヌのパン屋で働いていたので私も恩恵に授かって来ることができたのは本当にありがたいことであった。

仕事ではシャトー・ディケム以外来ることはなかった。当時はボルドー市内に住んでいたのでメドック(ポイヤック、マルゴーなど)やサン・テミリオンには電車やバスで行き来できたがソーテルヌはそう甘くはなく、車がないと簡単には来られなかった。彼らのおかげで他の小さな生産者も色々とまわることができて、そうすると一日で3〜4件訪問して比べる事も出来たので得たものは大きかった。

個人的に一番大事なのは<香り>、(アローム、arôme)であった。柑橘やドライフルーツ、特に杏の香りをワインの中に発見した時は感動した。

実は私にとってワインを飲むことの喜びは色と香り、そして舌触りだけでよいのである。量的にはあまりたくさんなくてもよいのだ。しかしながらその場が楽しいと結構飲んでしまうこともある。

貴方もそうでは?


少し前にTWITTERでフルーツの柿とソーテルヌワインのマリアージュが流行っていた。自慢ではないが、その20年前に私はおもてなしの際にアペリティフ(食前酒)としてリッツクラッカーの上にロックフォールチーズを少々、クルミ、杏のドライフルーツ(当時はまだフランスではKAKIはあまり出回っていなかったし)をのせて小さなグラスに入れたソーテルヌワインを添えて出していた。

これ好評だったので是非お試しいただきたい。(写真は柿と葡萄、ブルーチーズにピーカンナッツなどのサラダ、これも美味しそう)

さて、ソーテルヌ寄りになってしまった話しをフランス最古のチーズと言われるロックフォールに戻そう。

フランスのブルーチーズはロックフォールだけではない。その他生産地域によってフルム・ダンベール、ブルーデ・コースや、ブルー・ドーヴェルニュなどもある。

また、同じロックフォールでも生産者によって、<ソシエテ>、<パピヨン>、<カルル>などがある。
 
私は以前ロックフォール村のソシエテ社を訪問したことがある。見学は入場料を払えばあとは勝手に自分たちでまわれるようになっていた。そこでの出来事は細かく覚えてはいないが、機会があれば一度は言ってみるのも悪くない。

さて、ロックフォールチーズの正体について簡単に話すと、フランス南部ミディ・ピレネー地方アヴェロン県のロックフォール・シュル・スールゾン村の地下に広がる洞窟に、小麦と大麦の粉で作ったパンを置いて採取、繁殖させた青カビ(penicillium roquefort)により熟成させた羊乳によって生産されたチーズ ーこれがロックフォールチーズである。

単に青カビの羊チーズと言ってしまえばもっと解りやすいかも知れないが、ここで<洞窟>と<パン>が出てくるのが面白い。

とある情報源による伝説では、数千年前に村のコンバルー山北側斜面に形成された洞窟で、羊飼いがたまたま置き忘れたチーズに青カビ菌が付着してしまい、こういったチーズが出来上がったという、まるでどこかで聞いた事のある話のようである。

しかしながら現在でもこの方法で青カビを使って洞窟カーヴで熟成させたものでないとロックフォールチーズとして販売出来ない決まりがあるくらいだから。

前々回の記事で<カマンベールの正体>というのがあるので、もしよかったらそこで<カマンベール村のマリーさん>の伝説を読んでいただいても、フランスのグルメの伝説はユニークであるのが興味深い。


更に皆さんご存知の様に、ブルーチーズは料理として加熱して色々と楽しめるところがよい。

単独でも、また他のチーズと合わせてもパスタやピザにしてもよいし、また先日時々行く<レオン・ド・ブリュッセル>というムール貝料理専門店で友人がチョイスした<ムールココットのロックフォールソース>がとても美味しそうであった。

最後に、これは私が大好きな<ステーキのロックフォールソース>はお勧め中のお勧めで作るのも簡単。よく、ソースをパンで拭って食べるのはマナー違反ではないか?と言われるが、私の意見は失礼どころかシェフにとって最高の称賛になると思う。だから本当に美味しいと思ったらためらいもなく皿はきれいにする。

ロックフォールソースは必ず皿掃除をしたくなる一品で是非お試しいただきたい。

ロックフォールチーズ、生クリームにナツメグ少々あれば出来てしまう。
チーズを細かく切って、生クリームと一緒に弱火で10分くらい、粉状のナツメグ加えて味付け(塩胡椒)すれば出来上がり。

このソースは他に写真の様なムール貝のココットや、もちろんパスタやリゾットにも使える。

ちょっとロックフォールチーズがあまりそうと思ったらお試しいただきたいが、加熱した場合に合わせるワインはソーテルヌでなくても、いや、むしろ違うワインがお勧め。


そんな訳で我が家には忘れられたチーズと言うのは滅多に存在しないのである。

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