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友だちを作らなくてもいいんだよ

私はかなりオマセな小学生だった。クラスメイトがジャニーズのアイドルに夢中になっている頃、ビートルズやカーペンターズを聞いていた。ジャンプやプチレモンの話題で盛り上がっているとき、村上春樹や村上龍の小説を読んでいた。(そこに書かれていた性描写については、一寸も理解していなかったのだが)

そんな早熟な小学生は中学生になった。クラスメイトはまだジャニーズとモーニング娘とジャンプとセブンティーンで盛り上がっている。そんな中、私は小学生の頃のように、大人が好むものを喜んで見て聞いて楽しんでいた。


当然その頃、気が合う友だちなんて一人もいない。だから音楽雑誌の読者コーナーでひっそりと友だちを募集した。そこで初めて好きなものを話せる友だちが出来た。その子はミカちゃんと言って、大阪に住む私より2つ上の中学生だった。

ミカちゃんと私は、毎週1通のFAXを送りあった。最初は好きなアーティストのおすすめのアルバムと全曲レビューを交換した。そのうち、学校で遭遇した出来事、分かり会える友だちがいないのって辛いよね〜など個人的な話もするようになった。



ある日、

突然FAXがおくれなくなった。何度手紙をFAXに差し込み、送信ボタンを押しても、ピーピーとした音とともに送信失敗とディスプレイに表示される。こんなことは初めてで。心臓がバクバクする。

このとき私は初めてミカちゃんに電話をした。直接話したことはなかったけど、もしかすると彼女に何かあったのかもしれない。もしくはFAXの調子が悪いのかもしれない。

受話器をにぎり数字を押していく。なぜか私はものすごく緊張していた。私の声を聞かれることが怖かったのだ。

数字をすべて打ち込んだ。そうすると聞こえてきたのが


「おかけになった電話番号はただいま使われておりません」


というアナウンスだった。なんて無機質で冷たい響きなのだろう。予想はしていたけれど、その事実を知ったときはえらく落胆した。


そこから私はまた一人で誰とも共有することもなく、自分の好きなものを愛でていく。なぜ、クラスメイトは幼稚なものばかり追いかけているのだ、と内心思いながら。でも誰かにわかってほしいと思いながら。



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今年の春、私は台湾の高雄という都市で古着屋『南瓜(Nan Gua』」を経営する昭霖(ジャウリン)』にインタビューをする機会があった。そこで忘れられない一言を聞く。

彼は独特のスタイルを持っていて、80年代の日本のバブリーな文化をずっと追いかけている人だった。台湾で、いや日本でも出会ったことのないタイプの人で。


彼はもしかすると、自分の「好き」を共有できなかった私と、同じ孤独を抱えているのでは…と思い聞いてみた。


「ねぇ、ヴィンテージを楽しむ土壌がなかった台湾で、どうやって理解してもらえる人をみつけたの?」

昭霖の言葉突き刺さるほどシンプルだった。

ずっとずっと一人だったよ。80年代のカルチャーに惹かれている人は、学校の中でもずっと自分だけ。でも、誰かとわかち合いたいって思うことはあんまりなくて。自分が好きなものはこの世の中にまだまだ溢れていて、そのすべてを味わうための時間は全然足りないから。寂しいとか、わかってほしいと感じるよりも、好きなことに徹底的に向き合ってきたんだと思う。


ああ、そうだった。私は誰かと分かち合うことばかり求めていた。寂しいと自分の境遇を嘆いてばかりで…。

昭霖の言うように、ひとりでもいいんだ。

自分の「好き」を静かに自分のなかで、コトコト煮込むように。ただ、私だけがそれを好きでもいい。「好き」という気持ちをまずは大事にして…



そんな言葉を、春だからと、友だちをいっぱい作らなきゃってソワソワ焦っていたころの私に贈りたいな。

心配しないで。

あなたが「好き」という気持ちは、誰に認めてもらわなくても尊いものなんだよ。

って。


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