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Q.相談に完璧に対応できるよう日々努力しています。この努力は間違っているでしょうか?

「あなたが今抱えている悩みは、すでに解決された問題である。」
2012年、技術評論社から刊行された「士業&資格取得者のための資格起業BIBLE」を全文無料公開中。これまでLEGALBACKS(旧経営天才塾)で寄せられた5000以上(当時)の相談の中から、頻出の相談に回答した書籍。コンセプトは「書籍のコンサルタント」。2019年、全文無料公開。

Q.相談に完璧に対応できるよう日々努力しています。この努力は間違っているでしょうか?

社会保険労務士で開業しています。社労士の仕事にはさまざまなものがありますが、労働トラブルの対応が得意なので、その分野を中心に裁判例なども含めて広範囲に何でも相談に答えられるよう、日々勉強しています。毎日勉強をしているので、少しずつ知識は増えてきたのですが、勉強の時間があるせいで、なかなか営業の時間が取れなくて困っています。この努力は間違っているでしょうか?

答えられない相談はあって当然

専門家として専門知識を身につけること自体は極めて正当なことです。ですから、あなたが行っている知識の研鑽は士業の鏡といえるほど素晴らしいものです。もし、あなたが開業資金に余裕があり、数年はのんびり仕事を取れば十分だということであれば、そのスタイルでかまいません。

しかしながら、もしすぐにでも顧問を取りたい、どんな小さな業務も獲得して生活費の足しにしたいと考えていたら、勉強は程ほどに切り上げて、営業の時間をつくるべきです。「知識が完璧でないのに、営業なんてできるのでしょうか?」開業当初の士業にこのようなことを伝えると、多くの場合このような反応が生まれます。その反応に私はもう一度質問を返します。「では、いつになったら完璧な知識が身につくのでしょうか?」という具合です。

そうです、完璧な知識など誰も身につけられないのです。完璧に近い知識ならありえるかもしれません。しかしながら、法律や毎年のように改正され、その都度覚えることを増えていきます。そのたびに営業の手を止めていては、いつまで経っても事務所の経営は潤わないのです。つまり、「答えられない相談はあって当然」なのです。

重要なのは「宿題を早く提出する」こと

誤解のないように伝えておきますが、知識を身につけることはとてもよいことです。士業として開業した以上、知識を蓄えることの投資は怠るべきではありません。ただし、優先順位を考えれば、「勉強」と「営業」のどちらにフォーカスするべきか、自ずと見えてくるはずです。

多くの場合、社労士の開業は顧問ゼロから始まります。人によって幸運にもいわゆる「のれん分け」のように顧問先を勤務先の事務所から分けてもらえるケースがありますが、最近ではごく少数のようです。ですから、誰もが早く仕事を取らなければならない状況にいます。開業資金が潤沢にある状況を除けば、勉強をしている場合ではないのです。資格を取ったことで、最低限の知識はあるわけですから、早く営業に取りかかる必要があります。

では、相談に回答できなくてもよいのか? と思われるかもしれません。もちろん、回答はしなければ仕事は取れないのはいうまでもないことです。ただし、「即答」しなくてもよいのです。商談でも同じですが、「その件に関しましては、調査の上すぐに回答いたします」として宿題にしてしまえばよいのです。

そもそもあらゆる分野について、完璧に答えられる士業はいないといっても過言ではないでしょう。そのくらい法律は難しく深いものです。ですから、知識を増やすことも大事ですが、それ以上に営業をして仕事を取ってくることが創業期の至上命題であるといえるでしょう。

常に必要な知識は「浅く広い知識」徐々に「深く広く」していこう

私自身が実際にこのやり方で仕事を取ってきました。23歳、実務経験のないところから開業しましたが、その当時お金はほとんどありませんでした。そのような状況で勉強に専念していたら干上がってしまいます。そこで、まずは広く浅く専門家としてプロになるのではなく、「プロ感」を出すように振る舞いました。つまり、広く浅くさまざまなことを知っているというところまで、短期間で知識を作り上げたのです。覚えるべきものは、私のように行政書士であれば許認可要件と主要な数字です。

たとえば、「建設業許可は500万円以上の工事について許可が必要になる」や、「NPO法人であれば、特定の17分野に関する活動をする団体であること」、「10名以上の人員が必要になること」などです。お客様のなかには、NPO法人であれば、「じゃあ、17分野って何があるの? 今すぐ全部教えて」という人はほとんどいません。聞かれるとしても「たとえばどんな分野ですか?」くらいのものです。その際に「スポーツ振興とか、まちづくりとかの活動がありますね」と、いくつかのことが答えられれば十分です。

もちろん全部知っているに越したことはありませんが、具体的に調べるのは依頼が現実味を帯びてきてからで足ります。実際に、私はすぐに稼ぐ必要があったので、この程度の知識を元にさまざまな人に会って問い合わせをいただいてきました。たとえばNPOの案件があれば、問い合わせには簡単に回答して、個別相談の当日までには一夜漬けでも完璧にして覚えておきます。事務所経営は業務知識の暗記が目的ではないので、前述の「プロ感」が出ていればよいのです。

もちろん、繰り返しになりますが、知識がなくてもよいというわけではありません。広く浅く覚えていって、徐々にひとつひとつの分野に詳しくなっていけばよいでしょう。あなたが社労士ならば、まずは労務全般の広く浅い知識を持ち、就業規則の相談を受けたらそのときに知識を増やしていく。そうすることによって労務全般の知識と就業規則についてやや強いというステータスに変わっていきます。このようにして徐々に完璧になっていけばよいのです。

士業として法律サービスを提供し、お客様に喜んでもらいたい、多くの士業がそう考えています。しかし、そのサービスを提供するにも、まずはお客様を見つけなければならないのです。ぜひこのあたりの優先順位を間違えることなく、日々の活動を選択してください。

【POINT】あらゆる分野で完璧な知識を持っている士業などいない。広く浅く知識を持って「プロ感」を出していくことが重要。あなたの状況に応じて、営業と勉強の優先順位を考えて日々の行動を選択していこう。

※掲載されている内容は、作品の執筆年代・執筆された状況を考慮し、書籍販売当時のまま掲載しています。

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