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Q.業務の受注時は、失礼がないようにお客様を信用して契約書を取り交わしていません。

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Q.業務の受注時は、失礼がないようにお客様を信用して契約書を取り交わしていません。

税理士で開業して2年目の者です。これまで紹介を中心に顧問を増やしてきたのですが、紹介の手前なかなか契約書を取り交わすことがありません。契約書を作ることは、紹介してくださった方を信用していないということにつながったりしないでしょうか? 契約書をつくることは失礼に当たる気がしてならないのです。

士業ならリスクヘッジのために契約書をつくるべき

たしかに現実的には、契約書をつくらないことを信頼の証と考えている人もします。しかし、士業である以上、やはり契約書はつくるべきです。契約書がなければ、いつから契約が始まるのか、肝心なお金はいつどのように支払ってもらえるのか、そういったことまで曖昧なまま仕事を始めることになってしまいます。

これはあなただけでなく、お客様にとっても決してよいことではありません。もう少し現実的に考えてみましょう。まず契約書をつくらないということは、いうまでもなくすべてが口約束になります。口約束でも契約は成立しますが、証明がないわけですから結果として「言った、言わない」という水掛け論になります。

最初は気前のよいことをいっていた社長も業績が少し悪化すれば、途端に顧問料の値下げをいってくるかもしれません。「最初から顧問料は前にいった金額の半分くらいにならない?」などといわれたらどうでしょうか。さらに、支払い方法も明確でなければ支払いも滞る原因になります。

口約束だけで顧問を続けてくれる会社があったとしても、今度はあなたの業務範囲が明確ではありません。一口に顧問契約といっても、お客様がどう思っているかわからないのです。

たとえば、あなたが入力業務と毎月の試算表作成、そして年1回の決算書、申告が仕事だと考えていたとしても、お客様から「相続手続きも顧問の中でやってくれないかな?」といわれれば、検討せざるを得なくなります。このようなことを防ぐためにも、契約書の中で顧問業務の内容を明確にし、何が別料金になるのかを明示しておくべきです。このように、あなたが税理士業をつつがなく行うために、契約書は極めて重要な位置を占めるのです。

契約書は契約解除にも役に立つ

さらに、残念ながらお客様のなかには顧問契約を続けてほしい方ばかりではありません。違法に脱税をするために税理士に相談を持ちかけたり、税理士の見えないところで脱法行為を行ったりする経営者も心ならずも存在するのです。こうした「顧問契約をこちらから解除したい」お客様がいたときにも、契約書で解除事項さえ決めておけば所定の手続きによって顧問契約を解除することができます。

もしあなたが契約書をつくっていなければ、顧問先に万が一違法な会社がいたことが発覚した際に深刻な風評被害を受けることになってしまう可能性があります。こうしたリスクヘッジのためにもやはり契約書はつくっておきたいものです。

契約書をつくる際のタイミングと注意点

以上のことから、顧問契約スタート時に必ず契約書を締結しておきましょう。このスタート時点で契約書を結ばす、先延ばしにしてしまうとあれよ、あれよと時間が経過してしまい、「今さらもういいよ」といわれかねません。ですから、最初が肝心です。契約書締結の際には、一言「形式的なものですが、念のために契約書の締結と契約の内容を説明させていただいてよろしいでしょうか?」と明確に伝えるべきです。

現場でよく聞く失敗点は、先ほどの「業務内容の不明確さ」がまず挙げられますが、これは何もあなたの無駄な負担を減らす意味合いだけではありません。そもそもお客様は一口に顧問業務といってもその内容までわからないことが多いのです。記帳代行まで必ずやってくれると思っている人もいれば、経理は自分でつけるものだと考えている人もいます。このように業務内容を説明することによって、他社と何が違うのかもプレゼンテーションすることができますし、双方にとってメリットがあることなのです。

そして、次に多いのが「顧問料の値上げ」についての記載と説明です。創業間もない新しい会社は、どうしてもコストを抑える傾向が強くよく「最初は顧問料を安くしてほしい。業績が伸びたらもっと払うから」と口約束します。しかし、数年後いざ値上げとなると渋るものです。こうしたことが起きないよう、1年ごとに見直すなどの規定を設けるべきでしょう。

最後に、契約書の締結に難色を示すお客様の場合にはこう対処しましょう。それは、「みなさん契約書に署名押印していただいておりますが、何か問題ありますか?」と伝えることです。これで「私は契約書なんか要らない」といえば、ただのわがままに聞こえるだけです。非常にシンプルな言い回しですが、予想以上に効果的です。

最後にひとつ私の失敗事例を紹介します。私自身も例外を除き、一つひとつの業務に契約書を取り交わしています。簡単な業務委託契約書になりますが、たった一度だけ契約書を交わさなかったケースがあり、そのお客様はリピートのお客様でした。一度ご依頼いただいているお客様なので、何の問題もないと会社変更手続きの印紙代をこちらで負担してしまいました。何度も顔を合わせているし、何の問題もないだろう。そう思っていました。

しかし、そのお客様には逃げられてしまい、約20万円の損害を受けてしまったのです。最終的に連絡を取ることもできなくなり、結果として1円も回収できなかったのです。これは極端な例かもしれませんが、このように近しい存在のお客様にもリスクは潜んでいるのです。あなたもこうならないよう、今からでも遅くないのでぜひ契約書の締結をお客様に相談してください。

【POINT】契約書はあなたにとってもお客様にとってもメリットがあるもの。そして、契約書がなければ契約解除も難しくなり、あなたの首を絞めることになる。絶対に作成しよう。

※掲載されている内容は、作品の執筆年代・執筆された状況を考慮し、書籍販売当時のまま掲載しています。

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