千音の旋律を編み続けていたか? ──いはくし氏に捧ぐ

 物申す。ということは、つくづく敬遠されがちながらも、人間誰しもしたくて堪らないものらしい。
 物申す言葉には、往々にして人の心の暗部と言うべきか、淀みと言うべきか、垣間見たとしてもおよそ心地良くはならないエゴが多分に含まれている。鋭い棘があるものから、毒のようにジクジクと気分を害するモノまで様々であろうし、それが例え良薬のようによく効くとしても、しかし口には苦いものであることとは切り離せないのである。

 巷には、ボカコレというイベントがあるが、これがまた良くも悪くも大荒れの言論が飛び交う、「曰く付き」のイベントである。そんな物事には、一蓮托生とも言うかのように「物申す」ことが付きものであるのは、もはや言うまでもないだろう。

 さて、当の私と言えば、物申すこともそんなにない(興味関心が薄いだけかも知れない)。ましてボカコレというイベントに対しては、まぁ大変なんだろうというような気持ちで毎度しれっと参加している。自薦や工作などという話も聞こえてくるが、私は元来我楽多粗大ゴミ音楽を作るに限るので対して高みを目指す気分はない。どちらかというと肥やし側、有象無象の一部がいいな、という気持ちですらいる。
 しかし、それはそれとしても目に余る横暴や意地汚さというのは、どれだけフィルタリングを施しても目に入ることがあり、それは自身のスタンスとは関係なく気分の何処かを曇らせるのである。それをわざわざ口に出すようなことはないにしても、柄にもなく内心「物申し」たくて仕方なくなることもある。


 話はやや変わり。
 私には、恩人ともいえる人がいる。「いはくし」というそのボカロPは、かつてコンピレーションアルバムやボカコレ春にて楽曲のミックスをさせて頂いたり、それ以外でもそれなりに交流のある方である。私から見れば格上とも言え、多くの楽曲は中堅クラスの評価を受けている。
 さて。この方がどんな方かといえば、多分に「物申す」方であり、もう目につく不正や戯れ言全てに怒りと憤りを滾らせ、それらを糧に楽曲を生み出すどころか、普通にツイートなどで言及したりするわけである。見るからに暴れるナイフのような性質であり、過激派前段階と評価できる(夜風見の主観的評価であるため悪しからず)。他方、筋は通っていたり、リスペクトと軽蔑の分野と要件がある程度明確だったり、表出する言葉の強さ以外にも目を向けると一定の説得力と理論性の元に成り立つ物言いをしており、全てを手放しに肯定できないにしても妥当性や共感性もまた同時に存在する、気がしている。私個人の視点から見れば、かなりヒップホップ寄りな感性、「仲間意識と敵対意識」の観念が強いと考えている。


 口だけで物申すのは、ダサい。
 有言不実行、或いはリング外からの野次や罵倒とも言えるだろうか。安全圏から口だけ出して、なんの責任やリスクを負わないというのは不誠実であると思うし、多分この点はいはくし氏も同意してくれると思う。
 そこで、私はボカコレにて同氏の楽曲をRemixすることで物申すことに代える。言ってしまえばこれはこれでダサいというか他人の褌で相撲を取るようなものだが、言うところや主張したいことは全く同じである。その上、この曲の歌詞、メッセージはまさに有象無象の蔓延り、不誠実な闘い方の跋扈するボカコレの舞台にて再度突き付けなければならないと強く感じたのである。
 物申すなら呟くのではなく、飽くまで作品として、飽くまでリスクと責任を負って正面から。いはくし氏へのリスペクトと共に、何処ぞの誰かが千回呟いた間に千音の音を編み続けてこの曲を再度主張しようと思う。

「Listen Up feat.Flower&Miku (YollCazami Remix)」


 原曲のタイトルは「聴ケ」というものである。まさしく怠惰な作家たちに物申す曲なのだが、この曲がなんとも伸びていない。即ち多くの指摘対象にまで波及していないのが実情なのだ。
 他方、何かしら露骨に物申す曲というのは言論ばかりが強い割にはサウンドの強度やクオリティに課題が残ることが嘆かわしい。
 要するに、この曲を指摘対象まで波及させつつ、言葉ばかり形式のみ楽曲としての体裁を取っている粗悪品とは一線を画した「作品」として仕上げる必要がある。一切の手を抜くことは許されない。と同時に原作者へのリスペクトは溢れんばかりに詰め込みたいとも思うし、私自身は楽しむために音楽をしているのだからその点をおざなりにしてもならない。
 勿論、妥協はしない。全て実現する。その為にも今回は林田泥リ氏にベースを依頼している。

 最後に、この曲の歌詞の一篇を引用して締めたいと思う。
「何を聴かせたいんだ」

 Remixとして、この私は歌詞へのアンサーに代えようと思う。
 音楽として完成させて、再度怠惰な作家達に物申すために。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?