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プラスチック問題を楽しく伝える人気動画「1ヶ月プラなし生活」はこうして生まれた。【RICE MEDIAトムさん・インタビュー前編】

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「難しそう」と敬遠されがちな社会問題。実は、潜在的に関心を持っている人は多くいるのかもしれない。

「社会問題」と聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか?地球温暖化、貧困、少子高齢化、ジェンダー不平等…など、挙げればキリがないほどに、私たちは多くの課題に直面している。

社会問題をわかりやすく発信するメディア「RICE MEDIA」を運営するトムさんは、様々な課題に関心を持ちながらも、発信内容の取捨選択を上手に行っている。

社会問題の解決に関わる人を増やしたいという想いから、身近なテーマを中心に発信する「RICE MEDIA」。中でも、「1ヶ月プラなし生活」は総再生数2,750万回(2022年7月時点)を記録した。トムさんが体を張って、使い捨てプラスチックを使わずに生活していく様子を1ヶ月間毎日ショート動画で公開するこの企画。初日に、スタッフからコンタクトレンズやトイレットペーパー(プラスチック梱包されているため)を没収される様子は思わず笑ってしまう。

トムさんが社会問題に関心を持つきっかけは何だったのか、どうして動画配信を始めたのか、その真意をじっくり語ってもらった。(インタビュー=清野紗奈)

インタビューを受けてくれた方:廣瀬智之さん。1995年生まれ。愛称は「トム」さん。2019年2月、Tomoshi Bito株式会社を創業。2021年12月に「RICE MEDIA」を立ち上げ、TikTokYouTubeなどを中心に、社会問題を楽しく知ることができる動画を配信中。


特別な人でなくても誰かの役に立つ活動ができると知った

▼最初に社会問題に興味を持ったのは何がきっかけだったんでしょうか?

「高校生のとき、学校の授業で『国際協力』っていう土曜講座があって、社会事業家やNPOの方が(講師として)来ていました。その中で『e-Education』という団体を知ったのがきっかけです。いろんな国で、貧困の子供たちが塾に通えないから進学ができないという状況に対して、その国で有名な先生の授業をビデオに録画して、農村地帯とかに配布する、という活動をしてる団体なんですけど。その団体を立ち上げた税所篤快さんの講義に大きな影響を受けました。

税所さんはすごく面白い方で、高校生のときは偏差値20か30とかしかない人だったんですけど、東進ハイスクールのビデオ授業を受けて、早稲田大学に入って。その(ビデオ授業の)技術をいろんな国に転用できるんじゃないかということで、バングラディッシュに行ってビデオ授業を始めた結果、バングラディッシュの東大みたいなところ(ダッカ大学)に合格者を出すことができた人なんですよね。

すごい人から話を聞いても、この人だからできたんだろうな、というので考えが止まってたと思います。自分よりも(勉強が)できなかった人が、大学生でこんな活動をやっていたという話を聞いて、気持ち次第で人の役に立つことってできるんじゃないか、と大きな気づきを得ました」

▼直接的に社会問題を解決することよりも、伝えることにすることに興味を持ったのはどういう気持ちからなんでしょうか?

「最初は税所さんにめっちゃインスパイアされてたんで、貧困問題の解決に関われないかと思って、カンボジアに何回か行きました。でも、なかなか税所さんみたいなアイデアは思い浮かばなくて...

当時、カンボジアで物作りの技術を教えて、作った物を販売して収益を上げて生活をしてもらう、という活動をやっていた団体の人たちと現地で知り合いました。僕はタイダイ染めを趣味でやっていたのでその話をしたら、『めちゃくちゃいいじゃん!』と言ってもらえて、服を染めて現地の方と一緒に販売するマイクロビジネスのようなものを始めました。

それは1年くらい続いたんですが、最終的には自分が苦しくなって…理由としては、タイダイ染めは趣味だったので、服が売れるようにタイダイ染めの技術とかを上げていこうと探求していくうちに、趣味が仕事になっていきました。自分がやっていたのはあくまで趣味だったので、命を捧げてやれるほど物作りが好きではないことに気づきました。服を染めることはあくまで手段なので、手段を変えても困っている人を助けることはできると思いました。

改めて自分が一番やりたいことってなんなんだろう? と考えたときに、写真を撮ったりとか、物事を伝えるみたいな方が好きだったので、今の形を選びました」

(写真=カンボジアにてタイダイ染めを行う様子。本人提供)

「伝えさせていただいている」という姿勢を忘れない

▼「RICE MEDIA」は動画中心のメディアですが、動画を選んだ理由はありますか?

「昔はテレビや新聞とか、みんなが見ているメディアが一緒だったけど、今の世の中には情報やコンテンツが溢れすぎていて、情報を取捨選択する時代になってきています。そうなったときに、やっぱり面白い情報とかエンタメがどんどん選ばれて、なかなか社会課題のような理解するのに時間がかかるものは選ばれづらくなっているんじゃないかと。

じゃあどうやって届けていこうかと考えたときに、世の中的にはショート動画が普及していて。ショート動画は、TwitterやInstagramと違って基本的に検索をしないプラットフォームで、潜在的に関心のある人たちに勝手に届けられるっていう特徴があります」

▼動画を作るうえでのこだわりはありますか?

「さっきの話じゃないですけど、基本的にショート動画って、自分から見に来てるわけじゃないんで、『伝えさせていただいている』というスタンスが大事だなと思ってます。別にみんな知りたいと思ってない、という前提に立たないと、興味がない人には通じないんで。そのスタンスに立ったときに、どういう切り口だったら、ちょっとでも見たいと思ってもらえるかというのは、すごい意識して考えてます」

潜在的には多くの人が関心を持っていた「プラスチック問題」

(写真=「1ヶ月プラなし生活」撮影中のトムさん。本人提供)

▼数ある動画の中でも、「1ヶ月プラなし生活」は「RICE MEDIA」の代名詞と言えるほど、メディアの存在が知れ渡るきっかけになった企画だと思いますが、なぜこんなに多くの方に見てもらえたのか、ご自身でどのように捉えていらっしゃいますか?

「僕が思っているよりもだいぶ見てもらえたので...たぶんみんな無関心ではなかったんじゃないかなっていうのは思っています。無関心そうに見えても、本当にどうでもいいと思ってたら、たぶん(動画を)見ないと思うので。

あとは、社会問題の中でもとっつきやすいテーマでもあるのかなと思います。当事者がプラスチック問題にはいないので。ほかの社会問題では、当事者がいたりとか、考えるのが辛くなるような問題もあります。そういうテーマに比べると、伝える難易度は低かったのかなと思います。

切り口も、『1ヶ月使い捨てプラスチックを一切使わずに生活できるのか?』みたいなノリって、社会派コンテンツではあるけど、半分ちょっと挑戦企画的な要素があるかなと思ってて、そういった要素も組み合わさって、いい形で多くの方に届いた気はしますね」

▼私もその通りだなと思います。チャレンジ企画はYouTubeの動画の中でも引きがあって、かつ、プラスチックごみって自分たちも毎日捨てていると思うので、一部分だったら真似できるっていう。そういう身近に感じられる部分がすごく良かったのかなと思いました。

「分析いただきありがとうございます」

▼来年の「1ヶ月プラなし生活」も期待していいですか?

「たぶんやります!ちょっとブラッシュアップさせて、そろそろ海外行きたいなと思っています。今回、結構日本全国回ったので、ヨーロッパとかオーストラリアとかの先進的な事例を見てみたいです」

インタビュー後編では、家畜の幸せを考える長尺動画「1週間牛飼い生活」のお話や、数え切れないほど多く存在する社会問題に対して、トムさんがどのように向き合っているのかを伺っている。


執筆者:清野紗奈/Sana Kiyono
編集者:河辺泰知/Taichi Kawabe、石田高大/Takahiro Ishida

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