久しぶりファッション: JIL SANDER 2024FW

入院生活というのはとにかく心配されがちです。
一日中パジャマみたいな入院着で過ごして、移動中は常に点滴をぶら下げて歩き、何もない時はベッドの上で休んでいる、そんなイメージがあります。

そんなイメージはさておきこちら体が至って元気なもので、入院はしていますがいつも通りに仕事もしています。
でも、せっかくの入院生活なのでいつもとは違ったこともしたい。
そうだ、自分の原点であるファッションの世界にいつもより長く浸ろう。
前々からもう一度服作りをやりたいと思っている自分にとってそれは、いいガソリンになるかもしれない。

そんな気持ちもあって、久しぶりにファッションウィークのランウェイを見ました。

Jil Sander Fall/Winter 2024

創業デザイナーであるJil Sander氏が去ってから何人かクリエイティブディレクターが就いた後、2017年からルーシー&ルーク・メイヤー夫妻が共同クリエイティブディレクターというポジションに就くという珍しいスタイルで展開しているJIL SANDER。

ジルさんが築いた上質を極めたソリッドスタイルを「クリエイションの深み」という別角度からのアプローチで引き継いでいる印象だったJIL SANDERですが、今季はやってきました。仕掛けてきました。

一発目からマスキュリンなドロップショルダー、からのマイクロダーツで三次曲面を与えられた袖に、ウェストシェイプというフェミニン装備。
シルエットだけだと騎士が纏う甲冑にも見えそうな、JIL SANDERらしい手法で構築された、JIL SANDERらしからぬセットアップです。
一発目にこれを出すかーとちょっとびっくりしたのと同時に、メイヤー夫妻の道とJIL SANDERの道が完全に交わったなと感じました。
だってJIL SANDERっぽくないんですよ。
全然そう見えなかった、最初。
むしろJUNYA WATANABEの1997 Spring/Summerの再来かと思いました。
でもランウェイで揺れる素材の動き、テクスチャと立体感が、JIL SANDERだなって思わせてくるんですよ。
1回しか見てないので体感ですが、2〜3割くらいはこのシルエットのバリエーションだったと思います。
それくらい、このアプローチが新たなJIL SANDERの扉を開けたっていう事なんだろうなと感じました。

80年代のビッグショルダーではなく、しっかりとアップデートされたオーバーショルダー。
ポップな色合いとエレガントなカッティング。
そしてリラックスウェアの中に散りばめられたラグジュアリーエレメント。
フェミニンとマスキュリン、リラックスとラグジュアリー、ポップとエレガントといった一見対極的な要素たちが、ジルさんの哲学とメイヤー夫妻の深さが交わったクロッシングポイントでの共存に成功した、そんなコレクションでした。

今回はブランド公式ムービーを見たんですけど、コレクションを見る時はできるだけブランド公式ではなくメディアが撮影したランウェイを見るようにしています。
コレクションの見せ方って交響曲の作曲に近い感じなんですけど、その交響曲をライブで聴くのか、録音で聴くのかの違いみたいな感じです。

コロナ禍でランウェイが開けない中、多くのブランドはコレクションを映像作品としてエディットする事を獲得し、ランウェイが再開した今でもその時に得た技術、プレゼンテーション手法が残っていて、ブランド公式のランウェイムービーこそが最終的な作品であるとも言えるのかなと思います。
しかし、ランウェイのあの現場にしかない空気を一度味わってしまうとエディットされた公式ムービーでは物足りなく感じるんですよね。
デザイナーやクリエイティブディレクターを筆頭とした作品を送り出す側にとっては、コレクションの発表って半期の売り上げを左右する(半年に1回ではあるけど)一世一代の大勝負の舞台なんです。
バレエの公演みたいな感じですね。
でもそれを観にくるお客さん側は、あくまでビジネスとしてタイトなスケジュールの中でいそいそと観に来ている人が多いんです。
もちろんアンバサダーとかフォロワーもいるけど、終わったらさっさと次の会場に向かうドライな人が多い。

その温度差が、通常の舞台芸術とは全然違う雰囲気を醸し出すんですよね。
熱量としては舞台芸術に勝るとも劣らない「場」でありながら、数字だけで判断されるビジネスの場でもある。
そこに、ファッションをアートや哲学のような観点で語る人、ビジネス観点の数字で語る人、ただただ褒める人、しっかりと評論する人、色々な人が周辺環境を構成している。
その独特の空気ってリアルなランウェイにしかなくて、その空気と共にデザインの香りを受け取れる場所がコレクション会場なんだなって感じています。


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