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眼鏡探訪記:後編

前編はコチラ

インスタントでないことの理由 

 最初に書いておくと、心を決めて「ヨシ!今日眼鏡をつくるぞ」として店内ですべての工程にかかる時間は1時間ほどだ。その後予定もなく帰宅するのみだったので全然問題なかったが、さらに受け取りは一週間ほど後になる。それを聞いて心が躍った。「すごいな。。インスタントに受け取れないって点がまたいいじゃないか」と。「えー、そんなにかかるんですね」という私の言葉は、そうしたプロの仕事を間近で見るわくわくに基づいているのだが、店員さんは少し恐縮した感じになってしまった。

 まず、装着しているコンタクトレンズを外すのだが、ここで言われたことに驚いた。「レンズを外していただいて30分ほど、裸眼の視界に慣れていただいてから検眼を始めます」と。なんと!なんと贅沢な。少し困ったのは、その間どうしていたらいいの?ってこと。見えないからで歩けないし、、。というのは杞憂。「その間にいろいろと支度がございますから」と優しく微笑まれた。わくわくが止まらない。
 いったん美容院の椅子のような(目の前に大きな一枚鏡があるのでまさしく美容院)ところに移動して、事務的な手続きなどを済ますのに約7分ほど。その後に行った機器を用いた検査が個人的に超ハイライトであった。

フレームと自分の瞳の位置を計測!ここまでやるんだ…

 なんと、先ほど選んだ眼鏡のフレームと、私自身の瞳の位置を計ってバランスを取るのだ。すごい!独自の機器でカシャ!カシャ!と撮影をし、さまざまな角度から見たフレームと瞳の位置を確認していく。私はすっかり興奮していた。「フォーナインズ」さんは、元々フレーム屋さんからスタートしたのだそう。このこだわりは素晴らしい。同時に掛けたときのフィット感も調整していく。鼻の高さ、耳の位置、細かくチェックしてくれる。そうこうしているうちに程よい時間になり、さらに店内を奥へと進む。

 「こんなにお店に奥行きがあって広かったとは…」と驚く。なんとなくこのパーソナル感もいい。すべてを衆目にさらされていると落ち着かないが、一つの工程ごとに仕切られた店内を移動するので、ほどよくパーソナルなのだ。ここからいつもの眼科などと同じ機器が出てきた。けれど、その検眼種類はいつもと違っていて、これもまた非常に私の興味を引いた。

 「利き目を確認します」。おお!テンションがあがる。確かに利き手があるのと同様に目にもそれがあるのだろう。結果、私は右目が利き目であった。その後、単純な視力検査というより「見え方の検査」が丁寧に行われた。たとえば、私が眼鏡をどういうシーンでよく用いるか?の質問から、概ねが在宅仕事中、夜間、新聞を読むとき、などと明らかにしていき、となると屋外で遠くを見るより室内で手元を見る場合に多用するであろう、ということになる。つまりは、そこに合わせて見え方を調整していくのだ。
 そのため、単純に「眼鏡をかけて視力あげます」ではない調整を担当さんが施していってくれる。

検眼中に店員さんを質問攻めに。ひたすらのブランド愛

 ベストな視力をどこに持っていくか?についても上記概念に基づいており、そのためコンタクトレンズでは1.2ほど視力を出しているのだが、それは遠くを見ることを想定しているためだ。自分の遠近調整力で1.2出してしまうと、室内で手元、特にPCやスマホを多用する場合だと若干苦しいことも検査によってわかった。はぁ~、ただ見えるようにするってことじゃないんだ。
 加えて乱視などもチェック。この、見え方カウンセリングに似た一連の調整、検査が自分にはとても楽しく、ずっと質問責めにしていたと思う。

 うるさい客であったろう自分に、担当さんはきめ細かく説明をしてくださって、その随所に自社への愛が感じられて私はさらに胸アツである。こんな幸福なことってないじゃないですか、自社製品への愛を感じながらプロとして店頭に立つって。こういう瞬間、私は買い物という体験をとおしてプロの仕事に触れる歓びでくらくらとしてしまう。(あぶない)

 ひととおり見え方の検査を終え、私の眼鏡は1.0程度の見え方で着地した。
その後また移動して今度はレンズを選ぶ。

 「フォーナインズ」には自社オリジナルのレンズがある。理由はこうだ。元々フレーム屋さんで始まったので、フレームへのこだわりは随所に込められている。先ほどの瞳の位置とのバランスや鼻梁や耳、骨格との合わせ、さらに疲れにくさ、また、ヒンジに施すスパイスのような飾りなど。となると、レンズも一般市販のもの以上に自社フレームと最適な組み合わせを追求するのは必至の流れであったろう。あー、取材だったら検査の内容すべて、レンズの自社オリジナルに込めた内容のすべて、資料をもらいつくしたりその場でメモを取れたりするのに、当然怪しまれるから求めなかったので詳細を説明できない歯がゆさ。一般市販品の方が若干お安いのだけど、(ほんのわずかね)説明を聞いてオリジナル品を迷うことなく選択した。

 ここまででおおよそ1時間。しかし眼鏡は今日手に入らない。なんて素敵!手に入らない理由は、この1時間、私の視力、視覚、目の形などすべてをつまびらかにされた。それらが調整され一体となって出来上がるのに時間をかけるのだ。そのときどんなに至福だろう?と考えるだけで胸が高鳴る。

おわりに


 プロの仕事に魅了され、店員さんに「しかし、ここまで仔細な工程のすべてを覚え、さらに見え方の知識、フレームの知識、レンズの知識を身に着けて、さらにはお客さんの個別へ対応する知識と技能を身に着けるのは相当なことでしょうね?」と聞いた。やはりそれはそうで、新人の教育はもちろん、それらを身に着ける新人さんのご苦労は多いようだ。でも、店頭でこんなふうに人を感動させられるお仕事なので、そこはもう先輩の背中を見て皆さんなんとか頑張ってほしい!と、まったく無関係ながら切に願う。

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