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二島さんのよしなしごと

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現代を生きる架空人物二島さんが、日々のよしなしごとを書き連ねた日記のようなエッセイのようなお話。
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口から宇宙語

「二島さんとお仕事するの初めてですよね。よかったらTwitterかLINEのアカウントを教えてくださいよー」 新卒の子と仕事をすると、自分の感覚と他人の感覚の差というものがはっきりわかるものである。私はどちらの私も彼に見せたくなかったから、のらりくらりと適当な言葉を交わして、仕事を終えた。 部署に戻り、経過報告をしたあと、先輩にこの話をしてみた。普通の人なら初対面でどういうことを聞くのが普通なのか、気になったから、そういう質問もしてみた。 「えー?そうだなあ。好きな

大体それは全部水

 連絡しても一向に返事がない友人の家に行った。合鍵でドアを開けてずかずかと入ると、彼女が自分で自分を殺そうとしているところに出くわした。水の音が嫌に耳に響いている。ぽっちゃん、ぽちゃぽちゃ、ぽたり。  「あ」  彼女が何かを口走るよりも先に、私は彼女の腕を引っ張る。取り急ぎ、彼女の保険証と診察券を所定の棚から引っ張り出すのも忘れない。腕の傷は浅そうだから、救急車じゃなくても多分平気だな。助手席を綺麗にしておいて良かったな。昨日が給料日だったからお金もあるし、どうにかなるだ

分からないばっかりの天の邪鬼

 分らないことを分からないままにしたり、分かろうとしたりすることができるから、理解できないと頭ごなしに否定されたくないというちっぽけなわがまま心から生まれる気持ちがあり、それが私を天の邪鬼にしているんだなあと思う。上司にお前からパワハラを受けたと言われた新人がいたからおとなしくしていろと怒鳴られたり、同期から「いっぱい仕事を抱えていて大変ですね。私は暇で仕方がないです」と言われたりしているけれど、生きている私って偉いなあ。前者はぶっちゃけパワハラを受けたと言っている人の意見を

知らんがなという顔

「二島ってさ、よく上の空っぽい表情しているけれど、割りと話はちゃんと聞いてるよね。器用だよね」 そうなの?!私は仕事のときはいつでも真剣に聞いているんですが?!上の空?!え?!そう思われていたの?!大ショック!!! という仕事の上でのショック二コマ漫画を、お風呂には入りながら思い出した。こういうとき、私は大概叫びたくなる質ではあるが、如何せんお風呂場なので、我慢せざるを得ない。頭の中で、自分の知らんがなという顔を思い浮かべて、それで頭をいっぱいにする。 うん。大丈

薪ストーブからマジカルバナナ

 休日は山の方に住んでいる知り合いの家にお邪魔して、薪ストーブの前で色々考え事をする。薪ストーブの炎の揺らぎを見て、そしてマジカルバナナ風に思考を重ねて、今は宇宙服に辿り着いた。 「人間の身体は一番身近な宇宙服だよ」  杉の葉がメラメラ燃えながら、そう教えてくれた。