「赤いクレヨン」 木村研

「子どもたち、今日も遊びにこなかったね」
「せっかくお休みになったのに」
 夜の公園で、遊具たちがおしゃべりをしていました。すると、
「今、コロナの感染が広がるから外に出ちゃだめなんだって。ほら、ぼくなんか、ロープをぐるぐる巻きにされたんだから」
と、すべり台がいいました。
 ブランコもシーソーもジャングルジムも、みんなロープでしばられています。
 その時です。
「わーん、わーん。おうちに帰りたいよー」
と、誰かが泣きだしました。
「だあれ?」
 遊具たちが首を伸ばしてみると、ブランコの下で、ちびたクレヨンが泣いています。
 しんちゃんのクレヨンです。
 何日か前、ブランコのそばで絵を描いていたしんちゃんが、忘れていったんでしょう。
 ブランコが、
「しんちゃんなら、また遊びに来るから、ここで待ってれば」
といったけど、
「だめだよ。しんちゃん、うちでお絵かきできないじゃないか」
と、もっと大きな声で泣きだしました。
「うるさーい」
 すべり台に描いてあったらくがきの赤い金魚が、ふわふわ泳いで、
「ぼくを描いてくれたクレヨンだね。ぼくが送ってやるから、もう泣くなよ」
と、いいました。
「ほんとに」
 金魚は、ちびたクレヨンをかかえると、夜の街をふらふら泳ぎながら帰っていきました。

 次の朝、しんくんが目をさますと、窓に赤い金魚の絵が描いてあります。
「あれ? ぼくの描いた金魚だ」
 窓を開けると、ベランダに赤いクレヨンが転がっています。
「公園に忘れたぼくの赤いクレヨンだ。君が届けてくれたんだね。ありがとう」
 しんちゃんは、金魚にお礼をいいました。
 だから、赤い金魚は、今もしんちゃんの部屋にいるんだね。

(作者のことば)
学校のお休みが長くなって、公園の遊具たちも寂しがっていますよ。早く会えるといいですね。

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