見出し画像

夫と見えない鏡

休日は家から一歩も出ない日も多い私にしては珍しく、2週連続で旅行に行ってきた。

それにしても、先週は高校時代の同級生たちと2泊したのがとても楽しくて、これは死ぬまで覚えているだろうな、というくらい心のベストテンの上位に食い込んだ。

たくさんおしゃべりをし、浴びるようにお酒を飲み、ほっくほくで自宅に帰ってきた。手を洗う。

洗面台の鏡が見えない。

鏡はそこにある。が、汚すぎてよく見えないのだ。自分が。
点々と、無数の水玉模様の奥に、怪訝な表情をした女がかろうじてちらりと見えるくらい。

そんなことあるか?
週末にざっと水回りの掃除をしているが、それが2週お休みになった(だったら平日掃除しろという囁きは無視)だけで、こんな鏡に、なるか?

そもそもこの水玉は何でできているのだ。
手を洗った後に、手から水しぶきをがんばって飛ばさなければこうはなるまい。
そんなことしてるやつがいたら、それは我が家の敵である。

夫がやってきた。
よもやこの愛する夫が敵であるはずないのだが、いかんせん我が家には人間が2人しかいない。
平たく言うと、こいつしか、いない。

夫は、私の不在時の猫の様子などをにこにこと話し、鏡をチェックして行ってしまった。
今どうやって自分の顔をチェックしたの? 顔、見えた?
この水玉が見えてるの、私だけなのか?
それとも水玉がついてるのは私の顔の方……ではないな。

すっかり混乱しながら、草間彌生みたいな鏡をガラスマジックリンでぐいぐいとふき取った。
こんな話、世にも奇妙な物語であった気がする、など考えながら。
(阿部サダヲ主演の、「バツ」でした)

後日、夫が洗面台で髪を洗い、そのまま勢いよくバッと頭を上げて水しぶきがびっしゃり鏡についた、クリティカルな瞬間を目撃した。
やはり。

静かな表情で立っている私に夫は髪を拭きながら、今日飲みに行く?などと、にこにこ話しかけてくる。

この記事が参加している募集

自己紹介

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?