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名目で消費支出が前年比マイナスの衝撃 - この異常な物価高騰が続く中で

大黒弘慈による現代資本主義批判の短稿が 9/5 のヤフートップに載っていた。現代ビジネスの記事で、『マルクスが喝破した、資本主義の「原理的問題」』というタイトルが付されている。中身は、論述の表現が難解で意味が少し分かりにくい。私なりに趣旨を要約すると、現代の資本主義は、労働者が自己責任で金融商品を買わされる時代である点が特徴で、すなわち労働過程において産業資本に搾取されるだけでなく、金融資本に収奪されるのだと説明している。労働者が投機に手を染めるようになり、過剰金融資本の運用先として家計が標的にされ、金融資本システムが破局する際のコストとリスクを労働者が引き受けさせられるのだと、そう述べている。政府による積立NISAの購買扇動や、岸田内閣の「貯蓄から投資へ」のスローガンが想起される。(写真はロイター)

もう5年10年ほど前から、このムーブメントは確実に起きていて、NHKなどが若者や主婦による株式投資ブームを特集し、満席の投資セミナーの会場を撮って視聴者を誘導する報道が繰り返されてきた。投機家は確実に増えている。最もそれを強く感じるのは、X(ツイッター)のアカウントが、やたら株や金融についての話題を書き並べ、蘊蓄と市場分析を披露し、トレードで儲けた自慢話を書き込んでいる事実である。本当に多い。というか、信じられないほど多くなった。雰囲気的には、Xで活発に投稿しているアカウントの多数派が投機家で、株をやってない人間が少数派の如きだ。若い層ほど株投機をデフォルトと考える者が多い。驚いたのは、例の土佐市カフェ問題の騒動を覗き込んで知ったことだが、地方でも株投機をやっている人間が多い実態である。

明らかに、株投機に市場参入している個人が増えている。新規参入が増加するということは、個人の資金が株式市場に大量に流れ込んでいるということであり、従来なら銀行の定期預金口座にある資金が、証券会社等の口座に移って市場で株の売買に動いていることを意味する。資金流入が増え続けているのだから、株が買われているということであり、当然、株価の平均は上がる趨勢になる。Xの投機家のポストも、したがって楽観的なものが多く、上がった儲けたと喜び、自らの投機センスと資本主義の栄華繁栄に満足する書き込みが多い。そして、金持ちの贅沢な奢侈消費やその欲望達成について書き散らしている。大黒弘慈は、彼らを金融資本に収奪される労働者だと書いているが、私はその対象をそうした同情的な視線で観察することができない。愚劣で不愉快に感じる。

全体を均して見れば日本企業は儲けている。利益を出している。利益剰余金を増やし、内部留保を積み上げている。だから株価が上がるのである。だが、その中身は、技術革新による画期的な商品開発の成功だとか、国際市場での競争力向上による売上の拡大ではなくて、労働者を低賃金に押さえ込み、正規を非正規に変え、働く者を不幸にするコストカットで実現した利益だ。その利益数字によって株価を上げている。それが基本である。2000年代から2010年代の日本企業の利益増殖の基本線はそこにあった。そして、非正規化による労働コスト圧縮が限界に達したところで、2020年代は別の方法で利益高を上げる仕組みとなった。それは何かというと、円安だ。円安は日本企業を儲けさせる。そのことは、円高になると全体が恐怖して株安になる現象からも分かる。

電力会社9社の今年4-6月期の業績が過去最高益を記録した。合計1兆円の黒字。常識から考えて、LNG等の燃料資源価格が高騰し、そこにさらに円安の追い討ちを受けているのだから、電力会社は赤字になるのが当然に見える。コスト上昇で経営が逼迫していて当然だ。だが、実際には過去最高益を達成している。なぜか。価格転嫁しているからである。昨年のニュースだが、INPEX・ENEOS・出光などの石油元売り大手は原油高バブルで売上も利益も倍増となった。小麦の輸入価格が上がり、次々に食品価格に転嫁され、庶民が口にするパスタやパンや菓子製品の値段が上がり、庶民生活は苦しくなっているが、製粉大手は売上と利益を増している。注目すべきは、何と言っても、日本に原材料を輸入している輸入商社の業績だ。今年5月に3月期決算の報道が出た。景気がいい。

三菱商事の純利益は、前年比25.9%増の1兆1806億円。三井物産の純利益は1兆1306億円。伊藤忠商事の純利益は8005億円。眩暈がする巨利を得ている。株価も上がり、株主への配当も増やすそうで、輸入商社の株を買っていた投機家はずいぶん儲けただろう。円安になってトヨタなど輸出企業のメーカーが儲けるという理屈は分かる。が、現実には輸入業者がかく大儲けしているのだ。国際市場での資源エネルギー高と、円安と、二つの原材料コスト高要因を、価格転嫁という方法によって凌ぎ、逆に巨万の利益を得ているのである。これらは、物価高騰という経済現象によって帳尻が合わされている。今年7月の全国消費者物価指数は前年比3.1%の上昇で、3%を超える物価上昇率が1年近く続いている。生鮮食品を除く食料品は9.2%上昇した。原材料供給大手資本の利益増の源泉だ。

9/5 に、7月の実質消費支出が前年比5.0%減という報道があった。物価高の影響で買い控えが起きたためだと説明されていて、消費支出の下落が5か月続いている。7月の大きな落ち込みは、21年2月以来の下げ幅を記録していて2年5か月ぶりの出来事だとある。当時のマスコミ報道を探したらグラフが見つかった。19年10月に消費税が8%から10%に引き上げられ、そこで消費がマイナスに転じ、さらにコロナ禍が加わって20年はずっと落ち込みの局面となる。が、そこからマイナス幅は改善して、コロナの収束傾向と共に消費はプラスの方向に展開していたらしかった。ところが、今回の物価高で一気に消費が崩れ、衝撃的なマイナス局面の到来となった。驚いたのは、名目でも前年同月比で1.3%減となった事実である。名目でも世帯当たりの消費支出が下がったのだ。信じられない事態だ。

物価は高騰しているのである。普通に昨年と同じ消費をすれば、名目消費支出は前年比3.1%増の統計値を計上しなければならない。それなのに、実際は1.3%の減となっている。名目が下がっている。買うものを減らし、より安いものを買い、文字どおり財布のヒモを締めたから、この結果となった。この異常な物価高の中で、名目の消費支出が前年比で減っている。実質に至っては5%の減となっている。100%を95%にしている。どれほど大きな消費減であり、生活の縮小であることか。電気など光熱費は上がっている。ガソリン価格も上がっている。その支出は切り詰められない。なのに、生活全体は95%のサイズとレベルに下げている。テレビのニュースでは賃金上昇が言われている。賃金が上がった上がったとマスコミは奉祝報道している。であるのに、全体で5%もの消費支出減が起きているのだ。

実際には実質賃金は下がっている。その事実をマスコミは報道も解説しない。一方で株価は上がっている。配当も増えている。投機家が、Xや5chで得意満面に自らの資産増を誇示する発信をして、それを見る者を株式市場に誘っている。富裕層および準富裕層に成り上がった投機家たちの消費は増えている。二極化しているのだ。

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