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「ハマス地下司令部」の話は嘘だった - 病院攻撃をエンドースしたアメリカの恥知らず

11月16日現在、ガザでの死者数は1万1470人に上り、うち4707人が子どもとなっている。犠牲者はさらに増え続けている。16日のロイターが、二度の空爆によって両親を殺され、自らも両足を失った4歳の男の子の悲痛な記事を配信していた。ガザの病院では麻酔なしで子どもの足を切断する手術が行われていて、凄絶な現場の状況を「国境なき医師団」が報告している。病院では医薬品も医師も不足している。その病院ですら、イスラエル軍は次々とミサイル攻撃して閉鎖に追い込み、11/7 時点で6割以上が休止状態となっている。思えば、空爆によって4707人の子どもが死んでいるのだから、重傷者の数はそれよりずっと多いだろう。昭和20年の東京や広島や長崎のような地獄になっている。治療ができない。怪我人が収容された医療施設をイスラエル軍は重点的に標的にしている。

今週(11/12-17)は、ガザ地区最大の綜合病院であるシファ病院への攻撃と、その情報戦が焦点になった。結局、15日に突入が行われ、ICUで治療を受けていた63人の患者中43人が酸素不足で死亡したと、ABCニュースが医師の証言を伝えている。今週前半、関心の的になったのは、シファ総合病院の地下に本当にイスラエル軍が言うとおりハマスの司令部があるのかという問題だった。事実なのか虚偽の作り話なのかという真偽判別だった。16日夜、NHKの9時のニュースでBBCの解説報道が紹介されていたが、BBCのキャスターは、地下にハマスの司令部はなかったと断定、イスラエルのプロパガンダ工作を暴露していた。また、NHKの7時のニュースに登場した錦田愛子も、イスラエル軍が「証拠」として示す映像を検証しながら、ハマスの司令部の所在を否定する見解を述べた。

病院の地下にハマスの司令部が本当にあるのか。日本のマスコミ報道では、11/13 のプライムニュースが特集して議論していた。佐藤正久は司令部はあると言い、イスラエルの諜報機関が調べてそう言っているのだから確度は高いだろうと根拠を述べた。他方、川上泰徳はその話は疑わしいと反論、ハマスが敢えて病院を「人間の楯」にする選択はするまいと持論を述べた。16日の「映像」とBBCの説明により、第三者の判定が出て決着がついた感がある。イスラエル側のプロパガンダ(情報戦)は失敗に終わり、国際世論から轟々の非難を浴びる展開となった。イスラエルの情報戦を正当化して世論工作に加担した佐藤正久のXポストにも、批判意見が殺到している。私見を加えるとすれば、15日の突入の際、戦闘がなく、病院内に潜伏するとされていた「ハマス戦闘員」の抵抗がなかった点に着目すべきだろう。

「司令部」と言うのだから、当然、そこには司令部を守備する戦闘員がいないといけない。だが、激しい交戦の形跡はなく、イスラエル軍が制圧時に殺害したハマス戦闘員の屍体映像もなかった。同病院で16年働いてきたノルウェー人医師も、「これはイスラエル側のプロパガンダ=嘘です」「一度も司令部があるという兆候を目にしたことはない」と明言していた。私はこの医師の良心を信用したが、やはり証言は正しかった。川上泰徳が解説するように、イスラエルの言う「病院地下にハマス司令部」という言説はプロパガンダであり、病院攻撃を正当化する口実なのである。病院攻撃そのものが目的で、病院の存在と機能維持が邪魔なのだ。現在、病院は住民が身を寄せるシェルターになっている。家を壊された住民が、命を繫ぐために集まる避難所になっている。イスラエルはそこを潰し、避難所を消したいのだ。

病院を潰し、病院からガザ住民を追い出し、南部へ強制移動させようとしているのである。それが作戦目的であり、狙いは病院そのものだった。北部には未だ数十万人の住民が残っていると言われている。イスラエル軍はこの数十万人を南部に追い立てようと躍起になっているのであり、病院の存続が障害なのだ。佐藤正久によると、イスラエル軍は北部居住のパレスチナ人をゼロにし、いわば「無人化」する戦略だと言う。その理由は、ハマスがテルアビブを狙って発射するロケット弾を迎撃する上で、北部に拠点があると距離的に至近すぎ、遠ざける必要があるからだと説明している。しかし、北部だけを制圧して「鉄の剣作戦」が終了かというとそうではなく、北部平定の後は南部に本格侵攻してハマスを壊滅するのだと言う。地上作戦の第二段階があり、北部掃討で終わりではないのだ。11/17 のCNNが予告を伝えている。

11/13 のプライムニュースで議論されたとおり、イスラエル政府は出口戦略として「三つの選択肢」という文書を示していて、A案、B案、C案があるが、作戦を統括指揮するネタニヤフの意中は、C案、すなわちガザ地区からのパレスチナ人の一掃・抹殺に他ならない。今回の「鉄の剣作戦」で最大数(数十万!?)のパレスチナ人を虐殺し、生き残ったパレスチナ人をラファ検問所の外に放逐、エジプト領シナイ半島の砂漠に難民キャンプのテント都市を設営して押し込める計画だ。資金は国連やカタールに拠出させ、国連に面倒を見させる思惑だろう。それが「第二のナクバ」の終着点だ。が、無論、百数十万の難民にはハマス戦闘員も紛れ込むだろうから、今度はそれを口実にして、砂漠の新テント都市を空爆して再び大量殺戮するのである。要するに、構想しているのは生易しい民族浄化ではなく、完全な民族絶滅なのだ。

ヒトラーのホロコーストと同じ、容赦ない最終目標が念頭に置かれている。一人も生かさず根絶やしにするというのがイスラエル政府の方針で、国際人道法の上に旧約聖書がある。さすがの佐藤正久も、南部にイスラエル軍が侵攻した場合は大虐殺は避けられず、アメリカも正念場を迎えるだろうと戦争屋の想像力をはたらかせていた(佐藤正久の認識では1か月で民間人を1万人以上殺す行為は大虐殺に当たらないのだろうか)。シファ病院突入に話を戻そう。攻撃のゴーサインとなったのは 11/14 のカービー記者会見で、「シファ病院を含むガザのいくつかの病院とその地下のトンネルを(ハマスが)司令部として使用している」「武器を保管しており、イスラエルの軍事作戦に対応する準備もしている」と述べた発言である。これがお墨付きとなった。11/16 と 11/17 にイスラエルが「証拠」として挙げた映像は、おそらくカービーの話と調整している。

符牒が合う。つまり、CIAが急拵えで「証拠映像」の制作を企画指導し、その範囲内でカービーの発言をセットしたのだろう。錦田愛子がコメントしていたように、「映像」に登場する「証拠」はいかにも杜撰で、その場凌ぎの作り物の気配が漂って嘘くさい。おそらく、イスラエルは「証拠映像」などどうでもいいという態度だったに違いない。秋元千秋だったか、イスラエル諜報機関(モサド)の特徴と性格を語ったとき、暗殺とか毒殺とかのハードな方面が得意で、情報戦の世論工作といったソフトな方面は幼稚で弱点だと指摘していた。モサドらしい馬脚を現した瞬間に見える。病院の包囲から突撃まで若干の時間を要したのは、イスラエルとアメリカのやり取りに要されていたと推測される。バイデンはアリバイ的に躊躇を示しつつ、作戦決行に踏み切らせた。イスラエルの主張(ハマスにとって一方的な冤罪)をエンドースした。

ここで思い出すのは、また想起しないといけないのは、イラク戦争開戦の口火となった2003年2月のパウエルの国連安保理演説であり、大量破壊兵器をイラクが隠し持っている証拠があると断言した現代史の場面である。IAEAのエルバラダイは、そうした証拠は発見されてないと一貫して強調していた。結局、捏造されたウソの情報だった。パウエルは後になって「CIAを信じるしかなかった」と姑息に弁解を言い、「人生最大の汚点」と後悔している。20万人の民間人犠牲者はどうなるのか。1990年の湾岸戦争でも同様の事件があり、ナイラ証言が国際世論を動かし、イラクへの武力攻撃を正当化して行った世論工作の経緯があった。誰もが覚えているだろう。アメリカは二度と同じ誤りは犯さないだろうと思っていたが、また同じ局面で同じ愚を繰り返す恥知らずな始末を見せつけられた。パウエルの失敗を教訓にしていない。

イラクの「大量破壊兵器」もそうだが、今回の「ハマスの地下司令部」も、CIAは最初からウソだと知っていたのだろう。だが、突入を制止してシファ病院を存続させれば、イスラエルの「鉄の剣作戦」(=ガザ皆殺し作戦)は頓挫を余儀なくされる。だから、アメリカはウソを事実だと言い、攻撃のゴーサインを出したのだ。自分自身も、アフガンで何度も病院攻撃をやってきたから。平気なのだ。









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