いしょ

赤信号で止まるみたいに、現実を受け入れるようになるのかな。

きみに追いつきたくて必死で、きみの背中しか見てなくて、信号なんて見ようともしなかった。なりふり構わず全力疾走した勢いのまま、赤信号を渡ってた。ちゃんと轢かれたりもした。まあきみのために轢かれるなら本望だったし。

でも、赤信号は渡ってはだめだし、轢かれてはいけないし、しんではいけない。

わたしは赤信号に怒ることはなくなって、黙って青になるまで待つようになるんだ。しょうがないって。みっともない全力疾走ももうしない。汗をかいたらきっとメイクがよれるし、前髪は崩れる。第一、轢かれてしんだらきみに会えなくなる。轢かれてしんだ先でずっと一緒にいようね、なんて甘さにはもう、わたしの胃は耐えられない。
大人になっても、赤信号に怒って、命と引き換えに渡ってみたりして、高揚感にまみれて生きればいいと思ってた。わたしはわたしだから。でも、それって体が何個あっても足りない。きっとわたしは変わっちゃう。そうじゃないとわたしが絶滅しちゃうから。そんなことないと思ってたけど、意外と生き延びたいみたい。たぶんわたしは生き延びられる方の道を選ぶようになると思う。せいぞんほんのう、ってやつ。だって毎日爪は伸びる。いくらちょん切ってもなくならないんだよ、人生ってやつも。伸び続ける人生を切って、削って整えて、コーティングして折れないようにする。ギラギラのラメで武装する。来いよ、わたしは折れないよ。形は自分で整える。
でも、別に嫌じゃない。結構すきになりかけてた自分とさよならするのがさみしいだけ。もったいないっていうか。でも、断捨離のいちばんの敵は「もったいない」だから。
毎日甘いものを食べていたら太る。飽きる。甘さを甘いと感じなくなる。前までは吐いても吐いても、ずっと食べ続けていた。おいしくて、かわいくて、わたしを姫たらしめてくれる唯一のものだったから。でもそんなのはもうおしまい。姫じゃなくて、わたしは一国の王になるんだ。私という国の王。いつまでも庇護の元、かわいいかわいいとチヤホヤされて、「居るだけでいいよ」なんて言われるお荷物になるのはもうごめんだ。最後までお楽しみにしておいたケーキの上のいちごを、だれにも取られないように守る。それが王の務め。

轢かれても平気だった。わたしは姫だったから。いつもかわいいシャボン玉で守られていた。でも今度からは、常に残機は1だ。王はわたししかいない。

生き延びるために、わたしはしぬ。
わたしはしんで、私になる。
うまれ変わって私になっても、仲良くしてね。

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