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my flower's here

愛知県にある、apprivoiserというお花屋さんに行きました。

apprivoiserとは、『星の王子さま』に出てくる<飼いならす>/絆を結ぶ、という意味のフランス語です。といいつつ、日本語でニュアンスを表現し切ることは難しいようで、本来はもう少し支配的な意味もあるそう。仏語選択にすればよかったかなと大学生活四年目で思うなど…。日本語版では様々な訳がなされているので、どうやらぴったりな日本語はないようです。わたしは、この単語の奥深さがとても好きで、台詞の中でも特に印象に残っています。勝手に『星の王子さま』と結びつけたわたしは、ここでバラの花を一輪買うのが夢でした。『星の王子さま』の中で、バラは愛の表象とされているので、わたしもあやかってみたかったんですね。

12月2日、1年ぶりの名古屋公演があったので、ずっと行きたかったこのお店に行くには絶好のチャンスでした。名古屋と言っても、名古屋駅から電車で30分くらいのところにあるお店でした。土地勘が無さすぎるので、距離感が掴めなかったのですが、どうやら遠かったようです。でも、一度決めたらなにがなんでも達成したい性格なので、滞在時間と移動時間がちぐはぐな小旅行をスタートさせました。

日帰り名古屋旅だったし、お昼は人と待ち合わせをしていたので、結構なタイトスケジュールでした。仕事に行くママと朝の満員電車に乗って、東京駅を目指しました。遠征で新幹線に乗るのは、春の大阪ペンミ以来でした。新幹線が久しぶりであること、つまり、夏から秋にかけては東京・埼玉と、近くでライブが開催されていたことをありがたく感じました。
ちょっとお高めのおにぎりを買って、車内では瀬尾まいこさんの『天国はまだ遠く』を読みながら過ごしました。表紙が可愛かったのでストーリーに載せたら、後輩から「宿の店主の名前が𓏸𓏸だから読んだんですか?笑」というDMがきました。登場人物の苗字がわたしと同じだったんですね。ただ単に読んだことあります!とかではなくて、なんかいいDMだなと嬉しくなりました。自分が偶然選んだ本を読んだことがある人には、言いようのない親近感を覚えます。本はそういう風に人と人とを結びつけるような力があるように感じました。お話自体もすごくのんびりしていて、わたしのなりたい気分にさせてくれました。朝に、本棚の前で10分悩んで選んだ甲斐がありました。
1年ぶりの名古屋につくと、去年の記憶がよく蘇りました。駅前の道路はすごく広くて、横断歩道を渡る時はランウェイみたいですごくワクワクします。その日が寒かっただけかもしれませんが、名古屋はすごく寒く感じました。去年のわたしは元気よくミニスカートを履いていましたが、いまとなっては訳がわかりません。今年のわたしはあったかさとラフさを追求していました。
知らない駅名だらけの路線図を見て、パラレルワールドに来たみたいだなあと思いました。名古屋駅で少し迷ったせいか、想定していた時間より押していたのですが、電車の中で焦っても走っても変わらないので、せっかくだし景色でも楽しもうと思いました。たまたま先頭車両に乗っていたので、運転手さんと同じ景色を見てみることにしました。名古屋駅から少し離れると、高い建物がなくなり、空がすごく広いと感じました。同時に、わたしがいつも見ている空は狭かったのだと気づきました。空が見渡せるって幸せだなあとも思いました。

電車の先頭車両と言えば、大学帰りに友達が、「先頭車両から景色見るの結構楽しいよ」と言うので半信半疑で一緒に行ってみたところ、それが結構な革命だったんですね。お金も時間もかからない、贅沢な冒険のように感じました。以来、くさくさした日は気分転換に、先頭車両に乗ってみたりしています。手のひらサイズの画面には映らないものがたくさん見えるような気がするからです。『星の王子さま』にも、行き先もわからず特急列車に乗り込んで生き急ぐおとなと、窓に鼻をくっつけて外の景色を眺めている子どもが登場します。

窓から見える愛知県の空には、雲がたくさんありました。なんか雲を久々に見たような…と、最近の私が住む地域の天気を思い出そうとしましたが思い出せず、代わりに最近空を見ていなかったことを思い出しました。よくないですね。もくもくの雲を見てテンションがあがりました。繋がっている大きな雲、ひとりで小さく浮かんでいる雲、ちょっと黒い雲。全部違う形/大きさ/色の雲をひとつずつ眺めていたら、時間があっという間に過ぎていきました。

そのお花屋さんは、事前に調べたら駅から4分と出ていたので(ラッキー★)とタカを括っていたら、車で4分の間違いで、実際には徒歩19分でした。わたし的よくあるミスです。5分と仮定してしまっていたので、オーーンと頭を回転させていたところ、タクシーが見えました。気づいたら吸い込まれるように乗っていましたね。旅先だとすぐにタクシーを使ってしまいます。時間とお金、普段から天秤にかけて生活していますが、旅先では圧倒的に時間が資本だと感じます。

タクシーの運転手さんに丸投げしたら連れてってくれるかなーと思っていたら、代打で出動していた違う地域の運転手さんだったらしく、2人で目的地設定にあたふたしました。温厚な喋り方とは裏腹に、そのあたふたタイムを埋めるかのようなスピードを出してくれていましたねえ。旅先でしかタクシーは使わないので勝手がわからず、「10分で戻ってくるのでまた駅までお願いできますか?」と尋ねると、快く承諾してくれました。よくあることのようです。この前は40分くらい待たされたと言っていましたが、さほど嫌そうではなかったように見えました。待ってる間好きなこと出来るジャーン!タイプなのでしょうか。生き急ぐと灰色に見えてしまう時間を、カラフルに捉えてるっぽいおじさんのようにも見えました。それか、わたしは単価の高い絶好の🦆ということだったのでしょうか。でも、わたしはこちらも嬉しいことであればそれは🦆ではない!という持論を持っている🦆なので、甘え上手な🦆になることにしました。でも、申し訳ないので10分で絶対戻ってこようと思いながら一旦降車しました。

店内にはお客さんはおらず、厳かな雰囲気でした。Instagramで見た雰囲気のままで、嬉しくなりました。店の外をぷらぷら見回っていたら、店員さんが中に招き入れてくれました。「何かお探しですか?」という質問に「バラを一輪探していて…」と言うと、いろんな種類のバラを紹介してくれました。オレンジ色のバラ、黄色いバラ、白のバラ、ピンク色のバラ、大きなバラ、小さなバラ、スプレー咲きのバラ。王子さまが見たら、「バラは赤いんだ!赤くないバラなんてバラじゃない!」と怒りそうだなと微笑ましくなりました。それほどに豊富なラインナップでした。わたしはお店に入った瞬間に目が合ったピンク色のバラちゃんに即決しました。興味本位で花瓶の棚を見ていたら、いろいろ紹介してくれたので、せっかくだから気前のいい🦆になろう!と、花瓶もセットで買いました。ルンルンな🦆の誕生です。
用意してもらっている間に、許可を得て店内を撮影していたら、今度開催するリース作りのワークショップに参加しないかとのお誘いを受けました。理由もなしに断るのもどうかと思ったので、正直に「東京から来たので…」と言うとびっくりした様子でした。「観葉植物とかお好きなんですか?」「フィルムカメラお好きなんですか?」などを聞かれてしどろもどろになりました。店員さんの頭の中には(名古屋駅からも遠いのになぜわざわざ?)というハテナでいっぱいなようでした。(『星の王子さま』が好きで、お店の名前が『星の王子さま』に出てくる台詞の一部で…)とは、なんだか恥ずかしくて言い出せませんでした。他にもそうやって来店する人はわんさかいるのでしょうか。それともちょっと変わった観光客なのでしょうか。反応が怖くて、「インスタで見て…」という嘘でも本当でもない答え方をしました。後悔はしていませんが、次に行く時には言えたらなあと思います。

自分の好きを人に説明することは難しいと感じることが多々あります。人にわかってもらうには、自分の好きを一度一般化しなければなりません。わたしには、それが少し苦痛に感じます。わたしがこのお店に来ようと決めたのはいまから半年前まで遡り、卒論で『星の王子さま』について書いていることや『星の王子さま』への熱意をそれなりに言語化しなければなりません。そして、どれほどすごいかを伝える際は、やっぱり数字が必要になってしまうのだと思います。推しのことだってそうです。「アルバム売上の620万枚超えの世界的人気アーティストで、この前は大きな授賞式で1位を取りました!」と言うと、その規模の大きさが1発で伝わります。でも、わたしの好きは、数字だけで構成されている訳ではありません。
そもそも、好きは説明できないところから生まれるのだと思います。そして、それにかけてきた時間がそれをかけがえのないものにするわけで、全部を伝え切るなんて、まとめるなんて、おおよそ無理な話です。全てが大事で、省略できるものなんてありません。大事なことを削ってまで、言葉にしたくはありません。そして、好きはわたしだけのものです。人にわかってもらうためのものではありませんし、わかってもらうことをあまり求めていません。
こんな風に、わたしの好きは閉鎖的で排他的なので、好きを上手に、楽しそうに、素直に、説明できる人になりたいものだなあと思います。

店員さんはオンラインショップを案内してくれましたが、「また来ます」と言って、お店をあとにしました。わたしはたぶん、もう一度ここに来るんだろうなと思いました。タクシーの運転手さんのおかげで徒歩よりも大分時間を短縮することができ、無事三十分遅れで合流し(無事?)、ご飯も食べられました。濃い味噌の味に、名古屋を感じて嬉しくなりました。初めて名古屋城にも行って、名古屋を満喫しました。名古屋城周辺には外国から来た観光客の人たちがたくさんいて、その中には子どもも多くいました。「あの子たち、こういう所にきてどういう風に楽しむんだろう」とわたしが呟くと、知り合いには「うちらも同じようなもんじゃん、このお城のこと全然知らないよ」と言われ、確かにと思いました。日本人だけど、日本について全然知らなくて、ヘンな感じがしました。お城に特に興味があった訳でもないわたしも楽しかったので、あの子たちもきっと楽しかったのだと思います。あのお城の主さんが雲の上からこれを読んでいたら、怒られそうですが…。世の中にはまだまだ知らないことがいっぱいです。人生百年時代、長すぎると嘆いていましたが、悪くないなと思いました。

バラちゃんと一緒にライブ会場に向かいました。一人だったけど、ひとりじゃない感じがしました。お店に入った瞬間、たくさんのバラの中からこのバラちゃんに目を奪われたように、ライブが始まった瞬間、何万人もの中から、たった一人に目を奪われました。贅沢な時間でした。魔法をかけてもらったシンデレラもこんな心地だったかなと、勝手に共感してみたりしました。


お昼にお花屋さんでお迎えしてから、帰りの夜行バスまで連れ回してしまって、少し息苦しかったかなと申し訳なく思いました。翌朝、家に着いて心配しながら花瓶に入れてみると、とっても綺麗に咲いてくれていました。


一輪のバラをまじまじと見るのは初めてで、緑とピンクのコントラストに気品を感じました。一番かわいく感じたのはトゲです。間近で観察してみて分かったのですが、トゲは、葉っぱからお花までの範囲にしか生えていないんですね。お花の部分を顔に見立てると、なんだかネックレスやピアスをしているみたいです。そう思うととってもおしゃれさんに見えてきました。わたしのバラちゃんは、美意識の高いおませさんです。

バラのトゲというと、刺さると痛い、とても鋭利で強いものだと思っていました。品種によっても違うと思うのですが、わたしのバラちゃんは、こんなにちっちゃくて柔らかいトゲの持ち主でした。トゲトゲどころか、ふわふわでした。この柔らかいトゲが、すごく健気に思えました。自分の身を守るためにこんなにかわいいトゲをつけてみたりして、まるでちっちゃな牙で威嚇しているみたいです。でも、バラちゃんにしてみたらトゲは立派なプライドだと思うので、かわいいと思っていることは内緒にしておこうと思います。トゲを触わったりしても怒るかなと思って、いまは眺めるだけにしています。そんな感じで、バラちゃんと時間をかけて徐々に仲良くなれたらと思います。いつかまたトゲを触らせてくれるかな。

バラちゃんとの出会いを説明するのに、五千字も使ってしまいました。でも、ここでは一般化を経由することなく、好きなことについて話せる気がします。お花屋さんに並んでいるただのバラではなくて、唯一無二となったバラちゃんと一緒に生きてみることで、大事にするとはどういうことなのか、学んでみようと思います。

題名は、花/藤井風 の歌詞から拝借しました。
すごく好きな曲です。
内なる花と、その表象としての花、どちらも大事にしたいです。

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