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富山旅【トウキョウ弱者】

約30時間ぶりに東京に戻ってきた。

新幹線は無情で速い。
高崎、大宮、稽古場のある上野。
どうしてもぼくはドラマチック症候群を患っているので、上野に到着したとき「明日からの稽古、もう一度やろう」という気持ちと共に今の自分のテーマソングをかける。

友人に教えてもらったFOALSの「Spanish Sahara」である。

ひとつ、集中力のスイッチを入れて東京駅にたどり着く。
別に稽古があるわけではない。ただただ気持ちの問題である。

ひとが多い。びっくりするほど多い。

たった30時間しか東京を離れていないのに。ホームに降り立つ前まで集中力を高めていたのに。
ドラマチック症候群のために入れた集中力スイッチは、ひとごみをかき分け、気持ちを強く持って家に帰るために消費された。

新幹線ホームを離れ、在来線ホームに向かう。
ひとにぶつからないように気を使う。
ひととの距離感に気を使う。
他者の「イスに座りたい」という欲に気を使う。

東京駅から家に帰るだけで、少なくともこんなに気を使っていた。そりゃ、疲れる。
しかも普段だったら無意識的に気を持っていかれているわけだ。

ぼくにとって最後のトドメになったのは乗車率150%くらいには混んでいる在来線の中でのこと。
隣に座っていた若い男がずっと鼻をほじっているのだ。
鼻をほじって、そのあと決まって指を擦る。

せっかく富山でこころをほぐして、柔らかくしてきたつもりだったのに、一瞬で許容しきれなくなってしまう。

ポケットティッシュをその男にぶん投げて「ここはお前の家じゃない」と言えたらどれだけ良かっただろう。
脳内ではそんな攻撃的な選択肢が思い浮かんでしまう。
しかしそれこそTPOの問題だ。乗車率150%を越える車内でそんなトラブルを起こすわけにはいかない。(乗車率の問題ではないけども)

東京を思い知らされた。
家に帰って、反射でテレビをつけて、すぐに消す。
やはり東京は情報が多いし、自分を縛り付けるものが多い。

今日、ぼくは東京に帰ってきて、今までには経験したことのないほどの違和感を抱えている。東京という街に対して。

東京にいる者が強者で、東京を去った者は弱者なのか。
東京を思い切って捨て去ることができないぼくは弱者なのか。

電車の中で人を気にせず、鼻をほじることが強者なのか。
それも多様性だからと受け入れねばならないのか。

東京がそんなに良い街だと、ぼくは思えない。

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