JR山手線に現れた神車掌に「言葉」の力を学ぶ

夕方17時半過ぎ、五反田駅。殺人的に混んでいる山手線。
何とか乗り込みドア付近に立つもののなかなか発車しない。
「後続の電車が遅れておりますので、1分少々停車いたします。」
混雑時の山手線にはよくあるアナウンスだ。
1分ほど停車している間にも人がどんどん乗ってくる。
ようやく電車が発車し、次に目黒に到着。
もれなくドア付近にいたので押し出されホームに降り立つ。
ホームには溜まっていたお客さんがわんさか居る。
そう、ここは一番混み合う階段付近。
降りたドアがあまりに混んでいたので、少し先で乗ろうと
電車後方に向かって歩き出したが、どこまで行ってもどのドアの前にも人だかり。
それほど急いでいなかったので、その電車を見送る事にした。
この選択が、神とので出会いを生む事になるとは…

負の連鎖が始まる。

目黒駅で待つこと6分。この時間帯は3分間隔。明らかに遅れている。
ホームは、たちまち人で溢れる。
ようやく入ってきた電車は、先ほどの電車にすれば…と後悔するほどの混雑。
なんとか乗り込む。が発車しない。

親しみやすい言いまわしを混ぜる。

「お鞄が挟まっているお客様、おかばんをお引きください。」
そう、鞄が挟まって発車できないのだ。ますます電車が遅れる。
「お鞄が挟まっているお客様、パワーマックスで、お鞄お引きください。」
ここでいつもと違うと感じた。言葉遣いが車掌さんらしくない。
ようやく電車が発車したかと思うと車内アナウンスが続く。
「お鞄が挟まりますと電車は発車できません。お乗りになる祭にはくれぐれも鞄、傘など挟まれませんようにお気をつけください。挟まりました場合は、素早く力一杯お引きください。電車の運航をスムーズにするためにご協力をお願いします」
パワーマックスを反省したのか?

情報を細かく開示することでお客様を味方につける。
こちらが頑張っていることを示す。

この車掌さん、とにかく今自分のおかれている電車の状況を理解し、その情報をわかりやすくお客様に発信すというか開示することで解決しようとしている。
協力を求めている。そうだ、これこそがコミュニケーションの力だ。
「この電車は、3分遅れております。あと1分で渋谷駅に到着いたします。スムーズな乗り降りのため、お降りのお客様は準備をお願いします。」

仕組みをわかりやすく紐解く。

「この電車は遅れているため、前の電車との運転間隔が広くなっています。運転間隔が広くなりますと、これから先の駅でも多くのお客様がお乗りになることとなり、さらに混雑することが予想されます。混雑緩和と安全運行のため、スムーズな乗り降りをお願いします。また無理なご乗車はご自身も回りのお客様も」
負のスパイラルがどうして起こるかかなり具体的に説明する。

先回りの情報を与え危険を回避する。

「まもなく新宿駅に到着いたします。新宿駅はドアによってはホームと電車の間隔が広い場所がございます。ホームと電車に足を踏み外しますと電車がさらに遅れる原因になりますのでくれぐれも、スマートフォンを見ながらの乗降はおやめください。またスマートフォンを落とされる方も多くいらっしゃいますので、スマートフォンはきちんとカバンやポケットにおしまいください。電車のスムーズな運行に努めておりますのでご協力をお願いします。」
必死さがひしひしと伝わってくる。あまりに必死すぎる。
この仕事に対する忠誠心。お客様に対する気遣い。応援したくなる。
どんな人がどんな状態でアナウンスしているのか?が気になってきた。

見えていない情報を与え想像させる。
行動を促す際に具体を示す。

新宿駅は流石に人が多い。
「車内大変混雑してご迷惑をおかけしております。ホームにはまだお乗りになりたいお客様がいらっしゃいます。特に4両目、5両目のお客様、今一歩奥の方までお詰めください。特に入り口付近は大変混雑しております。ドアから離れたところのお客様、一度握られた吊り革を一旦お離しになり、連結部分など近くに空いているスペースがございましたら、ぜひ一歩奧までお願いします。」
見えていない情報を与え、その先を想像させる。さらに4両目など具体で自分ごと化させる。そして奥に入るために行動を促したい!その説明の仕方が実に具体的で指示が的確だ。

行動を促す際に具体を示す強さ。


「電車が遅れ、混雑し、ご迷惑をおかけしております。奥に入ってしまわれたお客様でお降りになりたいお客様はぜひ『降りるアピール』を回りのお客様にお願いします。そうしていただいた方がスムーズにお降りできるかとおもいます。また回りのお客様も近くにお降りになるお客様がいらっしゃいましたら、ご配慮をお願いします。ドア付近のお客様は一旦お降りいただいて再度のご乗車をお願いします。」
アナウンスの後ろで女子高生らしき人たちの
「アピールとか超ウケる〜」の声をマイクが拾い、聞こえてきた。
ますますどんな車掌なのか気になってきた。

ようやく目的地である池袋に着いた。五反田からの遅れをここまでで取り戻していた。どの駅でも本当に停車時間は短かった気がする。それでも乗客を全部スムーズに乗り降りさせてきた。これは紛れもなく彼の言葉、彼自身による努力の成果だ。
彼の顔を拝んで行こうと思っていたが、降りたら目の前が階段だったので流れに押し流されて彼の顔を拝むことなく改札を出てしまった。

電車が遅れると車掌や駅員に文句を言いに行く人がいる。
もちろん文句を言われている人のせいで電車が遅れたわけではない。
それをわかってもらい、気分を害さずに、納得してもらう。
そのためには頑張っている姿を見せるという手段を見せてもらった。

この話全部本当ですか?と聞かれることがあります。そんな素敵な話が本当のことなんだと思っていたほうがいいと思うので本当のことなんだと思ってください。全部ウソなんですか?と思ったら、ここまでの想像力のある人なんだと思ってくれたということで嬉しいです。



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