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中国の女性向けゲーム市場を大きく進歩させた『恋与制作人』

2017年中国で大ヒットした女性向けゲーム『恋与制作人』(日本名:恋とプロデューサー)のマーケティングトレース的なものをやってみました。

中国市場に本格的に興味を持つきっかけになった大好きなゲームなので、ずっとマーケティングの観点から話をまとめてみたいと思っていましたが、やっと実現できました…
今まで出ている情報をベースに自分なりの仮設を交えながら書いています。リリース当時の2017年と今は中国の女性向け市場も大分変化しているので「なるほど、そうだったんだ~」という気持ちでお読みいただけると幸いです。

まずは「恋与制作人」について、かんたんな紹介から。(画像はクリックすると大きくなります)

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本作は着せ替えゲームとして有名な『ミラクルニキ』(中国名:奇迹暖暖)の開発社「PaperGames」が開発・サービスするスマートフォン用の女性向け恋愛ゲーム※1です。

リリース当時の中国では社会現象になるほど、女性向けゲームとしては異例的な大ヒットを記録しました。
2019年12月現在、5つの地域(中/韓/台/EN/日)でサービス中で、全世界累計DLは9000万を越える※2 ヒット作。日本でも2019年7月からサービスしています。

もうすぐ2周年を迎える本作にですが、中国/韓国/日本の3ヶ国における市場の背景や現状を交えて語りたいと思います。

1.中国市場における女性向けゲームの環境分析と成功要因

まずは、中国における女性向けゲーム市場の環境を見てみます。
中国のゲーム市場というと、厳しい規制を思い浮かべる方も多いかと思います。
厳しい規制の反面、自国の文化産業を育てる支援も続けていて、ゲームや映像などのコンテンツ市場は成長を続けています。

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『恋与制作人』がリリースされた2017年の中国は、女性をメインターゲットにしているタイトルは数少ない状態だったと言えます。

中国の国民ゲームとも言える『王者栄耀※3』は女性ユーザー比率が大きく、潜在市場として常にマークされていたとは思います。
しかしながら、その中でも2Dアニメ風ゲームかつ女性をターゲットにした物、さらに恋愛をテーマにしているものは、かなりニッチな分類に入ります。
(実際、2017年当時に女性向けゲームと言えば、Anipopなど、Match3パズルのようなカジュアルを思い浮かぶ人が多かったと思います。)

とはいえ、日本や韓国など東アジア圏では、女性向け恋愛ゲームは一つのジャンルとして定着していてマニア層も厚いジャンルです。

開発の「PaperGames」は、前作である2Dアニメ風着せ替えゲーム『ミラクルニキ』が日本を始めとしたグローバル市場で成功を収めていました。
着せ替えゲームの特性上、ユーザーの多くは女性。この『ニキ』シリーズで長年培われた女性向けサービスのノウハウを持ちながら、繊細な2D イラストと世界観が評価されている同社にとって、次期作で恋愛ゲームを選ぶのは当たり前の選択だったのかもしれません。

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中国市場でまだヒット作がないジャンルで、競合もないけど前例もありません。結果は予測できません。

前述したとおり、こういった女性向けジャンルはマニア層の厚いため、中国でも日本のアニメが好きな層には馴染みがあり、日本の作品情報を積極的に取りに動きます。
しかし、このスマートフォン時代でも、これらのマニア勢は常に言語の壁や海外情報を探す手間などの課題を持っています。(海外情報を手に入れにくい中国なら尚更です。)
そこで、まずは彼女たちが持つ課題に自国産という形でアプローチしていきます。

<会社のブランドxクオリティ>
あの『ミラクルニキ』の会社が作った、
美麗なイラストの本格国産乙女ゲーム!

そのために大事な要素もしっかり抑えられています。

①日本のゲームに見劣りしない:ビジュアルには定評がある会社なので言うまでもない。
②声優をフックでマニアの興味を引く:中国と日本、両国の人気声優が声を当てる。
③ゲームならではのインタラクティブ要素:SNSや電話、ニュースなどがリアルに再現されている。

アニメファン層以外の層にとっても、これはまったく新しい体験になり、予想以上の大ヒットに繋がります。

2.市場環境によるグローバル展開の明暗

『恋与制作人』は中国本土のサービスが安定軌道に入った後、韓国から着々と海外リリースを続け、今は5つの国・5つの言語でサービスしています。

「PaperGames」は以前からグローバル展開を積極的に行っていて、『恋与制作人』最初からグローバル展開ありきだったと思います。特に女性向けゲーム市場をリードしている日本に対しては、リリースの1年も前からTGSに出展するなど、熱意が伺えます。

本作の最初の海外リリースは韓国。
リリース直後はストア売上ランキング6位を記録するなど、好調なスタートを切りました。売上は当初よりは落ちているものの、未だにユーザーの熱量が非常に高く、なにかイシューがある度にTwitterトレンドにも頻繁にランクインします。

しかし、満を持して2018年7月にサービスインした日本は、正直な感想として成功とは言えない状況です。2019年10月の売上推定値は約4300万円で、ずっとダウントレンドの状態です。

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色んな要因があると思いますが、その一つとして市場環境を踏まえたマーケティング戦略のアレンジが足りず、競合との差別化ができなかったのが大きいと感じています。

スマートフォンゲームには初期ファンの獲得が非常に大事だとよく言われています。
その役割をするリリース前の施策は、ほとんどが中国リリース時のものを踏襲する形で一部のマス・メディア広告が加ったくらいです。

女性向けゲームを巡る環境と、ユーザーが持つ課題感が中国と近い韓国では、それでも上手くいきましが(ちなみに似たような状況の台湾でも成功しています)、日本では女性向けゲーム市場はレッドオーシャンのレッドオーシャン。強い競合はいくらでもあるし、ユーザーの課題もフィットしません。
日本独自の施策でも、女性向け市場ではコモディティ化しているものばかりで、日本ユーザーに新しい体験を提供するには至らなかったです。


(蛇足ですが、このゲームのレベルバランス、イラストのクオリティ、シナリオ、リアルと上手くリンクさせた要素など、秀逸なところはいくらでもあります。
中には日本のゲームには馴染みのないものもいくつかありますが、競合にはない強みをもう少し丁寧で分かりやすく伝えたら…と残念に思ったりします。)

3.現状の課題とリブート戦略

※ここからは、出ている数字※4などを参考しつつ、仮設ベースで話していきます。

さて、サービスから時間が経過している中国、韓国でもいくつか課題を抱えています。
中国・韓国では垂直立ち上げに近い形で始まりましたが、今は長らくプレイを続けているユーザーがゲームを支えている状態になっています。
ここ最近の売上はほとんどがガチャシステムによるもので、ユーザーの数よりも客単価重視になっています。システムの更新も停滞し、コンテンツのマンネリ化も進んでいます。

また、サービス3ヶ月あまりの日本では、新規獲得の勢いが劣っている点、そして入ってきたユーザーが定着できず、全体ユーザー数の積み上げができていないと考えます。

もう少しテコ入れをしたいところ…
丁度いいタイミングに、来年、アニメ※5の放映が予定されています。
そこで、アニメをリブートタイミングと設定し、現状の課題解決に向けて「私がマーケティング責任者だったらどうするか?」を考えてみました。

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<KPI>
・放映前:継続率 → 復帰/新規ユーザーが継続しやすい環境を作っておく
・放映中:新規ユーザー、復帰ユーザー
・放映後:継続率、購入ユーザー

<放映前>
・アニメ放映前に継続率を改善することがマスト:ユーザーが抜けていくポイントを調べ、改善PDCAを回す。
・既存ユーザー、離脱ユーザーの期待感を高めるコミュニケーション設計。
・ゲームでの施策とタイムラグが発生しないように、各国の配信・放映環境を整える。
<放映中>
・とにかくユーザーの受け入れに集中する!:アニメを話題にしたマスメディア露出、送客を目的としたコラボ※6の実施など、アニメをフックに盛り上がりの最大化を図る。
・復帰・新規ユーザーを継続させるインゲームのバックアップは必須。
<放映前>
・アニメの熱量をキープする施策:大型アップデート・メインストーリー追加、オフラインイベント など
・インゲームの大型アップデートに合わせ購入ユーザーへの転換を狙う。

あくまでも「私だったら~」の話ですが、市場ではスマートフォンゲームのアニメ効果が大分薄れている状態なので【しっかり事前準備 → アニメの盛り上がりを最大化 → ユーザーの熱量を維持する】方向で、一過性のもので終わらせない設計が必要なのではないかと思います。

4.まとめ

長々と書いてしまいましたが、短くまとめてみます。

『恋与制作人』は…
・中国で女性向けゲーム市場を大きく進歩させた。
・グローバル展開は地域によって明暗が分かれる。サービス地域に合わせたマーケティングとコミュニティ戦略のアレンジが必要。
・2020年はリブートのタイミングと予想!一過性に終わらずユーザー熱量をキープさせる流れを作りたい。

私はただの女性向けゲームが好きないちユーザーですが、ゲームを初めてプレイする時<どれほど新しい体験を提供してくれているのか>を一番に見るようにしています。
そして、何もかも新しい体験だらけだったこのゲームを、初めて触った時の衝撃は今もはっきりと覚えています。(もちろん、マンネリ化が激しい日本の女性向けゲームに飽きかけていたのと、中国との文化の違いも少なからずありましたが笑)

中国の女性向けゲーム市場は日に日に進歩していて、多数の女性向けタイトルが発表されています。この『恋与制作人』がその始発点になったことは間違いないでしょう。
『恋与制作人』は以前の勢いはないとしても、未だに中国の女性向け市場ではトップの人気をキープしています。
<女性向けゲーム>という市場のファンとしては、このゲームがまた新しい体験と驚きを与えてくれることを期待していますし、『恋与制作人』を越えるタイトルが出て、いい競争が生まれる。

また、その流れが韓国や日本にも広まり、市場全体の発展に繋げてほしいと願っています。

中国の女性向けゲーム市場は日に日に進歩しているので、別の機会で他のゲームについてもまたお話したいと思います。

--------------------注釈-------------------
※1 通称、乙女ゲーム:男女の恋愛要素がある女性向けゲームの通称。
元祖は光栄(現・コーエーテクモゲームス)社の「アンジェリーク」と言われています。
※2 日本版「恋とプロデューサー」の宣伝フレーズから。
※3 ジャンルはMOBA (マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ)。対戦がメインコンテンツの硬派なゲームですが、女性ユーザーが7割だそう(2019年2月/MobTech調査)。日本ではDeNAからグローバル版の『伝説対決 -Arena of Valor-』がサービス中です。
※4 AppAnnie推定値を参考しています。
※5 「ユーリ!ON ICE」「BANANA FISH」などを手掛けたMAPPAとの共同制作。現在日本語と中国語でPVが公開されています。
※6 例)親和性の高い別の2D系コンテンツとのコラボ。今まで『恋与制作人』のコラボ施策は新規よりは既存ファン向けがメインでした。


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