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与論島の山さん

 与論島で『与論島薬草一覧』という小冊子を見つけました。島内に自生する100種以上の薬草と、その効能が記された十数ページの冊子です。著者は山 悦子さん。調べてみると島の薬草仙人とも称される、なかなかすごい方でした。

 山さんは昭和16年、与論島生まれ。ということはことし令和元年で御年78歳になります。
 まだ幼い頃、道端に生えているなんの変哲も無い植物が人の病を癒すものだと母親から教えられました。それが薬草に興味を持ったきっかけ。
 その母親が肺気腫を患ったのは中学一年生の時でした。学校や家事のかたわら一時間の道のりを歩いて薬草を採りにせっせと通い、3年の月日をかけて完治させました。さらには30歳になって、今度は自分が脳腫瘍で余命宣告された時には、助かる保証はないと言われた手術を諦め、これもまた薬草で治してしまったというのです。

 薬草の力を実感した山さんは、本腰を入れて研究を始めます。
 島じゅうを駆けずり回って薬草を探し、実際に効果を自分の身体で試し、その知識を深めていきました。以来30年、研究成果をまとめたのが冒頭で紹介した薬草一覧。薬草の知識を後世に伝えるという自らに課した使命を形にしたものです。

 また、薬草研究に加えて実際の医療現場でも理学療法士として働き、さらに経絡とカイロプラクティックの資格も取得、総合的に健康というものを追求し続けます。
 いつしかそんな山さんの活動が口コミで広がり、原因不明の体調不良や悩みを抱える人、さらには大学や企業の研究者など、多い時には年間で300人以上が、健康相談や薬草の知識を求めて彼女の元を訪れるようになりました。

 そんな山さんの半生を綴った本が、このたび発売されます。

 地域おこし協力隊として島に移住した佐藤伸幸さんが、山さんの夢に手を貸そうと始めたプロジェクト。
 しかし、その道のりは平坦なものではありませんでした。なにしろ島では有名でも全国的には無名の、言ってみればただの田舎のおばあちゃんの本。周りは本作りの素人ばかりだし、引き受けてくれる版元もそうそうありません。ようやく興味を持ってくれる出版社が見つかり刊行が決まっても、作業は二転三転していちどは企画自体が消滅しかかりました。
 しかし山さんと、佐藤さんをはじめとするスタッフは諦めず粘り強く取り組み続け、やっとの思いで出版が実現したのです。


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 『与論島の山さん 薬草に捧げた人生と幸せな終末へのメッセージ』


 その内容は薬草のみならず、生まれ育った与論の文化や死生観、島のこころなど、山さんが大切にしていて次の世代に残したい、広く伝えたいものが詰まったものになりました。
 さらには与論パナウル診療所の医師であり『たましいの島』作詞者でもある古川誠二さんと、与論民俗村の菊秀史さんのインタビューも収録し、与論の根っこをさらに深く掘り下げています。

 会った途端にほろほろと涙をこぼす人もいるという、不思議な魅力を持った山さんの人柄があればこそ生まれた本だと思うのですが、本人が言うには自分が特別ではないとのこと。そんな謙虚さが随所にあらわれて、はっとします。

 聞いた話では本書を制作する出版社が決定した頃、会社に突然「社長さんとお話がしたい」と電話をかけてきて、編集部を騒然とさせたとか。数千人の社員を擁する会社の社長に対しても臆することなく直接お礼を伝えたいという、浮世離れしているのか純朴なのか、山さんらしい真っ直ぐな性格を感じさせるエピソードです。

 何かと騒々しい世の中。生きづらかったり疲れてしまったとき、ちょっと楽になれるヒントがこの本にあるかもしれません。


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 長々と山さんの紹介をしましたが、今回、縁あってこの本のデザインをさせてもらいました。微力ながら販売にも協力しようと、yoron blue. でも限定数を取り扱っています。巨人 amazon 他ネット書店に多少なりとも対抗すべく書籍のみなら送料無料です。特典付きのセットも用意しましたのでよろしくお願いします。


山の国に住みつつ与論島をテーマに活動中。なぜ? どうして? その顛末は note 本文にて公開中!