見出し画像

遠いお迎え(5人目のAさん)

Aさんは80歳の女性、一人暮らし。
ADLが低下し要介護認定を受け、介護サービスを利用しながら生活していました。
肺炎で入院したものの検査の結果胃がんが見つかり、すでに末期の状態でした。

家族に連絡が必要なので担当するケアマネジャーに連絡。
家族状況を聞くとお兄さんがいるらしいですが、名前しかわからず、住所も2つ3つはなれた田舎の方にいるらしい、ということしかわかりませんでした。
近所付き合いのないAさんで、近所の人からの情報もありません。
生活保護を受けている人なら、生活保護課の担当者に聞けばわかるかもしれませんが、そうではありません。
何とかならないかとお兄さんの住んでいるであろう地域のインターネットの電話帳で名前検索すると、なんと出てきたのです。
聞いていた住所の隣町でしたが、まず間違いない、と思い電話をかけると見事にAさんのお兄さんでした。

病状を説明し、予後はあまり長くないこと、できれば会いに来てほしいこと伝えました。
お兄さんも驚いたようでしたが、何分田舎で今は車にも乗らず、交通手段がないというのです。
他に連絡が取れる家族がいないか聞くも、誰もいない。
それなら迎えに行きましょうか、と聞くとそうしてもらえるとありがたいです、と。

インターネットでお兄さんの自宅を検索。
病院からは片道1時間余りかかる山の中でした。
しかも田舎すぎて地図を拡大しても家の形がでないどころか、ものすごいアバウトな道しかわかりません。
田舎の方ってこういうことがあるんですね。
蛇行した道のこのあたり、という地図をもとに、看護師も一緒に行ってもらいました。
それらしきあたりまで来ると民家がポツンポツンとあり、人がいそうな家を訪ねお兄さんの家を聞いてみました。
このあたりは田舎のいいところです。
みんな知り合い。
もう少し先の左手の家、と教えてくれました。
お兄さんを探し、病院に連れてきて何年かぶりの面会。
Aさんもうれしそうでした。

最期だからと家族を探して迎えに行く、なかなかそんな病院ないですよね、と一緒に行った看護師さんも嬉しそう。
お兄さん帰りはどうするのかな、とちょっと気にはなりましたが、私はそこで帰宅。
次の日看護師さんから、あの後大変だったのよ、と。
あの後お兄さんからしばらく病院に泊まりたいが、着替えも何も持ってこなかったので、もう一度家まで送ってほしいと言われたそうです。
道を知っているその看護師と師長さんで、高速を使って自宅に戻り荷物を持ってまた病院に戻ってきたとのこと。

Aさんはその2日後息を引き取りました。
最後の最後に会えてお兄さんも本当に喜んでくれました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?