眠れない暗がり

眠れない暗がり

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首を絞める

あの夜あなたは私に首を絞めさせ、その後、鼓動を確かめるように優しく私の首を絞めました。 互いの腕で互いの首を絞める。 喉元に押し隠したはずの弱虫の本音が顔を覗かせないように。 互いの口を互いの口で塞がなくても済むように。 20240303

    • きっと

      一人で夜を過ごしたくなくてあなたを誘う。 誰でも誘える時にわざわざあなたを誘う。 きっとあなたは真摯に話を聞いてくれるから。 きっとあなたは私に優しくしてくれるから。 他の誰かで生じた寂しさをあなたで埋める。 あなたもそれに価値を見出してくれますか。 20240429

      • 月と風船

        夜空に輝く月のように見えたあなたが、今は宙にぽっかりと浮かぶ黄色い風船のようです。 あなたが失ったものは何でしょうか。 あなたが得たものは何でしょうか。 あなたを鈍い風船に見たい私の心の底の底が、ただの純粋ないたずら心でありますように。 20240429

        • 苛立ち

          私はあなたとの親密な会話をもっぱら避けるようになりました。 あなたを思う私の内に湧くのは苛立ちであり、親心なのです。 親心は自分で解釈が出来るので良いのです。 問題は苛立ちで、その原因の源泉がもし嫉妬であったならば、それは即ち私という人間そのものの未熟さとなり、最悪の場合、その親心すら自己防衛のための言い訳に過ぎない可能性すらあるのです。 わたしは今のあなたに以前ほどの魅力を感じません。 本心でしょうか。 自己防衛でしょうか。 20240320

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        首を絞める

          後出しじゃんけん

          自分の出した手を後から変える。 そうすれば相手に負けることは無くなるから。 自分の本心を隠して相手と接する。 そうすれば相手に負けることは無くなるから。 そのうち最初に出した手と後出しした手のどちらが本心かわからなくなってしまった。 私は勝負に勝ち続けていたつもりだったけれど、本当は勝っても負けてもいなかったのかもしれない。 正しく言えば勝負すらできていなかったのだと思う。 あなたはきっと後出しをする必要なんてないんだよね。 だから眩しく目を細めたくなるんだ。 20

          後出しじゃんけん

          孤独と救済

          その心配がいかに杞憂であるかを私は先ずあなたに伝える必要がありましょう。 成程あなたの仰る孤独と救済が作り出す習慣とその効果には一つの真理が含まれているでしょう。 その真理について私が申し上げることは特にありません。 もし私があなたに申し上げることがあるならば、その真理から抜け出し、大人になろうという決意及び決断の脆弱さへの非難となりましょう。 あなたのその行動は、同じ種類の暗がりの中で孤独の立場から救済の立場に移ってみたかっただけの事なのではないかと思わざるを得ません。

          孤独と救済

          天秤

          「中立的な独立機関でいて欲しい」 言われずとも、あの頃の私はとびきり優秀な独立機関であったと自負しています。 ただしそれも天秤の片方の受け皿にのみ注意を払って調整すれば良かった頃のお話。 天秤は両方の受け皿に重りを乗せるから天秤なのであり、もう片方の受け皿の内容や重さを自由に変えてしまえば、それはもはや天秤としての機能を失っているのです。 今、私の左手にはあなたが、右手にはとても大事な友人が釣り合いをとって掲げられています。 片手を下げれば相手が上がる。逆もまた然り

          合間

          キーボードを打つことに没頭する。合間。 お客様と電話をする。合間。 思いがけないミスを見つける。合間。 日々のふとした合間に私はあなたとの夜を思い浮かべてしまいます。 飾らずに言えば、あなたと過ごした時間はやはりとても楽しかったのです。 きっとあなたもそうだったし、だから今、あなたは分かりやすく狼狽えているのでしょう。 でも私はあなたに手を差し伸べません。 あなたがいるその暗がりの中に差す光に自ら気づき、自らの意思でそこから出てきて欲しいのです。 それがもし叶ったなら

          従える

          名前を知ればそれを従えられるでしょうか。 理由を知ればそれを従えられるでしょうか。 構造を知ればそれを従えられるでしょうか。 頭の大きな人間ほど滑稽にも未知なるものを求めたがる。 それが犬とも狼ともわからないのに。 暢気に近づける程、私は私のことを従えていないのに。 20240306

          従える

          芝居

          どうやらあなたは、一時の安寧と引き換えに最も大切にすべき気高さを差し出してしまいました。 おかげさまであなたが私に送って寄越す言葉やその目は無為ですらない嫌悪の対象となりつつあります。 「くるしい、かなしい」 そこはあなたが暗がりから逃げるために飛び込んだ、また別の暗がりでしかないのです。 頭の良いあなたは全部分かっていたでしょう。 そんな出来合いのお芝居は他所でやってよ。 20240305

          後悔

          もしもあの時、ほんの少しだけ自らの意志を見せることができていたならば、私たちの立場や関係は大きく変わっていることでしょう。 でも何故か、そうすれば良かったと後悔する気持ちにはちっともならないのです。 あなたの言うように人生は酷く長く、薄く引き延ばしたような退屈な活劇に私たちは石を投げたくなってしまいます。 私たちは今、お互いの意志によって離れ、各々の経験と思い出をその胸に出来るだけ抱え込んで、それを明かし合う日を心待ちにしていると思うのです。 もしもまた、くすぐったいよ

          思い違い

          そうあって欲しいあなたとは違うのです。 確かにあなたはとても素敵な伴侶を得て永遠にも近い安寧を得たのかもしれませんが、私が知りたくなるあなたはそうではないのです。 あなたの、無邪気で、傍若無人で、気高く自らの意思のみで動くあなたが好きだったのです。 そこは心地いいですか? 我慢すらも愛であると心の底から誓えますか? そうであるならば、私の思い違いでしかなかったのです。 それが私にはたまらなく寂しく感じるのです。 20240302

          思い違い

          日にち薬

          あなたのことを思う機会が随分少なくなりました。 役割を超えて親密にしないと互いに決めてから何日が経ったでしょう。 このまま会わなければ、目を合わせなければ、あなたの目に暗がりを見つけなければ、この問題のない関係はきっと続けられると思っています。 あなたもそう思いませんか? もし、あなたに甘えたいような翳りをあなたが私に見出したとしても、そのときは優しく諭して欲しいのです。 その道はもう閉ざされているのだと。 20240301

          日にち薬

          真面目

          私たちはばかがつくぐらい真面目でした。 素行が良いという意味では決してなく、責任を果たすという自らの美学に近いルールを守ることをとても大事にしていたのです。 だからこそ、そのルールを意識せずとも遵法できる相手を求めたのです。 お互いが分かっていたのに。 そんなことはとうに分かっていたはずなのに。 平時は線を引いた安全圏でしたり顔をしていたとしても、真剣になっていく自分に気づかないはずなかったでしょうに。 20240229

          真面目

          秘密

          「あの時何を考えていたのか教えて」 幾度となくあなたに言われた言葉です。 肌が触れ合う誰にも見せない秘密の空間で、それでも解き明かしきれないことがあるのです。 それを解き明かすことが野暮だとされることがあるのです。 聞かなかったのでしょうか。 聞けなかったのでしょうか。 だからこそ私はこの文章を書いているのでしょう。 20240229

          タバコ

          あなたはよく私にタバコを吸わせようとしました。 お店でデザートを食べ終わった後。駅までの道すがら。清廉なじゃれあいの後。 決まって私は「吸わないよ」と答える。 断られているのに、なぜあなたは嬉しそうに笑っていたの? 20240229

          タバコ