見出し画像

Excel書籍のコンセプトの作り方

8月23日(水)にExcelの本「Excelで“時短”システム構築術――案件管理の効率化を簡単に実現しよう!」という著書を発売しました。

Excelで“時短”システム構築術――案件管理の効率化を簡単に実現しよう!

Excelで“時短”システム構築術――案件管理の効率化を簡単に実現しよう!

以前にも出版社からの依頼で、Excelを特集した雑誌の監修をしたことがありますが、今回、は完全な著作としたものは初めてでした。
さて、題材はExcelなのですが、Excelの書籍というと世の中にたくさんあり、レッドオーシャンとも言えるジャンルです。そのようなたくさんある中で、この本をどうしていくか、はじめに、こういう本にしよう、とコンセプトを立てました。それを説明したいと思います。
世の中には私よりもたくさんの経験を持ち、ものすごいスキルを持ったExcelユーザーはたくさんいますし、情報発信はされているのですが、その方たちの中には、本を書いてくれたらいいのになと思う方もいらっしゃいまして、その方が、少しでも、本を書きやすいように、はじめのコンセプト設定の部分と書いてみてわかったことをお話しします。

差別化

このExcelとうジャンルは、本屋さんやコンビニの店頭に並べば手に取られやすい分野です。出せば売れるので、とにかくたくさん本があります。
その中で少なくとも、僕が出すなら従来と同じものではなく、僕にしか作れないものを作りたかったのです。
そこで、私はパソコンインストラクターで仕事で人に教える時に使うテキストの選定をするために、いろいろな市販のExcelの本を読んでいるので、どんな本があるのか、自分の読んだ本を分類してみました。
「機能の本」:機能や関数を説明する本です。いわゆるExcelの本ですね。この本では、その機能や関数がどんな時に何に使うのかというのは、読者が自分自身の環境の中で考えていかなければならず、具体的な学習に繋がらないケースがあると感じていました。
「考え方の本」:Excelをどうやって使っていくか、どの機能を組み合わせて使うためにはどう考えていくのかを説明した本です。当然「機能の本」にあるような説明がされていないわけではないのですが、やはり操作が慣れていないと内容がうまく理解できない場合もあります。
「練習ドリル」:「機能の本」で勉強した内容を、きちんと理解しているか、また、いろいろな方向性で使うことができるということを認識するために、たくさんの問題を解いていくものです。
これらの本の用途は、クラスレッスンやセミナーなど、一度にたくさんの人に教え、共通した認識を作るのに役立ちます。その場合、教える講師が、具体的な学習に繋げ、また、操作がうまくできない時はフォローすることができますので、上記で上げた問題点は解消されます。
僕のレッスン形態としてマンツーマンレッスンで1対1でレッスンしているものがありますが、その場合、はじめの基礎力を作るのに「機能の本」「考え方の本」「練習ドリル」といった本を使います。
しかし、継続していけばそれらのテキストの内容を完全に把握してしまうので、次の段階に進む必要があり、その時に使うのが「オリジナルテキスト」です。
これは1回1回その人の進捗、これからの目標、将来像などに合わせ作ります。データはランダムのダミーデータを用意します。そして問題文には一言、「このデータでできることを実現してください」だけです。そうすると、受講生は自分の独自の発想で、自分の作りたいものを作り始めます。
もちろんひっかかえるような時にはフォローしますが、あとはやり方を後ろから見ているだけです。
このような課題は自主性、積極性、自信に繋がるので、はじめはExcelで計算書しかイメージできなかったものが、自動請求書作成システムをイメージできるようになるといった、Excelの使い方そのもののステージが上がるのです。
今回は、その「オリジナルテキスト」のように自主性を育めるものにしたいと思いました。
ただ、書籍の場合、買ったらまず独学になると思うので、レッスンと違い、わからないことやうまくいかないときにフォローされるということが難しくなります。このことはとても気を付けて作成しました。

今までにないほんを作りたかった

カタルシスの追求

本を読んだ後の充実感を感じてもらえば、本の中で覚えたことや、感じ取ったイメージは残り続けます。
そのためには、終わったときに手元に残るものを提供したいと思いました。付録やおまけというわけではありませんが、課題をこなすことで最終的に、なにかに使えそうなものを残したかったのです。
また、それはある程度Excelの限界まで挑戦したもので、こういうExcelの使いかたをすれば、こういうものが出来上がるんだなというもの。そして、それは素直にそのまま作れてしまうものではなく、ほんのちょっと難易度の高いものの方が印象に残ると考えました。
それはやはりビジネスとして実際にありそうでイメージできるものであれば理解度が上がるとも思いました。

理解のために実際に何かを成したかった

具体的な題材の選定

上記のようにリアルで具体的な題材としてなにがいいのかを検討しました。
仕事をしていれば誰でも使うだろう考え方、全部で使っている仕組み、全部で使っている一覧表を考えてみました。
全部の仕事に共通して使えるものは「スケジュール」「案件」「入出金管理」「在庫管理」といったものを考えました。そして一覧表としては「仕事(案件)一覧表」「商品の一覧表」「請求したかどうかの一覧表」あたりが全部の仕事としてイメージしやすいかなと思いました。
それらを総合的に考えると「案件を管理するシステム」を課題にして、本を読んで内容を実践したら「案件管理システム」が出来上がるようにすれば、自信になってもらえるのかなと考えたのです。

題材は具体的にしたかった

なぜ?の理解

Excelは、実は覚えにくいと思っています。WordやPowerPointのようにメッセージを文字で表すのではなく、数字や表で表しています。その表の意味を知らなければ、何を学んでいるのかわからないのです。
書籍というのは、いくらターゲットを設定しても、誰が購入するかわからないのです。ベテランから新入社員、もしくは社会経験のない中学生が購入する場合もあります。そのような社会経験がないまま、Excelで集計する表の意味が分かってもらえるでしょうか。
それは仕事の意味だったり、効率化の意味だったり、そのようなことを知らなければなりませんが、入社時の企業研修ではあまり触れていないのが現状で、そのあと仕事をしながら何年もしてやっとわかってくるものだと思います。
それがわからないのでは、ツールとしての案件管理の仕組みを作成したとしても、その意味が伝わらないと思いました。
そこで、少し泥臭いものになりましたが、なぜ?の部分の「Excelを使うのはなぜなのか?」というところにスポットを当て、第一章の部分で文章の知識として説明をしました。

仕事の内容の共通意識
第一章で「なぜExcelなのか?」を説明する

知識として、操作として

はじめ私は、この本をパソコン教室で使っているテキストと同じにすればいいと思っていました。
操作がなんのためにするのかを説明した後、その操作をするというのを、1操作ごとに説明しようとしていたのです。操作の直前が、その操作をなぜするのかを一番理解しやすいと思っていたのです。
しかし、編集者から「知識」のセクションと「操作」のセクションを分けてほしいというリクエストがありました。
そこで実際に分けてみたのですが、そうすると学習の集中力が上がりそうな気がしました。また、この本の勉強の方法もフレキシブルになり、読者一人一人のペースで進めやすいなと思ったのです。
例えば、なぜその操作なのかという部分だったり、その機能の活用法などは、知識として通勤の電車やバスの中で読み、家に帰ってからExcelで実践するということができるのです。

知識セクションと操作セクション

読者ターゲットの設定

本来であれば、読者はだれであれ、読んだら面白い、ためになる本ではないといけません。しかしそれに対応するにはページ数を増やさなければいけません。ページ数が増えれば本の値段も上がり、読者が手に入れられないことになります。また、集中した学習をするのであれば、読者自身のレベルに合わせ、読むページを読者自身が選別しなければならなくなるというデメリットもあります。
そこで、読者層を想定することにしました。
Excelの利用者層を考えると、一番多い層は入力だけをしている層です。その中には自分がExcelに入力しているという意識もないまま入力している層もいます。
その上のレベルとしては関数を使った計算ができる層がいます。普段入力だけをしている層でも、このレベルの人もいるのかもしれません。
さらに上のレベルの人は、それ以上に自動化を実践している層です。
今回、ターゲットにしようとしているのは、少なくとも操作をしたことがある人で、自動化を実践できなくてもExcelで自動化ができることを知っている層ということを想定しました。
それは「関数を使って計算式が作れる層」でMOSExcel一般合格レベルのスキルを持っている人を想定し、題材はMOSExcel一般の出題範囲でできること+ほんのちょっとの難しさのエッセンスにMOSExcel上級の出題範囲の一部としました。

だれに向けるの

MOSExcel一般合格者レベル

私はインストラクターとしてもMOSを教えるためにかなり深いところまでMOSの研究をしています。その知識から、MOSExcel一般合格レベルはどういうことができてどういうことができないのか、考えました。
基本的なExcelの操作や数式の入力は出来ると思いました。また、リボンからではない詳しい設定をするダイアログボックスの設定もできると思いました。
完全にできないことは、エラーが出たときにエラーを特定し、その間違いを修正することが難しいと思いました。きちんとテキスト通りに操作すればエラーは出ないはずですが、実際にはそれは難しいかもしれません。
そこで「正しく読んで正しく操作すること」についてもできるかどうか考えました。これは正しい学習方法でMOSを勉強すると自然に身に付くスキルで、私が最もMOSの勉強を勧める理由なのです。今回はあくまでMOS合格者ではなく、MOS合格者レベルなので実際に試験対策をしていないかもしれません。また、正しい学習ではなく丸暗記による学習をしているとこれが身に付かない可能性もあったのです。
誰かに教えられるレッスンであればできなかったところや出来そうにないところはフォローが入り、確実にゴールに向かっていけます。
書籍でできるところを考えると、出来なさそうな難しい操作をする前に、「ここは難しい操作ですのでしっかりと操作して下さい」と記述することで集中力を上げることができます。またその操作の終わりに動作確認の手順を提示し、きちんと設定したか確認できますので、この本の操作では1つ1つの操作が終わるごとに動作確認の手順を入れました。
しかしその動作チェックの結果エラーがあった場合には、対処は難しいと思います。どこでどんな間違いを起こしているか、すべてのパターンを提示しなければいけないのです。
そこで、すべての操作セクションの終わりで完成したファイルを用意し、もしうまく動作しなければ、先のセクションのファイルを開いてその続きを操作できるようにしました。できなかったところは、また頭から復習して、それを何度も繰り返すごとにだんだん完成に近づいていくことを感じてほしかったのです。
このような対策をすることで、想定される読者の困ることに対応しました。

MOSExcel一般合格者レベル

とにかく仕事を始めること

この本で、なぜExcelで案件管理というとてつもなく大きいものを作ろうとしたのか、それは「Excelであれば早く作れる」ということを伝えたかったのです。プログラムで作るものの何倍も早く作れるのです。
さて、それはなぜ早く作らなければいけないのでしょうか。
例えば、あるニュースを見て、ひとつ事業を思いついたとします。それは明日になったら他の会社でもその事業を思いつくかもしれません。もちろんいいサービスの方が売れるのですが、消費者としては一番初めに始まった事業のイメージが一番強く残り、それはそういうものだというイメージ付けになります。そうするとやはり一番初めに始めた人が一番売れますので、一刻も早く事業を始めるための仕組みをそろえる必要があります。
もう一つは非常時です。天災などで事業が中断した場合、その事業のシステムがダウンするほかにも、何がどこまでできていて、今出来ることはなにか一覧表の管理が必要になります。これは翌日から使えればいいというものではなく、一刻も早く立ち上げなければいけないものなのです。
そのためにも早く作れる方法としてExcelを知っておくことが重要なのです。

早く作る

読者に提供できること

読者に感じてほしいことを考えました。
読者は経験者もいるし、初心者もいます。そのどちらのにも読んでよかったと思ってもらうポイントはどこなのか、それをちりばめる必要がありました。
経験者にも新しいExcelの使い方に気付いてもらうポイントが必要です。それは今まで普通に使っている機能の新しい活用方法だったり、知ってるだけで何に使うかわからなかった機能の便利なところ、Excelでは機能としては存在しているものの活用されていない機能の紹介、といったことが考えられました。
初心者には、Excelで何かを作ることは何に繋がるのかということを、知識を通してわかってもらうことで、今後のExcelの学習効率がとんでもなく上がるということを期待しました。初心者にはまずExcelが何のためにあるのか知ってほしかったのですね。
さらに、勉強法として、何度も繰り返し同じことを操作する、操作するたびに新たな認識が生まれる面白さに気付いてもらうこと、もしうまく操作できなくても諦めずに無理やりにでも先に進むこと、そのようなことがわかるようにしようと思いました。

Excelすげぇの再認識

今後として

この本は、他の本に比べて圧倒的に違う特徴があります。
普通、何かを実践形式でExcelを学習するテキストでは、小さな課題がいくつにも分かれていて一つのものを完成させるというものはありません。もし1つのファイルで操作するとしても、操作に間違いが起きないレベルで学習するか、もしそこが間違っていても、その後の学習に影響が出ないようになっています。
しかし、この本は1冊まるごとで1つの課題を作成していきます。1つでも手順を間違えば、その後の操作でエラーが出ます。学習する読者にとってはかなりリスクがあります。
そこを、毎回操作ごとに動作確認、動かなったときは先に進むためのファイルを用意する、という対処を考えました。
これが可能だとなったので、他の在庫管理やスケジュール管理の仕組みも同じようなやり方で可能になります。
その部分もやりたいことはやりたいのですが、本当はExcelの入力しかしていない人向けに、Excelとはなんなのかを理解してもらえるような本を書いてみたいのです。これはもっと将来でも構わないのですが、早くやらないと、Excelで悪いニュースになるようなことが増えていくことになりそうなので、早く底上げをしないといけないと思います。
これらの次回の構想は、私一人ではできないので、もし、興味のある方は、このような書籍の執筆に挑戦していただきたいと思います。そのためにこの本を活用いただくという使い方を歓迎します。

Excelで“時短”システム構築術――案件管理の効率化を簡単に実現しよう!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?