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吉本隆明のチャイム

学生だった頃、吉本隆明の本が大好きで氏の著作を何度も何度も読んだ。全集を手に入れた。講演集も買った。あまりにも傾倒して、どこかで見つけた住所を訪ねて家の前に行った。家の前にはお寺があり、大きな仏像が見えた。表札に「吉本」と本当にあったのが嬉しくて、玄関の前でチャイムをおそうとしたけれど、勇気がなかった。迷惑に違いないと思った。氏の家の前で寝転んでいる猫を見ながらただ立っているだけが精一杯で満足して帰った。

先日、吉本ばななのエッセイを読んでいると、吉本隆明は、突然やって来た見知らぬ来訪者の質問に、玄関で何時間もつきあって家族を心配させたそうである。
あの時、僕は何故、チャイムをおさなかったのだろう。「尊敬しております」、と一言いうことができたかもしれない。勇気がなかったことの後悔は、僕の自立の思想的拠点を見つけるための戒めにしなければいけない。

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