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思い出のカンフー映画8本

はじめに

カンフー映画が好きでたくさん観てきたけど、そのなかでも思い出に残っている作品をいくつか紹介したい。ほんとうはキリのいい10本にしたかったのだけど、うまくできなかったので8本にした。世代的にブルース・リーは入っておらず、ジャッキー・チェンとリー・リンチェイが多めになっていることをご了承いただきたい。

少林寺木人拳(1976年)

この作品が私のカンフー映画の原体験になっている。日本での公開は1981年で当時の私は6歳。どうしてそういうことになったのかは覚えていないが、叔父に連れられて映画館でこれを観た。叔父とはそれほど仲がいいわけでもないし、これ以外にふたりで出かけたこともない(覚えていないだけかもしれないが)。だからどういう経緯で観ることになったのかはわからないけど、とにかくこれをきっかけにカンフー映画が好きになったことは間違いない。

ジャッキー・チェンが演じる主人公の若者が父親の仇を討つために少林寺の門弟となり、修行の末に下山、宿敵と対決するという王道の展開なのだが、いろいろとひねりがあり飽きさせない。ストーリーがしっかりしているので、カンフー映画のファンでなくても楽しめる作品だと思う。いちばん好きなカンフー映画は?と訊かれたら間違いなくこれを答える。

少林寺三十六房(1978年)

テレビ放映されたのは1985年らしいから観たのはたぶん10歳。監督はラウ・カーリョン、主演はリュー・チャーフィー、少林寺映画を代表する古典的名作である。房と呼ばれる修行の場があり、そこを監督する住持に認められると次に進むことができ、基礎体力づくりからだんだんと技を習得するシステムになっている。これがほんとユニークで、当時の私は友だちとよく少林寺三十六房ごっこをしたものだ。

ウィキペディアによるとタランティーノはこの作品を「カンフー映画史上最高の3本に入る」と評し、『キル・ビル』にリュー・チャーフィーをキャスティングしたとのこと(ゴードン・ラウ名義で『Vol.1』と『Vol.2』に違う役で出演している)。リュー・チャーフィーはジャッキー・チェンとリー・リンチェイに並ぶカンフー俳優だと思うのだけど、作品に恵まれなかったのか、多くの作品に出演はしているけど知名度はそれほどでもない。

ドランクモンキー 酔拳(1978年)

ジャッキー・チェンといえば酔拳、酔拳といえばジャッキー・チェンというくらいおなじみの作品だけど、若い人は知らないだろう。昭和の時代にはゴールデン洋画劇場でしょっちゅうジャッキー・チェンの映画をやっていたのだ。カンフー映画だけではなくキョンシー映画とかゾンビ映画とか、いま思えばくだらない映画を家族で楽しんでいた平和な時代だった。

ジャッキー・チェンが演じる主人公は黄飛鴻(ウォン・フェイフォン)といって清朝末期に実在した武術家で、カンフー映画を観ていると、あ、これも黄飛鴻なんだ、ということがよくある。ウィキペディアによると「同一題材で製作された映画の数としては現在世界最多でギネスブックに掲載されている」とのこと。実在したカンフーヒーローなのである。そんな黄飛鴻が酔拳の達人から奥義を伝授されるというストーリーなのだが、実際の黄飛鴻は酔拳はやっていないので完全に作り話。それならべつに黄飛鴻じゃなくてもいいような気がするけど、まあそういうものなのだろう。

この作品のなかにジャッキーが豪快に無銭飲食する場面があるのだけど、これがとっても好きなシーンで、いまでも何かをたくさん食べるときには、このジャッキーをイメージしている。

酔拳2(1994年)

1978年の『ドランクモンキー 酔拳』から16年に制作された続編。続編とはいえジャッキー・チェン演じる黄飛鴻(ウォン・フェイフォン)が酔拳を使うということ以外、ストーリーや登場人物のつながりはない。撮影時のジャッキーは40歳くらいだけど、作品のなかでは10代なのかな、さすがに10代には見えないけど、それなりに見えるのはさすが永遠の若者ジャッキーなのである。そういえば継母を演じている役者さんがジャッキーより年下ということも話題になった気がする。

当時私は大学生で、彼女と劇場に観に行った。いま思えばデートで観る映画じゃないだろと。SNSがあったら「デートで酔拳2ってどう思いますか?」って投下されていただろう。この劇場鑑賞で苦い思い出があって、途中でおしっこをしたくなったんだけど、ジャッキーも頑張ってるんだから俺も頑張らなきゃ!と思って我慢してて、だけどだんだんヤバくなってきて、でもそろそろクライマックスで、あーもうダメだ!とトイレに駆け込んだ。ちょっと酔拳を観たことない人に説明しておくと、酔拳というのは酒を飲んでべろんべろんになると真の力を発揮する。で、トイレに行く段階では、ジャッキーはかなり境地に立たされていたんだけど、酒がなくて、酔うことができない。酒があれば逆転できるのに!という絶体絶命の場面で、いかにしてジャッキーは酒を手にするのか、もしくは酒なしで勝てるのか、というハラハラドキドキのシーンだったのだけど、トイレから戻ってきたら、べろんべろんになっていたのだ!え?なんで?という感じで映画は終わってしまった。この体験がトラウマになっていて、いまでも映画を観に行くときには何時間も前から水分を摂らずに心がけ、開演の直前にトイレに行かないと不安でならない。

あとエンディングにけっこう驚きのシーンがあったんだけど、やっぱり問題になったのか、その後ソフト化されたときに削除されたようだ。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地大乱(1992年)

ツイ・ハーク監督、リー・リンチェイ主演のシリーズ第2作。これはレンタルビデオで借りたのだけど、シリーズを最初から観ようと思って第2作のこれを最初に観てしまった。というのも日本公開はなぜか第1作の『天地黎明』よりこの『天地大乱』が先で、パッケージの説明を読んでもどちらが先とは書いてなくて、リリース日の新しいこちらを借りてしまったのだ。当時はインターネットというものがなかったから調べようもなかった。

私のいちばん好きなカンフースターはリー・リンチェイなのだけど、リー・リンチェイといえばデビュー作の『少林寺』が有名だけど、監督ツイ・ハークが演出したワイヤー・アクションを使ったこの作品のアクションにはほんと度肝を抜かれてしまった。ジャンプというかほとんど飛行している感じなのだけど、それがとにかく美しくてかっこいいのだ。さすが中国全国武術大会で5年連続優勝して「中国武術の至宝」と呼ばれた(ほんとかどうか知らないけど)だけのことはある。リー・リンチェイの作品はほとんど観ているけど、バカバカしいほどカンフー映画なこの作品がいちばん好き。

ちなみにリー・リンチェイが演じる主人公は黄飛鴻(ウォン・フェイホン)で、ジャッキー・チェンが酔拳で演じているのと同一人物だけど、何もかもまったくちがうので、そういうことも考えながら観てみると面白い。

ロミオ・マスト・ダイ(2000年)

リー・リンチェイあらためジェット・リーのハリウッド作品。リー・リンチェイは1998年公開の『リーサル・ウェポン4』でハリウッドに進出するにあたって名前をジェット・リーと変更、続くこの作品がハリウッドでの初主演作品となった。ヒップホップとカンフーを融合させた意欲的な作品で、劇場で観たときはしばらく興奮がさめなかった。個人的にカンフー映画はオールドスクールなものが好きなので、このリストにもジャッキー・チェンの『プロジェクトA』などは入れてない。この作品はアメリカが舞台の現代ものなのだけど、カンフーの達人であるジェット・リーがヤンキーたちを華麗に翻弄する姿はほんとに爽快で、どうだ!これがカンフーだ!的な気持ちになれる作品なのだ。

この作品でヒロインを演じたのは歌手のアリーヤで、惜しくも若くして亡くなってしまったのだけど、ほんとにチャーミングで美しく、それもこの映画の見どころだろう。音楽も素晴らしく、いまでもサントラをたまに聴いている。

グリーン・デスティニー(2000年)

中国・香港・台湾・米国の合作作品で、アカデミー賞で作品賞のほか10部門で候補となり、外国語映画賞など4部門を受賞、カンフー映画ながらけっこう評価された。監督はアン・リー、出演はチョウ・ユンファ、ミシェル・ヨー、チャン・ツィイーなど。これも劇場で観た作品で、主演がカンフー俳優でもなくアクション俳優でもないチョウ・ユンファだから期待はしていなかったのだけど、アン・リーの演出がすごいのか、ダイナミックで美しいカンフー映画に仕上がっていた。当時新人のチャン・ツィイーの凛とした美しさも素晴らしい。これで主演がジェット・リーだったらなあと思っていたら、じつはもともとジェット・リーの予定だったのだけど、彼は自身のハリウッド初主演作品である先に挙げた『ロミオ・マスト・ダイ』を優先させて、代わりにチョウ・ユンファが出ることになったと知って、なんともいえない気持ちになった。どっちもいい作品だし、それなりしょうがないかと思う気もするけど、できればどっちもやったほしかった。

おわりに

好きだったカンフー・ヒーローたちは2000年代になってからもそれぞれ活躍はしたけれど、ジェット・リーは病気になっちゃったり、ジャッキー・チェンは中国共産党に入党したいと言ったり、昔ほどの作品はなかったように思える。というかCGがどんどん技術向上したことで、体を使ったアクションが必要じゃなくなったことが大きいのだろう。最近のアメコミ映画を観ても、アクションのかっこよさはあるけど、しょせん作り物だと思っちゃうし、昔のカンフー・スターたちのように身体能力のすごさに興奮することもなくなってしまった。これはとても残念なことだけど、カンフー映画はもう終わってしまったのだ。


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