見出し画像

ジュースのフタ

私が小学生の頃、ジュースはダルマ型ボトルというガラス瓶で売られていたのだけど、当時、このガラス瓶のスクリューキャップを集めるのにはまっていた。いまのペットボトルとは違い、ジュースごとにフタもデザインされていたから、フタを集めるというかジュースを集める感覚だったのではないかと思う。自分で飲んだものだけではなく、自動販売機の横にあるゴミ箱から自分が持っていないフタを探し出し、コレクションしていたのだ。

あるとき私は遊び場だった大きな神社で、池に石を投げて遊んでいた。すると、近所のSさんというお兄さんに注意された。Sさんは年齢的に高校生くらいだったと思うのだけど、知的障害があり、私にはちょっとこわい存在だった。「池に石を投げたらダメだろ」。Sさんは私をこらしめるつもりだったのだろう、そこに置いてあったフタが入ったスーパーの袋をつかみ取り、自転車で走り去ってしまった

その袋には私が集めたすべてのフタが入っていた。覚えていないけど、40とか50くらいはあったと思う。私は泣きながら走って追いかけた。Sさんは私をからかいながら自転車を漕ぎつづけ、やがてどこかへ行ってしまった。そのコレクションがどうなったかわからないが、おそらく捨てられたのだろう、私のもとに戻ってくることはなかった。時間をかけて集めたフタがなくなってしまったショックは相当なものだった。

後日、うちの玄関前にスーパーの袋が置いてあった。中身はジュースのフタだった。だけど、私がコレクションしたものではなく、Sさんがかき集めてきたものだった。悪いことをしたと思ったのだろう、Sさんの気持ちは嬉しかったが、中身はジュースの種類に関係なくたくさんのフタが入っていただけで、こういうことじゃねーし!と私のマイブームは終わりを告げた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?