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貧困者に対して国がお金を使わないと社会全体が悪化する

貧困者に対して国がお金を使わないと、社会全体が悪化する

 デヴィッド・スタックラー, サンジェイ・バスの『経済政策で人は死ぬか?-公衆衛生学から見た不況対策-』によると、「貧困者に対して国がお金を使わないと結果的に社会全体が衰退する」と述べている。

 先程人類は、歴史上とても深刻な経済危機を何度も経験しており、その都度大不況に陥り、人々は職を失い、家を失い、健康を損ない、遂には死に至るケースも多くあったと先述した。

 しかし、同じように大不況を経験しているはずなのに、その後の展開がまったく異なる国や地域が存在したのである。

 例えば、2008年リーマンショック※1、の経済危機に際して、ギリシャは「自己責任論」を選択した(いわゆる「ギリシャ危機」である。

※1 リーマンショックとは、2008年9月15日に、アメリカ合衆国の投資銀行であるリーマン・ブラザーズ・ホールディングス(Lehman Brothers Holdings Inc.)が経営破綻したことに端を発して、連鎖的に世界規模の金融危機が発生した事象を総括的によぶ通称である。

「ギリシャ危機」により、人々はどうなったか

「ギリシャ危機」とは2009年10月の新民主主義党(穏健派・中道右派)から全ギリシャ社会主義運動(左派)への政権交代である。

 これを機に、旧政権により財政赤字が隠蔽されていたことが明らかになった(財政赤字がGDP比で5%程度とされていたが、実際は12.7%であったと判明。更にその後13.6%に修正)。

 このため新政権(パパンドレウ氏)から財政健全化計画が発表されたのだが、経済成長率などの点において楽観的な内容だったため、ギリシャ国債が格下げされることとなった。

 IMF(国際通貨基金)やEU(欧州連合)は金融支援を決定したものの、その条件としてギリシャに増税・年金改革・公務員改革・公共投資削減・公益事業民営化など、厳しい緊縮財政・構造改革を求めた。

 ギリシャはこの条件を受け入れ、財政健全化を進めたが国民負担も大きく、景気も大きく落ち込む結果となった。
 各国の協力もありギリシャは危機を乗り越え、2014年にはパパデモス政権のもと実質GDP成長率もプラスに転じた。

 2018年8月、全ての金融支援プログラムを終了させたが、同政権は国民の支持を失い、2019年7月、総選挙により新民主主義党が勝利し、約4年半ぶりに政権交代が実現した。

 ギリシャのシンクタンク、経済産業調査財団(IOBE)は2020年4月15日発表の四半期レビューで、今年の同国経済は新型コロナウィルス感染拡大抑制のためのロックダウン(封鎖)により、基本シナリオで5.0%、悪化シナリオで9.0%前後のマイナス成長になるとの予想を示した。

【参考】REUTERS 「ギリシャとリーマン危機比較、共通する予想外の連鎖リスク」
https://jp.reuters.com/article/gree-r-idJPKCN0PB3UU20150701

REUTERS「ギリシャ経済、今年は5─9%のマイナス成長に=シンクタンク」

ギリシャの自殺件数は経済危機の間に30%増加した

 ギリシャ統計局によると、同国で正式に記録された自殺件数は、経済危機の間に30%増加した。

 2010年には377件であった自殺者数が2013年には533件になり、自殺未遂は、年間8,000件から10,000件に上ると推計されている。

 ギリシャ人のうつ病の患者数は、2008年に人口の3.3%だったのが2009年には6.8%、2011年になると8.2%、そして2013年には12.3%へと増加の一途を辿っている。

【参考】The Big Issue「近年、ヨーロッパでもっとも自殺者が増加した国は?緊縮経済下のギリシャと世界各地の自殺予防対策について」
http://bigissue-online.jp/archives/1051613845.html

 しかし、同様な緊縮財政政策を実施する決断を迫られたにも関わらず、別の道を歩んで経済を急速に回復させた国がある。
アイスランドである。

経済回復の一路を辿るアイスランド

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