見出し画像

晴れ女

駅を出ると、旅先の空は絵に描いたように晴れていた。曇天が多いと聞いていたから意外だ。

「私、晴れ女なんです」

担当編集のSさんが嬉しそうに言った。

「仮に僕が雨男だとしたら、ここには晴れ女と雨男が同時に存在します。その場合、天気はどうなるんですか?」

「そりゃあ、力の強いほうが勝ちます」

小さな子どもみたいな、単純明快な答えだ。

Sさんは腕時計を見る。

「取材までまだ時間がありますね。せっかく気持ちいいお天気だし、少し歩きませんか?」

知らない街の、寂れた駅前商店街を歩く。知らない人たちの暮らしを感じるのは、興味深いけれど少しだけ落ち着かない。

一方Sさんは、「お団子屋さん」「金物屋さん」などと、目に留まるものを声にしながら歩いている。

彼女の屈託なさは、まるでこの青空みたいだ。

……なんて凡庸な比喩を思いつく。作中では絶対に使わないのに。

現実にしみじみ思うことは、案外とても凡庸なんだ。



#旅する日本語 #麗らか

サポートしていただけるとめちゃくちゃ嬉しいです。いただいたお金は生活費の口座に入れます(夢のないこと言ってすみません)。家計に余裕があるときは困ってる人にまわします。サポートじゃなくても、フォローやシェアもめちゃくちゃ嬉しいです。