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ロベルト・マルティネスの26人〜ポルトガル代表の新体制〜

才能という才能を、あつめてうまく料理する。それを得意とする。

ロベルト・マルティネスのベルギー代表での戦績を振り返れば、主力の高齢化による黄金時代の終焉よりも、それ以前の成功を褒め称えねばなるまい。

ポルトガル代表監督への就任会見で、ロベルト・マルティネスが記者に向かって約束したことは2つ。まずは一刻も早くポルトガル語を学ぶこと。そして、EURO2024の王者となることだ。

49歳のスペイン人監督は、2008年以来となる歴代3人目の外国人監督として迎えられた。EURO2016とネーションズリーグ18-19を制した、偉大なるフェルナンド・サントス前監督の後任である。

偉大な前任者の後を継ぐ。ポジティブなベースがあるからあとはアイデアを進化させるだけ。記者会見でそう語った彼は、EURO2026予選に臨む新体制最初の26人を発表した。

2023/3/17 発表の26人

新監督の色

GKの人選はW杯とまったく同じ3名がリストに載ったが、ディオゴ・コスタの負傷離脱によりギマランイスのセルトン・ビアイが追加招集された。MFは、W杯に出場したウィリアム・カルバーリョが招集外となり、その他のメンバーは残った。FWは、怪我によりW杯を欠場したジョタが復帰し、外れたのはライプツィヒのアンドレ・シウバ、ブラガのリカルド・ホルタの2人だ。

特筆すべきは、DFの人数だろう。W杯を戦ったメンバーは8人全員が招集され、加えてスポルティングのゴンサロ・イナシオ、ウニオン・ベルリンのディエゴ・レイテを招集。合わせて10名の大所帯となった。新たに招集された2人はいずれもセンターバックで、出場すればともにA代表デビューとなる。ぺぺは負傷を理由に辞退したものの、追加招集を必要としないほどの人数を集めている。

3枚

守備的MFながらもセンターバックもこなせるダニーロ・ペレイラを含め、センターバックを合計6人選出している。このことからも分かるように、ロベルト・マルティネスが3バックを試そうとしていることは明白だ。

Record紙によると、現にトレーニングセッションで 3-4-3 の布陣をテストしているとのことだ。3人のCBには、アントニオ・シルヴァ、ルベン・ディアス、ディオゴ・レイテが配置されたという。次々と万能型の現代的なセンターバックが育つポルトガルにあっては、誰が監督であろうと試してみたくなる布陣なのかもしれない。

しかし、3バックにすることの起用法上のデメリットもある。ポルトガル代表においては特にそれが顕著だ。DFを1枚増やすということは、同時に前線の豪華なタレント陣の中から、一人をベンチに座らせる必要があるということになる。

会見では、彼は前体制からアイデアを進化させるだけだと語った。しかし同時に戦術的柔軟性の重要性も強調している。よりアグレッシブに、強度の高いプレーを展開する新しいポルトガル代表の姿に期待したい。

CR7

変わらず元気だろうか。

サウジアラビアで10試合9ゴール2アシスト。捨て台詞とともにマンチェスター・ユナイテッドを去り、カタールではフェルナンド・サントス前監督にもその態度を戒められた38歳のスーパースターは、新体制の幕開けにも立ち会うことになった。

監督就任後の最初の仕事は、候補者全員と話すことだった。就任会見の2日後、新監督はさっそくサウジアラビアの首都リヤドへ飛び立った。スーペルコパ・デ・エスパーニャに出場していたベティス、バレンシアに所属するポルトガル人選手と会話したことが報じられている。しかし最大の目的は、アル・ナスルでのキャリアをスタートさせようとしていたロナウドとの会談であったとされている。

新監督のこれまでの指導者キャリアの中で、ロナウドのような一選手を超えた存在を扱った経験はない。ベルギーとポルトガルでは、ポテンシャルの高い選手が揃っているという共通点はある。しかしポルトガルには、まだまだ元気そうな英雄がいる。体制変更のどさくさに紛れて、うやむやになどできない。

ぺぺを選出していることにも通じるように、年齢は気にしないと述べるロベルト・マルティネス。新体制で最初に見極めるのべきことは、このスーパースターに期待するポジティブな面、そしてW杯でも見せたネガティブな面だろう。決断を下すその時まで、手を砕いて懐柔するほかない。

招集外となった候補生

いずれもビッグクラブが目をつけている逸材だ。

FCポルトのガレーノは、チャンピオンズリーグのインテル戦で常に脅威となっていた。ヨーロッパリーグのアーセナル戦で劇的なロングシュートによりチームを救ったスポルティングCPのポテ(ペドロ・ゴンサウベス)は、ポルトガルの優秀なアタッキングMFの系譜を引いている。ベンフィカのフロレンティーノ・ルイスは、カンテ級とも評される守備能力で評判を呼んでいる。

彼らはいずれもロベルト・マルティネスの最初のリストには載っていたものの、最終的な招集リストからは外れた。今後は間違いなく代表メンバーに食い込んでくる存在ではあるが、新監督は今の段階ではフェルナンド・サントス前体制におけるベースを重視し、W杯メンバーへの信頼と尊敬を優先したようだ。そうでなくとも競争の激しいこの代表において、彼らの競争相手は海外で活躍するスター選手ばかりだ。代表チームで彼らの姿が見られる時はいつになるのだろうか。待ち焦がれているファンも少なくはないはずだ。

淡い期待

カタールW杯の直前の2022年9月19日、突然の代表引退を発表したラファ・シウバ。新体制のキックオフにあわせて、彼の復帰も囁かれていた。ベンフィキスタとしては嬉しいこの噂。単なる噂だと分かっていても、心のどこかで期待してしまうものがあった。

しかし、引退の決断は撤回されなかった。ラファは新監督に復帰の意思がないことを告げたようだ。ベンフィカでの活躍を見ていれば、誰しもが復帰を願うだろう。だが個人的な理由によるものと言われたらそれまで。彼の決断に敬意を表するほかない。

火蓋

監督、コーチ、起用法。なにもかもが新しくなることを期待されている。初戦の相手はリヒテンシュタイン。通算対戦成績はポルトガルの6勝1分0敗。格下ではあるが予選の結果を左右する落とせない試合であり、新体制の印象を決定づける重要な一戦となる。

火蓋を切るのは誰か。

新エース候補・ゴンサロ・ラモスか、ジョアン・フェリックスか。はたまた、まだリヒテンシュタインをその被害者リストに入れることのできていない英雄、CR7なのか。


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