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『ATEOTD でぃすたんす』 別府ブルーバード劇場、斎藤工祭舞台挨拶参加レポ   ~そして、コロナ禍で感じたこと~


9月26日(土) 急遽、別府ブルーバード劇場、ご本人登壇が決定した『斎藤工祭』の参加レポと、このコロナ禍で考えたことをまとめてみた。
いつもの舞台挨拶参加レポと違い、自分が感じたコロナ禍についての思いも綴ってます。


斎藤工、別府ブルーバード劇場登壇決定


今年はコロナの影響で、個人事業もたたみ、副業も失くなり、毎日暇を持て余しながら過ごす日々。そんな、気持ちのユルユルな昼下がり、Twitterのタイムラインに、別府ブルーバード劇場館主補佐、森田真帆さんのツイートで、インスタライブの告知が流れてきた。
森田さんが、インスタライブをするのは、去年まで定期開催されていたBeppuブルーバード映画祭のような、大きなイベントの時くらい。今年はコロナの影響で、開催も未定。映画祭以外で、何か特別な発表があるみたいだ。18:00配信開始予定だったが、1度訂正が入り、19:00に配信が始まる。

「斎藤工さんの、別府ブルーバード劇場登壇が決定しました!」

実は、少し予感はしていた。だって、別府ブルーバード劇場の上映ラインナップが、斎藤工関連の上映ばかりで、『斎藤工祭』と銘打たれている。
ただ、ご本人登場だとしても
「リモートでの参加かな?」
と思っていた。
そして、少し当たりをつけて『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』だけ前売りを買っていた。それが、ご本人劇場登壇とは! 嬉しい誤算。

正直に言うと、斎藤工という役者に関しては、『RE:BORN』 『手鼻三吉
虎影』『麻雀放浪記2020』の4作品しか出演作を観ておらず、前に別府ブルーバード劇場に登壇されたのは、2年前『blank13』上映のタイミング。その時は、登壇したことさえ知らなかった。
その後、レンタルで観た『blank13』に、かなりの衝撃を受けた。



『blank13』は、とにかく画作りがエグい。普段の生活の中で、蓋をしたくなるような、触れたくない嫌な部分や場面を鮮やかに切り取り、観客の前にあえてさらけ出す。さらに、役者に対しても撮影するアングルが容赦ない。
その画の切り取り方が、エグさを一層際立たせる。
強烈に印象に残っているのが、父親役リリー・フランキーと、息子役高橋一生が、病院の屋上でタバコを吸いながら話すシーン。少し引きでリリーさんを背後から撮る。その時に、リリーさんの薄くなった頭頂部がひどく目立つ画になっていた。
「自分が演じてたら、このシーン観てヘコむだろうなぁ…」
と思った。逆に言うと、そのシーンにO.K.を出す程、リリー・フランキーは、監督齊藤工を信用して、委ねていたということだろう。
独特な空気感を醸し出すこの作品を観ている間、作品中の高橋一生と全く同じ表情になる。
「この作品は何なんだ?」
ジャンルが分からないし、展開も、着地点も読めない。不思議な気持ちのまま、観終わってネットで検索すると、原案はコメディだとある。
「これが、コメディ?」
作品の骨に当たる部分がコメディだと、とても信じられず、ザラッとした触感のような、変にリアルな感覚が、後々まで頭の片隅に残った。
自分の中で齊藤工という監督が、この一作で強烈に心に刻み込まれ、このエグい画作りが、計算して行ったものなのか、自然に自分の中から滲み出たものなのか、知りたいと思った。


今回「斎藤工祭」で、ご本人斎藤工さんが登壇される上映作品は『ATEOTD でぃすたんす』 17:20上映と、19:20上映の2回登壇。チケット申し込みは、翌日12:00から、Peatix専用ページで行うとの告知だった。
2年前の斎藤工、別府ブルーバード劇場登壇時の伝説が頭をよぎる。
2018年5月、別府は斎藤工の炎に包まれたぁ!
(ここだけ千葉繁さんのナレーションに脳内変換してください)


詳細は上の記事で確認していただくと、そのテンヤワンヤ具合が分かるかと。とにかく、気を緩めたらヤラれる。本気でチケット獲りに行かねば。


チケット争奪戦


次の日、1時間前には時計の秒針をキッチリ合わせ、12:00きっかりにチケット申し込みの専用ページを開く。ジャストで開いても、タイムラグがあったようで、申し込みボタンが表示されない。焦らずページを更新。チケットの申し込み終了までにかかった時間は、ほぼ1分。無事にチケット1枚予約することができた。
「ここまで、本気出さなくても……」
この時はまだどこか、チケットの申し込みが出来たことで、
「そんなに思った程、申し込みが多くないのでは?」
と、少し気が緩んでいたのは確か。
しかし、その後の別府ブルーバード劇場の公式のツイートを見てビックリ!
何と、17:00、19:00上映分、どちらも5分で完売の通知を受け取ったとのこと。後から人づてに聞くと、すでに1分を過ぎた時点で、専用の申し込みページには、満席の表示が出てたそうだ。
ナメてたぁ、斎藤工人気
その後の、
「チケット取れませんでした~」 
「別府に来ること知らなかったです~」
みたいなツイートが散乱するタイムラインを見て、その過熱振りを改めて実感する。あまりの反響に後日、別府ブルーバード劇場の公式Twitterアカウントから、『MANRIKI』での斎藤工舞台挨拶追加決定の告知がされた。



2年程、別府ブルーバード劇場に足繫く通っているが、これ程の盛り上がりは、『アンナチュラル』放送終了後に、間をおかずに決まった井浦新さんの舞台挨拶登壇時くらいだったと思う。舞台挨拶の追加が決定する展開も、井浦新登壇時とそっくり。
当時、『ニワトリ☆スター』上映後に、かなた狼監督と井浦新さん両名で、11:00、19:00の2回に分けて舞台挨拶をする予定だったが、チケットが即完売。状況を知った井浦新さんが、同時期に16:00から上映していた、主演作『二十六夜待ち』にも、急遽登壇を快諾してくれたという。
自分はこの追加登壇で、チケットをようやく確保でき、これが別府ブルーバード劇場に通うきっかけにもなった、非常にありがたい思い出。今回も斎藤工さんの優しさに感謝です。チケット申し込みを瞬殺された斎藤工ファンは、かなり多そうだったので、自分の体験も踏まえて、追加された登壇分で是非ともチケットを獲得し、人生変えるくらい楽しんでいただけたらと思わずにはいられなかった。
とりあえず、19:20上映分のチケットを確保したので、前日の25日は、レイトショーで『ミッドナイトスワン』を観る予定だったが、齊藤工監督作品の予習がてら前売りを購入していた『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』の鑑賞に変更。


上映時間に合わせて、別府ブルーバード劇場へ向かう。劇場のカウンターには、館主補佐で映画ライターの森田真帆さんと、館主の照さんが店番をしていた。会って早々、
「インスタライブ見てました?」
と森田さんから聞かれる。
ちょうど、ルーティン になっている筋トレをしている時に、斎藤工登壇上映の入場順抽選をインスタライブで配信していた。途中までPCでチェックしていたが、電波状況が悪いのかプツプツ途切れがちだったので、
「筋トレしていたのと、配信が途中でプツプツになったので、初めの方しか見てないんですよ」
と答えると
「入場、2番ですよ!」
と教えてもらえた。
一瞬、時が止まる。
「2番… ですか?」
その時、森田さんが色々と話しかけてくれてたようだが、何か遠くからボンヤリ話し声が聞こえているような感覚だった。ここで、びっくりしたのは、早い入場番号だからではなく、”2番”だったこと。
2年前の井浦新登壇、『二十六夜待ち』の舞台挨拶参加時には、入場順を劇場で、箱の中に入った手作りのクジを引いて決めた。何気なく箱の中に手を突っ込んで引いた番号が、やはり2番だった。この時から、自分の人生の歯車が確実に、違う方向に回り始めたと振り返って思う。何か今回も、自分の人生揺さぶられるようなことが起こるのかなと、ふと感じた。

2列目のいつも座る席に着き、『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』鑑賞。この映画は3部作になっており、1作目が『blank13』のように、非常にエグイ印象だった。
「女の子を撮る時に、そっちのアングルから狙う?」
とか。また、若い子が抱える、後から振り返ると、
「ちょっと何言ってるのか分かんないんですけど?」
と、サンドウィッチマンの富澤さんから突っ込み入れられそうな、漠然とした不安みたいなものを、真正面から捉える。それが皮肉なのか、刹那的な時間を切り取っているのか観るものの判断に任せるような感じさえあった。そして、全編実験的。映像も構成も、全てが予定調和に納まってない。
3作品の全てを齊藤監督が撮っている訳ではなく、齊藤工総監督といったところだろうか?自分の中で総監督と言えば、三池崇庵野秀明が頭に浮かぶが、実際はどのように作品に携わるのか興味がわく。齊藤監督が、脚本を書いていることから、
「おそらく庵野監督に近い携わり方かな?」
と予想するのだが、監督業って、総監督とか、撮影監督とか、色々あって実際にどのように作品に関わっているのか、漠然としたイメージしか浮かばない。
『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』は、3作とも撮影方法、演出等のベクトルは違えど、かなり尖がった印象を受けた作品だった。観終わってから、後は明日の上映を待つだけだと、少し気合いが入る。


『ATEOTD でぃすたんす』19:20上映


このコロナ禍、チケットの申し込みの過熱振りを目の当たりにして、今回の斎藤工舞台挨拶登壇、ワクワクするというよりも、ドキドキするという感じが勝っていた。それは、いい意味ではなく、
「もし、クラスタが発生してしまったら…」
という悪い予感のドキドキの方だ。

劇場のスタッフも、
・チケットをネット予約での申込み
・入場の順番もあらかじめクジを引いて決定
・申し込んだお客様に、入場順を前もって送信してお知らせ
という、決定から短い時間しかないにもかかわらず、事前準備に手間をかけ取り組んでいる所に、それを警戒しているのは、推して知る所だ。
しかし、それ以上に9月19日の政府発表での、映画館の全席販売の解禁に伴い、別府ブルーバード劇場と斎藤工が、今回のイベントで挑んで来ていることが、ビンビンに伝わってきた。
4月16日に始まった緊急事態宣言。今なお、その影響を受けたまま、観光地の別府市は、非常に厳しい経済的打撃を受けている。それに対して、険しい道の先が少しでも明るくなるよう、映画という光で街を灯したいという熱い思いを感じるのだ。
別府ブルーバード劇場50周年の節目を今回のイベントで飾り、普段なら、喜ばしいことでしかない劇場の満席が、諸刃の剣になる所、あえてコロナ禍にそのリスクに立ち向かう気概を見る気がした。
この気概を遠方から来られたり、初めてブルーバードを訪れる方にも伝わって欲しい、受け取って欲しいと祈らずにはいられなかった。

劇場には、1時間早く着いてしまい、迷惑にならないよう周辺をブラブラして時間をつぶす。上映20分前に、劇場に改めて訪れると、入り口をそっと囲むように人の輪が出来ていた。傍から見ても、非常に柔らかく感じる待機風景。全員がマスクをしており、斎藤工さんのファンは、この状況で何かあると、ご本人に迷惑をかけてしまうのを重々承知しているかのような印象。あらかじめ入場順が決まっていることもあり、チケットの購入、入場待ちに混乱やトラブルは無い。3回目だからなのか、初めからなのか分からないが、劇場側の準備が功を奏しているのが伺える。
入場10分前に、劇場へ誘導開始。2番目に入場し、入り口でチケットをもいでもらい、さらに体温検査。さすがです! 今回の舞台挨拶での体温検査の有無が、気になってたんです。全方位、抜かりなし。

いざ、劇場内へ
映画に集中したい思いもあり、普段から座っている2列目のいつもの席を確保。2年前、井浦新さんの登壇時には、入場順2番に舞い上がってしまい、最前列の真ん中へ座った。別府ブルーバード劇場の最前列は、ソファー席になっており、かなり腰に負担がかかる。1本の映画を観る間、腰は痛いわ、両隣が女性だわで、映画に集中できなかった思い出があり、そこで学びました。
かなり有名な役者が登壇する時は、最前列は女性に譲れ
と。
検温を終えた人達で、どんどん席が埋まっていく。ほぼ満席の劇場は、去年の11月末に開催されたBeppuブルーバード映画祭以来のはず。もしかしたら、その時もこれ程席は埋まっていなかったかもしれない。非常に感慨深い。
別府ブルーバード劇場、初参加のお客様は、ビックリしたかもしれないが、この劇場に予告映像は流れない。
ブーーーーッというブザーが鳴り劇場が暗転、本上映が始まった。
今回の上映は短編が2本
最初の上映は『でぃすたんす』

この作品は、監督・脚本・編集が、清水康彦さん。“STAY at HOME”をテーマに、テレワークを舞台にした映画企画「TOKYO TELEWORK FILM」を齊藤監督が始動した第6弾の作品。齊藤工としては、企画とプロデュースに携わった形になる。
本当に、リモートで撮影されたとは思えない出来栄えだった。とにかく役者の演技が秀逸。特に、滝藤賢一さんと、筧美和子さんの演技には魅入ってしまった。
筧美和子さんは、『あなたの番です』では、ちょっと的を外したような、トリッキーな役で、演技に関してさほど印象に残る所はなかったのだが、今作品では、目線のやり方、投げやりな感じはあるが、決して相手を拒んでいるわけではない空気感の出し方等「さすが、役者!」と、感じ入るシーンが多かった。
滝藤さんは、元々演技が上手いのは承知の上で、とにかく一挙手一投足が自然体。印象に残ったシーンは、年々モジャモジャになる髪型が、モデルを務める雑誌『UOMO』でも気になって気になって仕方が無かった所、この作品でそこをイジったシーンがあり、思わず吹き出してしまった。
演出面では、滝藤賢一演じる男の奥さんとリモートで繋がるシーンで、その時だけスマホのアプリが立ち上がっている画面設定が、やけにリアルに感じた。こういうちょっとしたこだわりや演出が、作品のリアリティを高めているんだなと改めて思う。構成、展開も申し分なく、非常事態宣言下、表現に制限のある中でよくぞ生み出されたと思う作品だった。


そのまま、途切れることなく、次の作品『ATEOTD』へと流れる。

この作品は、モノクロの映像から始まり、非常に凝った画作り。『blank13』に比べると、ひたすら美しく撮影しようとする意図が見える。
それもそのはず、元々は映画としてではなく、安藤裕子さんの『一日の終りに』という曲のMVとして撮影。そのMVから、新たに短編映画として誕生した作品とのこと。
作品の内容にも、このご時世で、色々と考えさせられる所があるのだが、今回は主演のふたりに思いを馳せてしまう。主演は門脇麦と、宮沢氷魚。

門脇麦さんは、顔のラインが非常に独特で、カメラアングルによって顔の印象がかなり違って見える。(個人的な感想ですが)『ATEOTD』は、「ここしかない!」と思えるアングルを狙って撮影している印象があった。とにかく、1枚の静止画としても耐えうるクオリティだと感じる。また、曲に合わせて踊るシーンがあるのだが、圧巻のひと言。クラシックバレエを幼少の頃から中学生まで、本格的に取り組まれてただけあって、指先にまで意識が張り巡らされたような、素晴らしいシーンだった。

そして、相手役の宮沢氷魚。彼がモデルとしてデビューしたとき、お父上の宮沢和史さんとは、あまり似てないなと思っていた。顔つき、スタイル、どれをとっても洗練されて見えた。モデルとして活躍していた雑誌が、『MEN'S NON-NO』というのもあったと思う。
世代的に、宮沢和史という人からは、多大な影響を受けた。世間でいうところのバンドブームと呼ばれた1980年代後半、『THE BOOM』のボーカルとしてデビューした彼の作る曲は、聴く度にその音楽性をドンドン広げていく。
スカっぽい印象で他のバンドと一線を画した『星のラブレター』、矢野顕子さんとのコラボで、奇跡的ともいえるハーモニーを生み出した『釣りに行こう』、トドメは山梨県出身の彼が、これ程までにその地域の魂を受け継ぎ、歌うことができるものなのかと驚いた『島唄』
立ち姿、歌に対する姿勢は、無骨にさえ感じる宮沢和史とは、対局のようなたたずまいの宮沢氷魚。母親から受け継いだものが多かったのかな? という印象だったのだ。だが、今作の彼を観て、
「お父さんに似てきたなぁ…」
と感じ入ってしまう。表情もそうだが、特に印象的だったのが ”声”
感情の入った、演技をする時の声の低さ、響き、張り、宮沢和史から受け継がれたものを確実に感じた。宮沢氷魚の演技を観ると、『受け継ぐ』という意味を改めて深く考えてしまう。

上映の最後の最後で、この『ATEOTD』という不思議なタイトルの意味も初めて分かる。エンドロールが流れ、本作が終わると、劇場内拍手が起こった。作品の素晴らしさもさることながら、おそらくこの時期に別府を訪れてくれた齊藤工監督に、満員の観客を受け入れてくれた別府ブルーバード劇場に感謝の意味も込めて。
なんて、思ってたらエンドロールの後、間髪入れずに『ATEOTD』のメイキング映像が始まる。率先して拍手を送った自分は、タイミングが悪かった気がして、気まずく思ってしまった。
「17:00回の観客方は、いつ拍手したんだろ?」
と、オベーションを入れるタイミングが、いつが正解だったのか不思議に思ったが、劇場側としては拍手が起こったことは嬉しかったようだ。




斎藤工舞台挨拶、トークイベント


上映が全て終了し、司会の森田真帆さんが下手から現れてからの呼び込みで、ステージへ齊藤工監督が登場。
白の『MINI THEATER Park』のTシャツに、かなり幅の広いワイドパンツ、履き込んだ黒のエンジニアブーツに、黒のスワローハット姿。客席が浮ついたり、大きな歓声が上がることもなく、落ち着いた雰囲気で齊藤監督をお出迎え。今回、集まった斎藤工ファンの方々は、マナーいい人がほとんどだと感心した。
本日3回目のトークのためか、森田さんも、齊藤監督もフワッとその場に現れ、自然にトークが始まる。

ここからのトーク内容、メモを取っての参加で無かったため、時系列がバラバラの可能性があります。お読みの方々、ご容赦ください。
って、こんなに長いレポ、まだ読まれてますか? 
途中で読むのを止めてる気もしますが…
もう書く方が、投げ出したい気持ちでいっぱいなのですが…
せっかくなので、続けましょうか?

『ATEOTD』『でぃすたんす』に関して、
この時期でなければ、生まれることの無かった作品
とのことで、特に『ATEOTD』は、コロナウイルスの拡大するスピードに負けない程の速さで、公開までこぎつけたと語る齊藤監督。本撮影は、8月に撮影を行い、クランクアップから公開までが異例の早さ。普通は映画の撮影から公開まで、早くて1年~2年かかるのだが、そこを有り得ない早さで公開まで辿り着けたそうだ。
ストーリーも、このコロナ禍が更に進んだような展開で、風の谷のナウシカを彷彿とさせるような画作りだった。実際に齊藤監督は、門脇さんの暮らす家の設定として、脚本のト書きに ~ナウシカの秘密の部屋のような~ と書いて説明したと話す。
「具体的に作品名を書くのは、恥ずかしいんですが、それが1番伝わりやすいかな」
と、語っていた。
準備段階も、『BG~身辺警護人~』のドラマ撮影の頃にされており、齊藤監督がドラマの撮影現場で資料を広げているところ、主演の木村拓哉さんから
「何やってんの?」
と話しかけられ、その場のやり取りを聞かせていただいたが…… ここは、あえてボカした方が良さそうですね。中々、面白いやり取りでした。
森田さんは、
「木村さん、天然ですか?」
とツッコミを入れてましたが。

キャスティングも、安藤裕子さんの立っての願いで、門脇麦さんにお願いしたいとの話しだったが、それが実現し、『門脇麦』『宮沢氷魚』と、これ以上ないキャスティングができたと振り返る。もしも、このふたりにお願い出来ない時は、安藤裕子ご本人と、斎藤工自らが出演する覚悟だったそうだ。
この話しに森田さんが食い気味に反応。
「私はイカ天世代だから、宮沢くんはお父さんのことを思い出さずにはいられない。彼がメッチャ良かったです」
と、やはり宮沢和史に影響を受けた世代は、同じ感想を持つようだ。しかし、メイキングシーンで見た、演技をしていない時の宮沢氷魚の声は、そんなに父親を彷彿させるような低い声という訳では無かった。
「スイッチが入り、表現者特有の領域に達すると、同じような表現方法が現れるのかもしれないな」
と、ふと思った。

映画の話しが落ち着くと、コロナ禍での東京での暮らしの話しへと。
森田さんの東京で暮らす友達が、今回のコロナ、緊急事態宣言を受けて、軽い鬱になったそうで、厳しい自粛の強いられた、東京の生活ぶりを齊藤監督へ伺う。やはり、コロナ禍でかなりの仕事が、中止なり延期になったそうで、じっと大人しく家にいたそうだ。ただ、規則正しい生活をしないと、ダメになると思い、午前中はベランダに寝転びながら、陽の光を浴び、落語を聴いていたそう。
「やっぱり、齊藤監督って変わってるなぁ」
という印象。
その時、聴くのが落語というのが…… 自分も落語は好きなのだが、ジャンルが隔たっており、『古今亭志ん生』の落語だけを好んで聴く。背筋の伸びた、シャンとした滑舌の良い落語には、全く惹かれず、ちょっとクセのあり、聴いているうちに、ビートたけしの漫才でも聴いてるかのような錯覚に陥る古今亭志ん生の落語だけがお気に入り。
『いだてん ~東京オリンピック噺~』
のキャスティングで、古今亭志ん生役をビートたけしが演じると知った時
「分かってるねぇ」
と思わず唸ってしまった程、ふたりは共通するものを感じる。下町のおばちゃんやらせると、メチャメチャ上手いのだ。
齊藤監督が、陽の光を浴びながら、誰の落語を聴いていたのか訊いてみたい気もした。

森田さんからの
「これから、どのような映画を撮っていきたいか? どのように作品に携わろうと思っているか?」
という質問には、
「人を救える映画を撮っていきたい思いはある。自分の作品が人を救えるとは、おこがましくて到底思えないが、自分自身は映画に救われてきたので、そこを目指して撮りたいと思っている」
というような受け応え。
そして、撮影のこだわり、信条として
「作品の中で、その人物の底辺の部分、絶望に触れてみたいという気持ちがある」
とのこと。
この矛盾したように感じる2つの思いが、『blank13』のようなエグい画作り、蓋をしたくなるような日常の見たくない部分を切り取る演出になるんだろうなと、腑に落ちた。
絶望の中に灯る小さな明かりで、その人物がどれ程救われるか。演出や映像の魅せ方で、その物語に観客がスクリーンを通して触れることで、心に同じような気持ちが、どう届くのかを考え、映像制作に携わっているのではないか、と推測した。

映画の話しは続き、齊藤監督が『SMAP×SMAP』に出演した時に、『SMAPにおすすめしたい映画』というお題に対して『ホドロフスキーのDUNE』を勧めたら、当時上映していたミニシアターに行列ができて連絡が来た話しから、ホドロフスキー監督の話題に。斎藤工祭の一旦を担う上映作品、『MANRIKI』にもホドロフスキー監督の影響があるとのことだった。
「照さん、ホドロフスキーの映画とか観るのかな?」
と尋ねる齊藤監督に
「照さんは、映画何でも観ますよ」
と答える森田さん。
齊藤監督が、劇場の端に座っている照さんに直接
「照さん、どんな作品が好き?」
と尋ねると
「『ひまわり』が好きやな」
と答える照さん。

コロナの影響で、一時閉館していた別府ブルーバード劇場が、再開した時に、この劇場としては珍しく1ヶ月の間、『ひまわり』を上映していた。
自分の好きな映画を、再開した劇場で真っ先にかけたいという思いに、再起を図る決意のようなものが、胸に宿っていたのだろうと思う。コロナって、日常の当たり前だったものを全て破壊し、また改めて1歩を踏み出す時に、何か強い決意をもたらす引き金になっていると、この話しを聴く時に改めて感じた。
その後、トークは終了。今回は撮影NGという触れ込みで、諦めていた写真撮影が、このタイミングで15秒だけ解禁されるという太っ腹。夢中で撮影しましたよ!


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撮影タイムが終わると、斎藤工さんの週刊誌ネタをデザインしたTシャツと、別府ブルーバード劇場のオリジナルTシャツに、サインをしてプレゼントするジャンケン大会が始まる。自分は1回目のジャンケンで早々と退場。
かなり、ジャンケン大会は盛り上がりました。
最後に恒例の記念撮影。

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今回のコロナ禍での舞台挨拶に参加して、緊急事態宣言中の精力的な齊藤工監督の映像制作の数々に触れ、コロナというものをキッカケに、新しい世界が構築され始めてるなと実感した。それと、エンターテイメントへの役者、監督、もっというと、上映場所である劇場の関わりを深く考えてしまった。

今回改めて、齊藤工という監督、斎藤工という役者が、このコロナ禍で積極的に関わった映像作品の多さに驚かされた。コロナの影響で、舞台や撮影が中止になる役者の方々、監督の方々が手をこまねいている様子が、SNSを通して4月くらいから、こちらにも伝わってきていたので尚更だ。身動きの取れないもどかしさ、やり場のない怒りを感じている人もいた。コロナの広がり、緊急事態宣言での自粛生活は、役者だけ、監督業だけに特化した人達には、どうしようもない状況だったと思う。
しかし、俳優業として今までの積み重ねを持ち、なおかつ監督業としても目に見えた結果をカタチにしている表現者『斎藤工』は、このコロナ禍では稀有な存在だったと感じる。制作する側、演じる側、どちらにも立ち位置を持てるのは、かなりの強みとなったはずだ。これから、さらにエンターテイメントに関わる人達の有り様が、問われる時代が来る時、その正解ではないが、突破口のようなものを斎藤工が、身を持って示したと、今回の舞台挨拶に参加して、リモート企画の上映作品を鑑賞して感じたことだった。

また、この舞台挨拶、トークイベントで、『blank13』の疑問点を直接本人にぶつけてみることなく、自分の中で腑に落ちる手応えをつかめたのは、今後、直接役者の登壇する舞台挨拶でなくても価値のある舞台挨拶が、リモートでも行えるのではという、可能性を感じることでもあった。あらかじめ、質問を集め、それに完全に答えてもらえる形のトークイベントがあれば、有料でも参加したいと思う人は多いのではないだろうか。
確実にアフターコロナのエンターテイメントは、リモートという選択を迫られるだろう。この先、直接人に会うという機会は、今以上に贅沢になるのだろうなと感じ、今まさに贅沢な時間をブルーバード劇場からもらっているんだと噛み締めながら帰路に着いた。


翌日

普段なら、ここでレポは終了するのだが
翌日の朝、この舞台挨拶に参加して感じたこと、心の中に漂っているカタチにならないフワフワとしているものを、どうやって文字にしようかとボンヤリしている矢先、竹内結子さんの訃報が飛び込んできた。
言葉を失う。
2000年代、あまり映画館に足を運ばない自分が、珍しく劇場に足を運び観た作品が『いま、会いにゆきます』だった。岡田惠和さんの脚本が素晴らしく、観終わってから『ORANGE RANGE』の『花』がかかる度、涙腺の緩む日々が続いた。
また、同じ九州、熊本を舞台にした『黄泉がえり』も強く印象に残っている。竹内結子さんは、自分の胸に刻まれた作品に、数多く出演していた俳優だった。役者という職で、成功を収めているはずの人が、なぜこうも、立て続けに命を断つのか、呆然とするしか無かった。

その時に感じたのは、昨日思ったこととは、逆の思いだった。これからリモートの舞台挨拶が主流になっていくかもしれない。しかし、別府ブルーバード劇場での、登壇者と観客が有り得ない近い距離で接することできる舞台挨拶という機会は、観客側が受け取ることばかりではなく、登壇者として立つ、役者や、制作側の人達に、
「いつも、力をもらってますよ」
「あなたの作品に救われましたよ」
「応援してます。これからも楽しみに待ってます」
のような、思いを伝えられ、少しでもつなぎとめる力になるのではないか?
コロナ禍で、気持ちの弱くなった役者さんや、監督さんが、自分の作品を持って別府に来て、みんなで鑑賞して、ねぎらえるような舞台挨拶があると、いつもは観客が受け取るばかりの場が、逆に与えることのできる機会になるのかな、と考えてしまった。
もっというと、命を断つ名所と呼ばれる場所は、この日本にいくつもあるが、
「もうこれ以上先へ進めない」
「この世界から、いなくなりたい」
と思う人が、その決断をする前に、ボケ~っと温泉に入り、ただただ美味しいものを食べ、また明日を生きていく英気を養う、自生(再生?)の名所に別府はなり得ないものかという思いも湧いた。
お金に少しばかり余裕があって、気が病んでいる人は、どうせ全てを捨ててしまうつもりなら、それを少し先へ伸ばして、別府に来てみませんか?
温泉入って、地のものを食べて、ただただ、ボケ~ッとしてたら、前向きまでは行かないにしろ、悩んだり、苦しんだりしていたことが、どうでも良くなるかもしれませんよ。

信じるか、信じないかは
あなたしだい。





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