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第5回Beppuブルーバード映画祭『ピンポン』窪塚洋介舞台挨拶上映参加レポ。~今年はこれで勘弁してつかぁさい~

第2回から連続で参加している『Beppuブルーバード映画祭』
今年も、規模を縮小ながら開催され、そのほとんどのプログラムに参加することができた。
Beppuブルーバード映画祭は、その参加した全てのレポを極力noteに上げていたが、去年から体力、気力的に難しく
「体力の限界…(涙)」
とは、昭和の大横綱、千代の富士の引退会見での言葉。
自分もそれを実感する日々。

しかし、映画祭への窪塚洋介参加を知り、その上映作品の中で『ピンポン』の名を目にした瞬間の驚きと、今までに感じることのなかった不思議な気持ちに包まれ、今回、『ピンポン』上映は、思いが溢れすぎてnoteにレポをまとめるだろうなと漠然と感じていた。

映画のレポ以外にも、自分語りで迷走しそうですが、過去の自分に報告するつもりで、このレポをまとめたい。


『ピンポン』実写版との、そもそもの出会い


この映画、2002年の公開作品で、かれこれ20年前の作品になる。
今でこそ、ブルーバードへ通い映画を良く観るが、その当時全くと言っていい程映画に興味がなかった。
特に日本映画には。
この作品も劇場で鑑賞はしていない。
エンターテイメント作品として、日本映画というものに全く期待していない時期でもあった。映画を全然観ないかというと、人よりは多くないにしろ、それなりに映画に触れていたとは思う。何本かのお気に入りの作品もあるにはあった。
だが、絶望的に日本映画はつまらないという気持ちは、当時揺るがなかった。

アニメーションでは、心揺さぶられる作品が多くあった。
宮崎駿監督作品は、かなり好きだったし、庵野秀明監督の『エヴァンゲリオン』に関しては、夢中になりテレビ放送分に加え、劇場版まで追いかけていたくらいだ。
しかし、アニメやマンガに比べ、実写の日本映画で、エンターテイメント性を感じ、夢中になれる作品が当時ほとんど無い。
マンガで言えば、荒木飛呂彦の『ジョジョの奇妙な冒険』や、三浦建太郎の『ベルセルク』くらいのエンターテイメント性、熱量のある日本映画と巡り会うことがなかった。またそういう作品を探そうという気持ちさえも湧かなかった。単に受け取るアンテナが立ってなかっただけかもしれないが。
そんな時に、かなり年の離れた弟からこの作品を勧められた。弟は、幼少時漫画家を志すような子供だった。
自分も小学生の頃の夢は漫画家で、Gペンで筆入れする所までは、本気でなれると信じていた。しかし、スクリーントーンを貼ることと、左向き右向きのキャラが同じように描けないことを悟り、その夢はそっと諦めた。
漫画家を志していた弟のセンスは信頼していたため、勧められた『ピンポン』のDVDを借り、観ることにする。

『ピンポン』を観て驚いた。
全く知らない若い役者が沢山出ていたからだ。
日本映画というのは、大体出演する役者が固まっていて、若い役者になれば、事務所の強いところが、演技もあまり上手でない売り出したい役者を無理矢理出演させるものばかりだと認識していたからだ。
ARATA(井浦新)も、大倉孝二も、中村獅童も、荒川良々も、初めて知る役者だった。窪塚洋介くんは、『GTO』や、『池袋ウエストゲートパーク』で知ってはいたが、当時は漫画や原作小説の方を読み込んでいたため、取っ付きにくい印象があったことを覚えている。
『GTO』は、まるっきり別物と捉えた方が良い作品だったし、ドラマの『池袋ウエストゲートパーク』に至っては、原作小説とは異質な感触が残る作品で、KINGやサルが、原作とはえらく違った印象のキャラクターに仕上がっていた。
『池袋ウエストゲートパーク』当時の宮藤官九郎脚本作品には、あまり心動かされず、後々にドハマリしたドラマ『タイガー&ドラゴン』視聴時に、追っかけで『池袋ウエストゲートパーク』、『木更津キャッツアイ』を観ることになる。その時、改めて宮藤官九郎の原作モノの脚本への手腕を知ることとなった。

また、劇中の様々な挿入曲を担当するバンド『SUPERCAR』に度肝を抜かれる。
自分は、音楽関係の仕事に就きたく、東京に出れば何とかなるかもと、計画性もなく上京した20代の頃、食うに食えなくなり裏方の仕事をする会社に就職していていた。その時、年の近い同僚に『SUPERCAR』を勧められる。『SUPERCAR』の曲は何曲か聴いたことがあり、確か何かのフェスに参加している映像をテレビで観て知ったはずだ。
当時はゴリゴリのバンドサウンドで、貸してもらったCDにも、打ち込みの要素など全くなかった。ベース担当の古川美季の歌声が、非常に印象に残るバンドだった。
それ以降、『SUPERCAR』を聴くことは無かったが、『ピンポン』で久々に聴き、あの頃の面影の全くないことに驚く。
テクノは元々好きで、幼少時『YMO』を聴いていたし、『電気グルーヴ』をかなり聴き込んでいた時期があったので、サウンド的には非常に好みの心地いい曲ばっかりだったが、以前の『SUPERCAR』からは想像できない曲の数々だ。
「メンバーが半分以上脱退した?」
と本当に疑わなかった。
曲の印象も、インストメインのあまりふざけていない頃(アルバム『A』とか)の『電気グルーヴ』を彷彿させたが、『ピンポン』に挿入されている曲のほとんどを、元『電気グルーヴ』だった砂原良徳がプロデュースしていることを知り納得がいった。この『SUPERCAR』の曲の数々が、この作品の要所要所を見事に色づけていた。
弟が、『ピンポン』のサントラ版も購入していたので、こちらも借りてかなり聴き込んだ記憶がある。

自分にとって『ピンポン』は、長らく失望していた日本映画の可能性を感じさせてくれた本当に特別な作品となった。


第5回Beppuブルーバード映画祭、開催決定。


普段なら、11月辺りに開催されるはずのBeppuブルーバード映画祭。
今年の開催を知ったのは、久々に参加した大谷映画会のトーク終了後の告知から。まだゲストは誰か分からないまま、すぐに開催予定日の有給を申請した。
その後、発表された告知を3度見することとなる。

く、窪塚洋介!
『ピンポン』という、自分の心に刻まれた大事な作品の主演だった人を目の前で見ることができるとは! 
ただ、上映作品は豊田利晃監督の主演作品だろうと予想していた。
が、その後のプログラム作品の発表で自分の目を疑う。3日目14:00の上映作品として『ピンポン』の文字が… 
夢でも見ているのだろうか?

20代の頃の自分だったら、こう言うだろう
「DVDで1度観た作品、わざわざスクリーンで観直す必要なくね?」
しかし、何度も何度も別府ブルーバード劇場の舞台挨拶付き上映に参加して確信していることがある。
劇場のスクリーンで観るのと、どんなに大きなサイズのモニターでも家で観るのとでは、作品の印象が全然違うということだ。
DVD、ストリーミング配信などの媒体で観る場合、自分の意志で作品を停めることができる。お腹が空いた、トイレに行きたい、話しの展開がダルい等、ボタンを押せば一旦映画を止めることができる。劇場で鑑賞する場合、それができないのは作品に触れる上で非常に意味があることだと今は感じている。
また、スクリーンで観る場合と、媒体で観る場合の集中力の違いもあると思っている。小さなモニターで観ていると伝わってこないが、スクリーンで観るとその細かい表現、描写を想像以上に拾うことができるように思う。

最後に感じる違いは、劇場で観る時の音圧。
これは家庭で鑑賞する時には再現できないものだろう。
それを踏まえ、別府ブルーバード劇場で『ピンポン』を鑑賞できることに、ひとり喜びを噛み締め、『ピンポン』を映画祭の上映作品として準備を進めた運営に感謝しかなかった。


第5回Beppuブルーバード映画祭、最終日


4月20日の『惡党と物書き』上映から始まった第5回Beppuブルーバード映画祭。
水、金、土と、順調に参加、ほぼメインと言ってもいい『ピンポン』の上映にも無事参戦することができた。
劇場内を埋め尽くすパンパンのお客様。窪塚洋介くんの影響力を垣間見る瞬間でもあった。何とかいつも座る2列目に着席、こんな自分を気にかけてくれた常連の皆様、ありがとうございました。

上映初っ端、ファーストシーンでかかるSUPERCAR『FREE YOUR SOUL』の音量の大きさに涙腺が緩んだ。 この先の展開を知っているだけに、挿入曲の『STROBOLIGHTS』、エンドロールの『YUMEGIWA LAST BOY』に、むせび泣くことが確定したからだ。
流石だ! 森田さん分かってる。
この作品、今までDVDでしか観たことが無いが、それでも『SUPERCAR』の曲が流れる度に心が揺さぶられていた。 別府ブルーバード劇場のスクリーンで、爆音で観る『ピンポン』に、泣かない訳がない!

また、宮藤官九郎脚本の凄いところなのだが、いきなりな場面を切り取ったファーストシーンを観ると笑いが起こる。
無理はない、今後の展開を知っていなければ、ただの頭のおかしい少年にお巡りさんが対応するシーンだ。
しかし、これが本編の中盤で観ると泣けてしまう。宮藤官九郎の繰り返し同じシーンを使うが、真逆の印象を与える構成力の巧みさ、原作のある作品でも予定調和で終わらないクドカンらしさを感じる印象的な出だしになっている。
全編通して観て、自分でも驚いたことのひとつに、台詞が大体頭に入っていたこと。この作品を何回観たかは定かではないが、長い間観直したことのない作品の台詞が空で出てくる不思議。
ひとえに役者の演技と、削ぎ落とされ洗練された脚本の力だと感じている。

窪塚洋介くんがゲストなのは分かっているが、作品は井浦新の存在感に目が行く。
佇まい、声のトーン、表情、彼がこの作品で際立っているように感じた。
あの当時、井浦新の線の細さで全く気付かなかったが、後々彼がかなり長身であることを知る。
確かに改めて映像を観ると手足が長く、非常にプロポーションがいい。共演の大倉孝二もかなり背が高いため、対比で映像ではあまり伝わってこなかったように思う。
ここが1番大事なのだが、メガネが似合い過ぎる!
メガネ男子ランキングなるものがあるのなら、ぶっちぎりで優勝して、不動の1位を何度もさらった挙句、殿堂入りするのは間違いないだろう。
映像を国で保護すべきです!





加えて試合シーンのVFXが素晴らしい! 今観ても全然色褪せない。
特に自分の中では、白背景で卓球台からのカメラワークで、ペコが球を打ち返すシーンは、カット割りといい、窪塚洋介の表情といい、最高のシーンと思っている。(ネットでそのシーンを探したんだけど、見つけられなくて残念)

そして、やはりだけど、ペコが特訓するシーン、ドラゴンとの試合のシーンでの『SUPERCAR』の挿入曲で
泣けた…
自分が通う劇場で、決して再上映はされないだろうと、期待すらしなかった『ピンポン』を爆音で観れて、胸がいっぱいになった。



上映後、満を持して窪塚洋介くん登場。 顔ちっちゃ!!


舞台挨拶のトークは、作品を観た余韻と共に非常に心地よい。
司会は劇場をサポートしている映画ライターの森田真帆さん。今回のBeppuブルーバード映画祭で、『ピンポン』の上映を打診したのは森田さんだそうで、窪塚洋介作品でグッとくる作品が同じであって本当に良かったと思った。感謝せずにいられない。
「過去作品のリバイバル上映を、恐る恐るお願いしたんですけど気を悪くしませんでした?」
みたいなことを窪塚洋介くんに訊いていたが、本人としては全然問題ないし、舞台袖で『YUMEGIWA LAST BOY』を聴いてグッと来たとか。
会場に向かって
「今日、この作品初めて観た人はどのくらいいる?」
との質問に結構な人が手を挙げていた。
その人達は、こんな凄い作品を初見で劇場で観る経験ができて、羨ましい限りだった。
また、『ピンポン』撮影時の裏話を沢山してくれた。これは文字に起こすと、作品の夢を壊してしまうので控えたいと思う。このシーンをどうやって撮ったのか? という裏側をサラッと教えてくれたが、
「えっ?! そうだったの!」
という話しが多かった。

世代が近いからか、司会の森田真帆さんが、『池袋ウエストゲートパーク』出演時の話題まで振ってくれた。
窪塚洋介くんが宮藤官九郎との仕事をどう感じていたか非常に気になっており、特に『池袋ウエストゲートパーク』のキングが、原作のキャラとあまりにも違っていた理由を知りたかったのだが、上手に森田さんがそこにトークを繋げてくれた。
初めてドラマを観た時、池袋のチーマーを率いるキングにしては線が細すぎないか? と疑問に思ったのは確かだ。その設定を覆すキャラ付けは宮藤官九郎が脚本で行い、監督が演出したと思っていたが、窪塚洋介くんの提案に、脚本が当て書きで乗っかった形だったことを知る。
堤幸彦監督とのやり取りも非常に興味深く聞かせていただきました。
初めは堤監督が頑なに、窪塚くんの提案を否定していたこと、
「そんなことしたら(キングのキャラを窪塚流に変えること)、出演者全員火傷する!」
とまで言われたが、窪塚くんが
「演じる上で嘘をつくことで、最終話まで持たない」
と、粘り強く堤監督を説得したとか。
最後には折れる形で
「好きなようにやってみなさい」
と半ば投げやりだったこと、でも時を経て、あの時若い窪塚洋介から出た提案に、勝るものを返せなかったことを今でもショックに思っていることなどを話してくれた。
聞きたいことは、全てトークの中に盛り込まれ、何も思い残すこともない、とても贅沢な時間だった。


『ピンポン』上映後


上映後、劇場を出て階段を降りると、目の前の喫煙スペースに窪塚洋介くん…
いや、窪塚洋介さんが。 (作品内で散々「さんくれろ!」って言ってたのでここで改めます)
劇場を出てすぐの所で、劇場スタッフのヒロキくんが
「次の作品へ並ばれる方は、いったん下へお降りください」
と声かけをしている。その声が背中に聞こえる。
お客様への整列の呼びかけをしている風ではあるが、自分には
「窪塚洋介さんに、写真をお願いしたり、サインをお願いしたり、立ち止まって話しかけないで!」
という、心の声が聞こえてくるようだった。

普段散々お世話になっているヒロキくんの心の声をキャッチしたが、
「だが、断る!」
ここで直接本人に、ピンポンを劇場スクリーンで観れたこと、爆音で『SUPERCAR』が聴け嬉しかったことを伝える。
少し負い目を感じていたのだろう、窪塚さんが
「こちらこそ、劇場でかけてもらえて嬉しかったです」
みたいな返答をしている間、少しずつ自分は階段を降りながらの会話になっていた。『SUPERCAR』がかなり好きで、自分も劇中の『STROBOLIGHTS』、エンドロールの『YUMEGIWA LAST BOY』に、グッと来たことを伝えると
「自分もあれにはグッときました。手前味噌でスイマセン」
との答えが。
その時、何段か階段を降りていたが、ハッと顔を挙げた。
『ピンポン』の主演を務めたこの人と、同じ時間、同じ空間で作品を共有できてたんだという実感が、この会話で沸々と沸いてきた。

自分の中で、とても大切な作品である『ピンポン』を、主演俳優の窪塚さんと同じ空間で共有でき、その感謝を直接本人に伝えられるなんて。
「手前味噌でスイマセン」 なんて言葉まで頂くなんて。
今まで色々あったけど 、それでもいい人生だなって 本当に思えた瞬間だった。
そして今回1番心に残ったことは、窪塚洋介さんと会話できたことでも、当時の興味深い撮影の話しを聞けたことでもなく。
別府ブルーバード劇場のスクリーンで、『ピンポン』を観れたこと。
作品を観ることが、1番の満足になったことは、今までで1度も無かったので、今回非常に特別な経験になりました。

映画は映画館で
当たり前のようで、実は奇跡的なこと

改めて感じた映画祭でした。






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