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東大を出たけれど11「キャリア」

 店でレジ番中、ポケットの携帯に着信があった。見知らぬ番号。
 訝しがって放っておくと、留守電にメッセージを入れているのが聞こえる。
「もしもし、お久しぶりです。会社の同期の前澤ですけど。また電話します」
 何年か前に辞めた会社の同僚らしい。何の用か気にはなったが、敢えて折り返し掛けようとは思わなかった。
 特に話したいことなどこちらにはないし、第一顔も覚えていないのだ。
 大学や会社の同期の連中も、真面目に勤続していれば皆ある程度の出世はしているだろう。部下も持ち、収入も生活を安心させるクラスには達してきた頃か。
 それが場末の雀荘メンバーに同期会のお知らせでも?そんなことを吐き捨てるように思って、首を振った。
 自分のこういう所が好きになれない。皆、積み重ねてきたものがあって、それなりのキャリアを築いている。素直に認めればいい。ただ焦燥感にまみれ、現状を憂いているだけの自分は、どこまでも卑屈で矮小だ。
 何年も麻雀屋に勤務して、自分が築けるもの、それは何だろう?

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