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東大を出たけれど16「他所のメンバー」

 知り合いの働いている雀荘が渋谷にあり、ふと赴いた。休日にわざわざ打つ必要もないのだが、他の店の雰囲気に触れるのもたまにはいいだろう。特に他にやりたいこともない。
 知り合いは生憎その日休みだったが、店は平日の昼間にしてはまずまずの盛況ぶりで、やや高めのレートの東風戦にしては若い客も多い。壁に「メンバーの打牌制限は一切ありません」と注意書きが貼ってあり、苦笑した。この断りを納得してくれる客が、うちの店には何人いるのだろう。
 繁華街で一見も多い店なら、客が店に合わせればよい。うちのように常連頼りの場末の雀荘は、ただ客の顔色を伺って接客する他はない。麻雀の内容も然りである。黙聴、引っ掛け、着取り、何かにつけて客は文句を言う。事を荒立てるくらいなら、多少の負け額を払ってでも、客の気に触らないように打つ。別に――一生彼らと付き合う気もないのだ。

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