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東大を出たけれど12「客商売」

 その若いメンバーは、ある客に毛嫌いされていた。理由は、「暗い」とか「愛想がない」とか些細なものである。その客というのが、堅気ではない、その筋の御仁だった。  
 彼自身はいたって真面目で、特に問題のある人間ではない。しかし、筋者というのは総じて我侭で、気に食わないと思う相手には徹底的にそういう態度をとる。
 理不尽な扱いに彼も業を煮やしたのか、ある日意を決して待ち席の御仁に話しかけた。
「僕のどこがいけないんですか?」
 ところがその言い方がまた御仁の癇に障ったらしく、台所に連れ込まれた彼は、執拗に怒鳴られ続けていた。
「てめえ喧嘩売ってんのかこの野郎!」
「客商売舐めてんじゃねえぞ小僧が!」
「てめえのうじうじした女の腐ったような所が全部気に入らねえんだよ!」
 筋者特有の脅し文句が店に響く。有無を言わせぬ、罵声。

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